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事業承継計画の基本の流れとは?3つの方法のポイントを解説!

2019.03.09 事業承継
老人

中小企業のオーナー経営者にとって、事業承継はいつかは避けては通れない道です。かつては、子供などの親族への承継が中心でしたが、昨今では従業員への承継やM&Aによって第三者へ承継するケースが増加しています。

スムーズに事業承継を行い、企業を存続させていくためには、事業承継計画を策定し、計画的に事業承継を進めていくことが大切です。事業承継計画の基本的な流れを見ていくとともに、親族承継と従業員への承継、M&Aによる第三者への承継の3つのスキームのポイントについて解説していきます。

事業承継をしていない場合のリスクとは

2つのビル

事業承継を進めずに、経営者が高齢化していくことには、いくつかのリスクがあります。事業承継対策を行わずにいると、安定した経営を続けることが難しくなる可能性があり、会社の存続にも関わってくるのです。

経営者の判断能力が低下する

経営者が高齢化すると、健康状態が悪化するリスクが高まります。持病を抱えていたり、入退院を繰り返していたりする状態では、会社の経営に注力するのは難しいでしょう。すると、経営者の判断能力が低下することで、経営状態が悪化して事業存続の危機に陥るリスクがあります。

後継者に株式を集中できない

経営者が事業承継を進めずに亡くなった場合、後継者に株式を集中できないリスクがあります。60歳を過ぎると生存率が下がっていくため、万が一の事態が起こる可能性が高まります。

経営者が亡くなったときに遺言書が残されていない場合、相続人が遺産分割協議で相続財産を決めます。法定相続分通りの相続では、後継者が株式の大半を相続することが難しくなるかもしれません。また、そもそも誰が後継者になるのか揉めて、お家騒動に発展することさえあります。そこで、たとえば、経営者が遺留分に配慮した遺言書を残し、後継者が株式を相続するようにしておけば、スムーズに事業承継を行うことが可能です。

株式の持ち分による権利については、『株式の保有割合による株主の権利は?会社支配に必要な持ち株比率は?』で詳しく解説しています。

事業承継対策を進めにくい悩みとは

事業承継対策は早めに進めておくべき課題ですが、実際には早期の対策を行う難しさがあります。主に3つの要因があり、1つ目は経営者が多忙で経営に注力しているため、事業承継に関して考える余裕がないケースです。目先の経営に追われていると、将来のリスクへの対策が遅れてしまいがちです。

2つ目は、経営者としての影響力を保持したいと考えているケース。経営者が会社だけではなく、家族や親族の中でも「社長」としての立場を失いたくないと考えているケースでは、後継者問題を先延ばしにしてしまいがちです。

3つ目は、事業承継問題は社長が死を迎えたり、健康状態を悪化させたりしている事態を思い起こさせるため、周囲からは言いにくいという理由によるものです。経営者がまだまだ元気なうちから、周囲の家族や従業員から事業承継の話をするのは言いにくいものがあります。

こうした要因を踏まえると、周囲が事業承継問題について進言するか悩みを持つ前に、経営者自身が決断をして、事業承継を進めていくべきなのです。

事業承継計画のフロー

事業承継計画を進めていくには、具体的に何をすればよいのでしょうか。流れをステップ1からステップ4までの段階に分けて紹介していきます。

ステップ1:現状の把握

事業承継計画を立てる前に、まずは、会社や経営者自身が置かれた状況を把握しておく必要があります。

会社の経営資源や経営リスク

会社の経営資源や経営リスクは、会社の価値や事業継続が現実的であるかを判断するポイントになります。会社の資産や負債、キャッシュフローなどの財務状況や、経営資源となる従業員の年齢やスキル、人数、現状の競争力や将来性などについて把握しておきましょう。

経営者の状況

経営者の株式の保有割合によって、後継者に株式をスムーズに集中しやすいかどうか変わります。経営者の個人の資産や負債の状況は、引退後の経営者の生活や相続の問題に直接関わります。また、経営者が会社の借入の連帯保証をしている場合、事業承継において取り扱いが課題となります。経営者の個人の資産と法人の資産の区別が曖昧な場合、事業承継の障壁となりやすいです。

