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M&Aとは?意味や手法、メリットなどをわかりやすく解説!

2019.01.19 M&A知識
オフィスビル

M&Aというと、ひと昔前は「乗っ取り」といった悪いイメージを持たれることもありましたが、企業の成長や事業継承の手段として注目を集めています。なぜ、今、特に中小企業のM&Aが注目されているのでしょうか。M&Aの意味や目的、主な手法などについて解説したうえで、売り手側企業と買い手側企業それぞれのメリットやデメリットについてみていきます。

M&Aとは?

まずはM&Aとは、そもそもどんな意味なのか、また、M&Aが行われる目的や中小企業で必要とされる背景についてみていきます。

M&Aの意味

M&A(エムアンドエー)は、「Mergers and Acquisitions」の略です。「Mergers」とは合併で、「Acquisitions」は買収という意味です。つまり、M&Aとは、企業の買収による合併を意味しています。ただし、M&Aには後述するように狭義と広義の意味があり、狭義では業務提携も含まれることもあります。

M&Aの目的

企業がM&Aによって買収を行う目的は、一つには事業領域の拡大で、新規事業をイチから立ち上げるよりも、M&Aなら短期間で新たな領域への事業拡大を図ることができます。あるいは、買収先企業の支店網を活かすことで、自社で進出していくよりも効率よく、事業規模を拡大していくことが可能です。また、事業規模が大きくなることで、安く仕入れられるようになるなど、規模の経済性を追求する目的で行われることもあります。

この他に、ライバル企業を買収することで寡占化を目指す目的でも、M&Aは実施されています。

「M&A=乗っ取り」や「M&A=身売り」ではない

M&Aは、かつては「乗っ取り」というイメージが強かったかもしれません。しかし、昨今では、「どんな会社でもよいから買いたい」「資金があるからともかく会社を買いたい」といった投機的M&Aは減っています。また、M&Aは事業が立ち行かなくなった会社が叩き売られる「身売り」のイメージがあるかもしれませんが、「M&A=身売り」でもありません。実際に中小企業のM&Aのほとんどは、敵対的なM&Aではなく、友好的なM&Aです。

企業が自社の成長の手段として、会社あるいは事業を買収するのがM&Aです。買収された企業側も、資金をもとに新たな事業を始めたり、あるいは、事業承継のためのM&Aでは、オーナー経営者が株式の売却費用を老後の資金に充てたりできます。今では、M&Aはポジティブな経営手法の一つと位置付けられています。

中小企業でM&Aが必要とされる背景

中小企業庁が2016年にまとめた「事業承継に関する現状と課題について」によると、中小企業の経営者の年齢のボリュームゾーンは、1995年から2015年までの20年間で、47歳から66歳となり、高齢化が進んでいます。また、60歳以上の経営者のうち半数以上が廃業を予定し、そのうち3割弱が「子供がいない」「子供に継ぐ意思がない」、「後継者が見つからない」といった、事業継承できないことが理由となっています。しかし、廃業予定企業のうち、3割ほどは「同業他社よりも業績がよい」と回答していることから、優良企業が事業継承の問題で廃業するケースが今後増えていくことが見込まれているのです。

後継者問題に悩む企業も、M&Aを行うことで、従業員の雇用や取引先の収益の悪化といった問題を解決できます。さらに、これまでのノウハウを活かして、事業の拡大も見込めることから、中小企業のM&Aが必要とされているのです。

M&Aの手法

紙幣

狭義のM&Aと広義のM&A

一般的にM&Aというと、狭義のM&Aを指し、株式譲渡や事業譲渡、合併、分割といった資本の移動を伴う手法が挙げられます。広義の意味では、資本提携や業務提携による協業もM&Aに含まれます。ここでは、広義の意味まで含めて、M&Aの手法について解説していきます。

株式取得

株式取得には、株式譲渡、新株取得、株式交換、株式移転といった手法があります。株式取得によるM&Aでは、基本的に従業員や取引先との契約、資産や負債などは引き継がれます。

株式譲渡

株式譲渡は既存の株式の株主に対して、買い手が対価を支払うことで譲渡するものです。スキームがシンプルであることから、中小企業のM&Aで用いられることが多い手法です。中小企業のM&Aではすべての株式の譲渡により、100%株主となるケースが一般的です。中小企業の場合、オーナー経営者が単独で株式を保有しているか、親族のみで保有しているケースが多いため、株式の譲渡の意思を取りまとめのしやすさが要因となっています。

