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事業承継税制で注意すべき5つのデメリット

2020.10.07 事業承継

事業承継を行うと、多額の相続税や贈与税がかかります。

そんな重い税負担を回避する手段の1つが「事業承継税制」です。

相続税や贈与税を猶予・免除してもらえる制度として、中小企業からの注目を集めています。

相次ぐ改正により使い勝手が良くなっている事業承継税制ですが、実はいくつか注意すべきデメリットもあります。

今回の記事では、事業承継税制が持つ5つのデメリットを詳しく解説します。

事業承継税制ってどんなメリットがあるの?

まずは、簡単に事業承継税制を利用するメリットをお伝えします。

事業承継税制を利用するメリットは、事業承継で生じる多額の税負担を軽減できる点です。

通常事業承継では、自社株を後継者に引き継ぐ際に、多額の贈与税や相続税がかかります。

会社の業績次第ではあるものの、数百万円〜数億円に上る税金が課税されるケースも少なくないため、後継者にとっては大きな負担です。

そこで有用となるのが事業承継税制です。

要件を満たせば、最大で相続税や贈与税の全額が納税猶予されます。

また、事業承継税制を活用した後継者が死亡すれば、最終的に猶予されていた税金は免除されます。

つまり、税負担をまったく負わずに事業承継を果たせるわけです。

納税資金の確保が困難な中小企業にとって、数百万円かそれ以上の税金を支払わずに済む点は、非常に魅力的なメリットに感じるでしょう。

参考:法人版事業承継税制 国税庁

デメリット①:手続きが非常に複雑かつ面倒

最大のデメリットは、とても面倒で複雑な手続きをこなさなくてはいけない点です。

具体的には、下記の手続きが最低限必要です。

  • 都道府県庁への認定申請(相続開始後8ヶ月以内または贈与の翌年1月15日まで)
  • 認定書写しの提出(税務署への申告時)
  • 都道府県に年次報告書を提出(年1回)
  • 税務署に継続届出書を提出(申告期限後5年間は年1回、それ以降は3年に1回)

ただし上記は、通常の事業承継税制(一般措置)を利用する場合に必要な手続きです。

一般措置だと、「納税猶予の対象株数が3分の2まで」と「納税が猶予される割合が相続の場合で80%(贈与は100%)」という制限があるため、使い勝手があまりよくありません。

すべての株式について100%の猶予を受けるには、事業承継税制の特例措置を利用しなくてはいけません。

特例措置の利用では、特例承継計画と呼ばれるものを作成し、認定支援機関に確認してもらった上で、都道府県庁に提出する必要があります。

このように手続きが非常に複雑であるため、事業承継税制の活用を諦める中小企業は少なくありません。

※参考

事業承継の際の相続税・贈与税の納税猶予及び免除制度 中小企業庁

No.4439 非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除の特例等 国税庁

デメリット②:取り消された場合に多大な税負担が発生する

事業承継税制で注意すべき2つ目のデメリットは、猶予が取り消された場合に多大な税負担が発生する点です。

事業承継税制には取消事由があり、この事由に該当すると納税猶予の認定が取り消されてしまいます。

具体的な事由としては、「雇⽤の平均8割維持要件を満たさなくなること」や「資本⾦を減少させること」などがあります。

万が一認定が取り消されると、一部のケースを除いて、猶予されていたすべての税金をすぐに支払う必要が出てしまいます。

それだけでなく、利子税も追加で支払わなくてはいけません。

多大な税負担により事業の続行が困難となり得る点は、資金力が豊富でない中小企業にとって深刻なデメリットでしょう。

このデメリットを回避するためには、あらかじめ取消事由を把握しておき、当てはまらないようにするしかありません。

参考:第4章 認定の取消しについて 中小企業庁

デメリット③:猶予が認められる要件が複雑

猶予が認められる要件が複雑である点も、事業承継税制のもつデメリットの1つです。

事業承継税制で猶予を認めてもらうには、「会社」、「先代経営者」、「後継者」のそれぞれについて細かく設定された要件をすべて満たす必要があります。

また、事業承継後から数えて5年間は、後継者が会社の経営者であり続けることなども条件となっています。

今回は簡単に説明しましたが、細かい要件をすべて見ていくと非常に多い上に複雑です。

自力で要件をすべて満たそうとしても、抜けや漏れが出てしまい猶予が認められない恐れがあります。

事業承継税制の要件を確実に満たすには、制度に精通した税理士の起用が不可欠となります。

デメリット④:M&Aを行いにくくなる

意外と見落としがちなのが、M&Aを実施しにくくなるデメリットです。

事業承継税制の取消事由には、「株式の譲渡」や「合併」、「株式交換・株式移転」を実施することも含まれています。

つまりM&Aを行うと、事業承継税制による猶予は取り消されてしまい、納税の義務が発生してしまうわけです。

せっかくM&Aで多額の売却利益を得られても、そのほとんどが相続税や贈与税、利子税の支払いに消えてしまう事態になりかねません。

そのため、M&Aを行って多額の利益を得たり、売却利益でアーリーリタイアするといったことは困難となります。

デメリット⑤:対応可能な税理士を探すのが困難

そもそもの話として、事業承継税制に対応できる税理士があまりいないのもデメリットの1つです。

ここまで説明したとおり、事業承継税制は手続きや要件が非常に複雑な制度です。

それに加えて頻繁に改正が行われているため、対応できる税理士を見つけるのは簡単ではありません。

ようやく見つかっても、忙しくて対応してもらえないケースも考えられます。

いざ事業承継の時期になってから探すと都道府県庁への認定申請に間に合わなくなる恐れがあるため、あらかじめ対応できる税理士を探しておくのがオススメです。

まとめ

今回お伝えしたとおり、事業承継税制には多大なデメリットがあります。

デメリットを軽減することは可能であるものの、専門知識や多大な労力を要します。

メリットだけでなくデメリットも考慮した上で、事業承継税制を活用するかどうか検討しましょう。

デメリットが大きいと感じたら、別の手段で税対策を講じるのが良いでしょう。

参考:事業承継とは?継承との違いや成功のポイントを解説!