後継者候補の有無

後継者候補がいるかどうか、あるいは後継者候補がいる場合、親族なのか従業員なのによって事業承継方法は変わってきます。また、後継者候補のこれまでの経歴や意欲を踏まえて、経営者としての適性も見極めておく必要があります。

相続で予想される問題点

法定相続人や法定相続割合、遺留分、経営者以外の株式の持ち分などから、後継者に株式を集中させるにあたって障害がないか確認します。相続税額についても試算し、無理なく納付できるか検討します。

ステップ2:事業承継方法の決定

事業承継方法は主に、親族承継、従業員への承継、M&Aによる第三者への承継の3種類です。それぞれのメリットやデメリットをもとに、自社の実情にあった方法を選択しましょう。

親族承継

親族承継は子供や兄弟、甥姪、配偶者、娘婿などの親族を後継者とする方法です。親族承継は従業員や取引先からの理解を得られやすく、早期に後継者を決定しておきやすいことがメリットです。後継者が会社の株式の大半を相続すると、会社の所有と経営を分離せずに済むため、経営を安定化させることもできます。

ただし、親族承継は親族の中に後継者を志す人材がいるとは限らず、仮に後継者を希望する人がいたとしても、適性があるとは限らない点が難点です。あるいは、複数の相続人の中から後継者を決めなければならない、後継者となる相続人に株式を集中させつつ、他の相続人の相続財産にも配慮しなければならないといった難しさもあります。

従業員への承継

従業員への承継は、親族承継よりも多くの人の中から後継者を募れることがメリットです。長期に渡って在籍している従業員の場合、現経営者の経営方針を引き継ぎやすい面があります。

ただし、管理職として優れた人材であっても、経営者としての資質が伴っているとは限らず、従業員の中には適任者がいないケースが少なくありません。また、資金力の問題から、従業員が後継者になると株式を取得するのが難しく、経営と所有が分離すると経営の安定性が図れないことが危惧されます。また、親族が承継するケース以上に、経営者が借入の連帯保証をしている場合、連帯保証の引き継ぎが課題となります。

M&Aによる第三者への承継 

M&Aによる第三者への承継の場合、外部から幅広く後継者を募ることができるのがメリットです。また、通常、株式譲渡という形をとるため、株主である現経営者は創業者利益を得ることができます。

ただし、経営の一定性を保つのが難しい、希望する条件で買収してくれる買い手企業を見つけるのが難しいといったデメリットもあります。

ステップ3:事業承継計画の策定

事業承継の方法を決定した後、事業承継計画を中長期経営計画に盛り込んで策定していきます。事業承継計画事業承継の方法や時期、相続税対策や後継者教育、サポート体制などを計画しておくものです。

たとえば、親族承継を行う場合、事業計画と現経営者と後継者の項目をつくります。現経営者が後継者を発表する時期や遺言書を準備する時期、生前贈与など株式の譲渡計画、後継者や現経営者の役職や代表権を渡す時期などを記載します。

ステップ4:事業承継計画の実施

事業承継計画の策定に沿って、事業承継を進めていきます。親族承継と従業員への承継、M&Aによる第三者への承継のそれぞれのスキームをみていきます。

親族承継の場合

親族承継では、複数の後継者候補がいる場合には、実際に後継者になる人以外から、理解を得ておくと事業承継をスムーズに進められます。従業員や取引先に対して事業承継計画を公表し、協力を求めます。また、次の経営者に交代するのに合わせて、経営陣全体の世代交代も進めていくことも検討しましょう。後継者が経営者とし会社を運営していくことができるように、現経営者自らが教育を行うほか、外部の機関も利用して教育を行っていきます。

後継者が重要事項を決定できるように、後継者や後継者と友好関係にある株主で、議決権のある株式の2/3に以上を保有するのが理想的です。遺言や生前贈与のいずれかの方法で、後継者に株式を集中できるように相続対策を進めます。