買い手側からみると、議決権のある株式の過半数以上を保有すると、単独で取締役を選任できるため、経営権を握ることができます。また、議決権のある株式の2/3以上を保有すると単独で特別決議を成立させることが可能です。ただし、中小企業の経営では、100%株主になることで、少数株主の意見にもとらわれることなく、機動力に富んだ経営をしやすくなる面があります。

売り手企業側のオーナー経営者は、借入の個人保証や提供している担保を外すことができる、流動性のない非上場株式で創業者利益を得ることができるといったメリットがあります。買い手側は、人材やモノなどの経営資源、ブランドやノウハウ、特許や許認可、取引先などの無形資産を包括的に手に入れられることがメリットです。ただし、簿外債務や偶発債務によるリスクがあるため、公認会計士や弁護士などのプロによるデューデリジェンス(買収監査)を徹底的に行うことが大切です。

株式の持ち分割合による株主の権利や、特別決議などについては、『株式の保有割合による株主の権利は?会社支配に必要な持ち株比率は?』で詳しく解説しています。

新株取得(第三者割当増資)

新株取得(第三者割当増資)は、新株発行を行い、買い手側が引き受けて株主となるものです。買い手側が100%株主になることはできないため、経営権を握るためには少なくても、新株の引き受けによって議決権のある株式の過半数以上を保有することっが必要です。また、株式譲渡によるM&Aでは、株式譲渡に反対する株主がいるため、買い手側が望む株式保有割合の確保が難しいケースでは、新株取得のスキームが併用されることもあります。

新株の発行による対価は売り手企業に入るため、経営権の移転に関わるだけではなく、資金調達の面も併せ持つ手法になります。

株式交換

株式交換は売り手企業の株式を保有する株主に対して、買い手企業の株式を対価として渡す方法です。親会社が子会社を完全子会社化を図る際に用いられることが多い手法です。反対する株主がいる場合でも、子会社の株主総会の特別決議によって、強制的に時価で買い上げることが可能となります。子会社の買収にあたって、資金を必要としない点もメリットとなります。

株式移転

株式移転は株式交換と似た手法ですが、新たに持株会社として会社を設立し、新会社の株式を対価にする点が株式交換とは異なります。

事業譲渡

事業譲渡は売り手側企業の事業の全部、または一部を買い手側企業に譲渡するものです。引き継ぐ事業や従業員、取引先との契約、資産や負債などは、一つ一つ決めていきます。ただし、雇用契約や取引先との契約など、買い手側が引き継ぐ契約に関しては、相手側の同意が必要な点に注意が必要です。

事業譲渡は、売り手企業が一部の事業だけ切り離したい場合や、買い手側企業が事業や負債を選択して引き継ぎたい場合などに用いられる手法です。事業等の売却の対価は、売り手企業に入ります。

事業譲渡によるM&Aは、買い手企業にとって簿外債務の発覚によるリスクがないことや、引き継ぐ事業や資産、負債などを選べることがメリットです。ただし、取り決めることが多いため、株式譲渡によるM&Aよりも成立までに時間を要することがデメリットといえます。

事業譲渡に関しては、『中小企業の事業売却のメリットやデメリットとは?従業員はどうなる?』で詳しく解説しています。

合併

合併とは、複数の会社を一つの会社に結合する手法で、吸収合併と新設合併があります。吸収合併は、一方の企業が存続会社となり、もう一方の企業の法人格は消滅させるもので、消滅する企業の株主には、存続会社の株式が交付されます。新設合併は、双方の法人格を消滅させて、新設会社が吸収するものです。新設合併は両社が取得していた許認可などをすべて撮り直さなければならないなど手続きが煩雑なため、吸収合併が選択されることが多いです。

事業承継のためのM&Aでは、持ち分比率によって、どちらが経営権を握るかという問題が発生しやすいため、合併という手法は使われにくいです。中小企業のM&Aでは、非上場株式の流動性の低さから消滅する企業の株主が存続会社の株式を受け取っても現金化できないという問題もあります。こうした理由から、中小企業のM&Aで、初めから合併の手法がとられることは限定的であり、一旦株式譲渡を行った後、合併するケースが一般的となっています。