遺言書には、自分で日付や氏名、遺産の相続内容を記す自筆証書遺言と、2人以上の証人とともに公証人役場で作成する公正証書遺言があります。自筆証書遺言の方が簡単に作成できますが、不備により無効となるリスクを避けるため、公正証書遺言の方が望ましいです。

ただし、遺言書を残していても、生前贈与の場合でも、配偶者や子供には遺留分あるため、最低限の財産を相続する権利があります。たとえば、妻と長男、次男の2人が法定相続人の場合、法定相続割合は妻が1/2、長男と次男それぞれ1/4です。もし、経営者が後継者となる長男に全財産を残すという遺言を残していたとしても、遺留分として妻は相続財産の1/4、次男は相続財産の1/8を相続する権利を主張することが可能であるため、長男に集中できる財産には限度があります。トラブルを避けるため、遺言書は遺留分に配慮することが大切です。そのため、株式の評価額とそのほかの相続財産の価額によっては、後継者が安定的な経営を図るための株式を保有することが難しいことも考えられます。

そこで、定款によって親族以外への売却を禁止する方法や、後継者以外が相続する株式を議決権制限株式にするといった方法があります。また、反対に後継者が株式の大半を相続することで、相続税の負担が大きくなることが考えられますので、事前に税理士などの専門家に相談しておきましょう。

株式を後継者に生前贈与しておく方法を選ぶと、後継者としての地位が明確になります。ただし贈与税の課税の対象となるため、通常の暦年課税制度と相続税精算時課税制度のどちらが有利であるか、検討しておく必要があります。たとえば、相続時精算課税制度では、株式は贈与時の時価での評価となるため、今後、株価が上昇することが見込める場合には相続時精算課税制度を利用した方が有利です。

既に株式が分散している場合には、現経営者や後継者が買い取るほか、会社が自社株を取得する方法をとることも可能です。

従業員への承継の場合

従業員への承継での後継者候補は、共同創業者や専務など番頭格の役員のほか、経営陣の若返りを図るため、若手の役員や管理職の従業員などが考えられます。また、子供に承継するには年齢や経験などから無理がある場合、中継ぎとして一時的に従業員に承継するケースもあります。

従業員が後継者になる場合も、ある程度、株式を後継者に集中させた方が経営の安定を図ることができます。しかし、従業員が承継する場合には、株式を買い取る資金がないことが問題となることが少なくありません。そこで、経営陣が企業の資産や将来のキャッシュフローを担保に、投資ファンドなどからの出資や金融機関からの融資を受けて株式を買い取るMBO(Management Buyout)という手法が用いられることもあります。ただし、MBOを実現するには、後述するM&Aと同様に企業価値を高めておくことが必要です。

また、ある程度、後継者が自己資金などで株式を取得可能な場合は、親族には議決権制限株式を相続させて、後継者に普通株式譲渡する、事業承継後の一定期間、現経営者が拒否権付き種類株式を保有しておくといった方法も考えられます。

このほかに、従業員以外にも、取引先の企業や金融機関から人材を招き入れて後継者とする方法もあります。しかし、これまで自社の従業員との関わりがなく、社内に基盤を持っていない場合は従業員の反発を招きやすいです。

従業員へ承継する場合には、後から継ぎたいという親族が出てトラブルにならないように、親族内で承継を希望する人がいないか、確認をとっておくことが大切です。従業員への承継は、従業員や取引先の理解を得るのに、親族承継よりも時間がかかることが多いため、早めに準備を進めておく必要があります。

従業員を後継者にする場合に問題になりやすいのは、経営者個人が連帯保証や担保の提供を行っているケースです。金融機関との話し合いが必要になりますが、現経営者に変わって、後継者が連帯保証や担保の提供を求められることが多いです。後継者にとって大きな負担になりやすく、後継者となることを取りやめるケースもあるほどです。個人保証や担保を外すのが望ましいですが、難しい場合は負担に見合った報酬を支払うといった対応策が考えられます。