分割

分割は企業の事業の一部を切り離して、他社に引き継ぐ手法で、新設分割と吸収分割に分けられます。新設分割は、新たに設立する会社に切り離した事業を引き継ぎます。吸収分割は、既存の企業が切り離した事業を引き継ぐものです。

分割は事業部門ごとに分割して譲渡することが可能であり、さらに、事業譲渡と異なり、契約や資産、人材などを包括的に引き継げることがメリットです。事業譲渡において、人材が引き継げないリスクや許認可が取得できないリスクを軽減することができます。ただし、分割も株式譲渡よりも複雑なスキームになるため、実現までに時間を要します。

資本提携・業務提携

業務提携には、ライセンス契約や共同開発契約による技術提携、製造委託契約による生産提携、販売提携や仕入れ提携などがあります。資本提携は株式の一部を譲渡するものです。

持株会社とするケースも

持株会社とは、傘下となる企業の支配を目的としている会社です。持株会社には、純粋持株会社事業持株会社、金融持株会社という種類があります。純粋持株会社は、事業活動を行わず、他社の支配のみを目的としている会社です。事業持株会社は、事業活動を行い、他社を支配している持株会社です。金融持株会社は、銀行や証券会社、保険会社といった金融機関を支配する持株会社をいいます。

M&Aでは、株式譲渡の際などに持株会社を使った手法がとられることもあります。

M&Aの売り手側企業のメリット

経営者の男性

中小企業が売り手側企業の場合、M&Aを行うことで、後継者問題が解決できるとともに、従業員の雇用の安定を図れるといったメリットがあります。また、創業者利益を得ることができれば、老後の生活資金に充てられるだけではなく、相続税の支払い資金を確保することも可能です。

後継者問題が解決できる

中小企業では業績が好調であっても、子供がいない、子供が継ぐ意思がないといった理由で後継者が存在しないため、事業の継続が困難なケースが少なくありません。また、社員に事業を継承させるには、一般的なサラリーマンでは株式の買い取り資金を賄うことができないという問題が発生します。また、管理職としては有能であったとしても、経営者として事業運営を行う能力を有しているとは限りません。M&Aによって第三者が事業を承継することで、後継者問題の解決を図ることができることがメリットです。

従業員の雇用の安定が図れる

後継者問題などにより廃業した場合には、従業員の雇用の問題が生じます。M&Aによって優良企業に事業が継承されれば、従業員の雇用の安定を図ることが可能です。さらに、買い手側企業の規模などによっては、これまでよりも人材育成に力を入れていたり、多彩なキャリアパスが描けたりするなど、従業員の活躍の場が広がることもあります。

廃業コストが不要になる

企業が廃業する際には、設備や在庫の処分費用、解雇する社員への手当や退職金、事務所を借りていた場合には原状回復費用などがかかります。また、解散登記などを司法書士に委託したり、税務処理を税理士に頼んだり、社会保険関係の手続きを社会保険労務士に依頼するなど、事務手続きに関する委託報酬も必要です。廃業せずに事業を継続するという選択をすれば、こうした廃業に関わるコストが不要になることもメリットです。

創業者利益を得られる

M&Aによって株式譲渡などを行うと、創業者は株券を現金化することで、会社の経営状況などにもよりますが、創業者利益を得られます。余生を楽しむための資金を手にして、悠々自適の生活を送るハッピーリタイアを実現することができるのです。

相続税を支払うための現金が確保できる

突然、経営者が亡くなった場合、相続税の支払い資金の問題が起こることがあります。非上場企業の株式も相続税の対象になり、相続税の申告と納付の期限は亡くなった被相続人が死亡したことを知ったときから10ヵ月以内です。延納制度もありますが、税額が100万円を超えると担保が必要となり、延納利子税も発生します。また、非上場株式は諸条件はあるものの、相続税の物納の対象になりますが、相続税評価額での物納となるため、含み益がある場合は不利です。

しかし、経営者が亡くなってから、未上場企業の株式をすぐに現金化するのは難しいものがあり、急いで株式譲渡を行おうとすると買い叩かれることも危惧されます。そこで、経営者の存命中にM&Aを行っておくと、適正な価格での株式譲渡が可能となり、相続税を支払うための現金を確保することもできるのです。事業承継者がいない場合や、相続税の支払い資金の問題がある場合は、経営者が元気なうちにM&Aを行うことを検討しましょう。

M&Aの売り手側企業のデメリット

M&Aは売り手側企業にとって必ずしもメリットがあるとはいえず、経営状態などによってはデメリットもあります。

想定した価格で売却できないことがある

M&Aでは想定していた価格で、株式譲渡や事業譲渡が行えないケースや、そもそも買い手が現れないケースもあります。基本的には将来どの程度の収益が見込めるかどうかが評価の基準となります。非上場株式には様々な譲渡価格の評価方法がありますが、決まったものはありません。適正な価格での売却を実現するには、市場動向や業績から売り時を逃さないことと、M&A仲介会社の見極めがポイントになります。

M&Aの買い手側企業のメリット

ビル

買い手側企業はどのような目的からM&Aを行うのか、M&Aのメリットからみていきます。

既存の事業の拡大を図れる

日本は人口減少時代を迎えて、今後、国内のマーケットは縮小に向かうとされている中、短期間で大きく売上の拡大を図ることはもとより、これまでの売上を維持することも困難になっていきます。そこで、買い手側企業は同業種の企業から株式譲渡や事業譲渡を受けることで、売り手側企業の持っていた販売網を活かして、シェアの拡大を図れます。また、取引量が拡大することで仕入れ価格を下げられる、知名度が向上する、効率的に人員を配置しやすくなるといった規模の経済性も期待できます。M&Aによって買い手側企業は、既存の事業の拡大を図れるというメリットがあるのです。

新規事業への参入のハードルが下がる

M&Aによって、他業種の企業から株式譲渡や事業譲渡を受ける場合には、新規事業への参入のハードルが下がることがメリットです。新規事業へ参入するには、準備段階から時間も費用もかかり、業種によっては許認可をとることも必要です。しかし、新規事業を進めた結果、必ず利益が得られるとは限りませんのでリスクを伴います。M&Aという手法をとること、支店や販売網、あるいはノウハウなどを得ることが可能であり、株式譲渡では許認可もそのまま使えるケースが多いです。つまり、新規事業への進出によるリスクを抑えられるうえに、準備段階から事業として採算がとれるようになるまでの時間をお金で買うことができるのです。

M&Aの買い手側企業のデメリット

M&Aによって買い手側企業に事業拡大の効果が期待できる一方で、買い手企業は取引先や社内からの反発を受けるなどデメリットもあります。

取引先の反発を受けることがある

M&Aによって経営陣や経営方針が変わると、主要な取引先や仕入れ先からの反発を招き、最悪の場合、契約の解除に至るケースもあります。契約にチェンジオブコントロール条項が盛り込まれている場合は、経営権の移動が契約の解除事由となり、通知を行う、あるいは承諾を得ることが求められています。事前に売り手側企業に対するデューデリジェンス(買収監査)の際に、契約内容を確認しておくことが大切です。

また、チェンジオブコントロール条項が盛り込まれていない場合にも、長年のオーナーとの関係性によって取引が継続されていたようなケースでは、取引が停止されることがあります。事前にオーナーに根回しを依頼するなど、関係を継続できるよう協力を求めましょう。

組織拡大による弊害が起こることがある

M&Aによって、売り手側企業の社員の反発を招いてしまうと、サボタージュや大量退職を招く恐れがあります。一般社員にM&Aを発表する前に幹部社員には一足早く伝えておく、大きく体制を変化させないソフトランディングによる経営を行うことを周知するといった対策が必要です。

また、M&Aによって組織が拡大することで、カルチャーの違う社員同士の融合が図りにくい、意思決定のスピードが鈍化するといった弊害が起こることもあります。

簿外債務が発生するリスクがある

M&Aの実行後に、貸借対照表上に記載のない簿外債務が発覚するケースがあります。また、今後、訴訟を起こされることで発生する可能性がある偶発債務も把握しておかなければ、大きなリスクとなります。デューデリジェンスの際に簿外債務の有無について確認しておくとともに、想定以外の債務が発生するリスクについても勘案しておくようにしましょう。

まとめ

中小企業のM&Aを行うことで、売り手側企業は雇用の確保を図ったり、経営者が創業者利益を享受したりすることができます。また、買い手側企業は既存の事業の拡大や新規事業へ進出するための手段とすることが可能となります。M&Aは適正な価格で取引を行うことで、売り手側企業と買い手側企業のそれぞれにメリットを及ぼすことができる手法といえるでしょう。