従業員を後継者にする場合は、社内のことに対する知識はある程度持っていますが、経営者としての教育が必要になります。

M&Aによる第三者への承継の場合 

M&Aとは「Mergers and Acquisitions」の略で、企業買収という意味です。M&Aによる第三者への承継という手法は、親族や従業員に後継者の適任者がいない場合に用いられることが多いです。M&Aによる第三者への承継は近年増加しています。後継者が見つからずに廃業に追い込まれると、従業員や取引先に影響を及ぼすため、雇用の維持や取引先の仕事の確保を図るため、第三者は会社を売却して事業継続してもらうことも選択肢となります。株式譲渡による第三者への承継の場合は、経営者が株式の譲渡資金を老後の生活費に充てることができます。

M&Aによる第三者への事業承継は、会社を全部譲渡する方法と会社の一部を売る方法があります。会社を全部譲渡する場合は、株式譲渡の手法が用いられることが多いですが、合併や株式交換などの手法もあります。会社の一部を売る場合には、事業売却のほか、会社分割という手法もとれます。(M&A の手法については、『M&Aとは?意味や手法、メリットなどをわかりやすく解説!』で詳しく解説しています。)

M&Aによる第三者への事業承継を目指す場合は、買収先企業を自力で探して条件交渉を行うのは難しいため、通常、M&A仲介会社を利用します。M&A仲介会社がリストアップした買い手候補企業にまずは企業名を伏せたノンネームシートで打診が行われ、興味を持った企業と交渉を行い、おおまかな条件が整った段階で基本合意契約を結びます。買い手側企業によるデューデリジェンス(買収監査)の後、問題がなければ譲渡契約に進む流れです。デューデリジェンスとは、買い手側企業が公認会計士や弁護士などの専門家に依頼して、税務や法務、労務などの面から、買収が問題ないかチェックすることをいいます。(会社売却の詳しい流れについては、『会社売却の方法や手続きの流れは?相場や税金まで徹底解説!』を参照ください。)

M&Aを成功させるためには最終的な合意に至るまで、従業員や取引先に情報を漏らさないことが大切です。また、買い手側企業にとって魅力的な企業となるように、事前に企業価値を上げておくこともポイント。たとえば、業務改善を進める、無駄な経費の支出を抑えるなどして、利益業績の改善を図ります。また、経営者から役員や管理職への権限の委譲を進める、経営者個人と法人の資産の区別を明確にしておくことも大切です。

後継者教育の方法

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親族や従業員を後継者にする場合は、計画的に後継者教育を進めておく必要があります。自社の状況や後継者の経歴によって適切な教育方法は異なる部分もありますが、一般的な方法をみていきます。

社内での教育方法

自社の事業内容や業務への理解を深めるためには、各部門にローテーションで配属し、現場で必要な知識を身につける方法が有効です。自社の事情に精通した後は、経営幹部として責任ある立場で事業運営に関わっていきます。現経営者から権限を徐々委譲していき、重要な意思決定を任せていくと、経営者としての意識が芽生えやすく、事業承継がスムーズに進められます。たとえば、子会社や関連会社の経営を任せてみると、経営者としての資質を確認する機会にもなります。また、現経営者が精通している業界の裏事情やノウハウなどを伝えて、直接指導していきましょう。

外部の機関等を利用するのも手

後継者の経験が浅い場合や自社以外の事情に疎い場合には、他社での勤務を経験して、ノウハウを得たり、人脈をつくったりする方法も考えられます。また、二世などを対象としたセミナーに参加すると、経営者として必要な知識を効率よく身につけたり、視野を広げたりすることが可能です。公的な機関でも、全国の商工会議所や中小企業大学校で、後継者の育成に役立つセミナーや研修を開催しています。

まとめ

親族や従業員への承継は適任者がいて、事業を継ぐ意思がある場合に限られます。後継者がいない場合には、M&Aによる第三者への承継を進めることで、従業員の雇用を守り、取引先への影響を抑えることができます。

事業承継は経営者が健康に問題ない時期から進める時間をかけてことで、スムーズに権限を委譲しやすくなります。後継者候補がいない場合には、まずはM&A仲介会社に相談してみましょう。