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事業譲渡で従業員の同意は必要?与える影響や手続きを解説

2021.01.21 M&A知識

一般的な事業譲渡では、従業員の雇用契約も買い手に承継されます。

そこで気になるのが、「従業員の同意が必要かどうか」です。

従業員の同意を得られないと、事業譲渡を行えないのではないか?と心配する経営者の方も多いです。

そこで今回は、過去の事例をもとに事業譲渡を進める上での従業員の同意の必要性や、同意の有無が事業譲渡に与える影響の一覧などを解説します。

外部の後継者に事業を引き継がせたいものの、従業員の扱いや同意を取得するための対策が分からないという方は必見です。

事業譲渡と労働契約の関係

はじめに、事業譲渡と労働契約の関係から、従業員から個別に同意を得る必要性についてご説明します。

事業譲渡の契約自体に従業員の同意は不要

事業譲渡とは、「会社が保有する一部または全部の事業(権利義務)を売買する旨について、当事者である会社同士で契約する手法」を意味する用語です。

そのため、事業譲渡の契約に従業員の同意は不要であり、仮に全員が反対している状況でも事業譲渡の効力は発生します。

雇用契約の引き継ぎには従業員の同意が必要

まず前提として、民法第625条1項では「使用者(会社)は労働者(従業員)の承諾を得なければ、その権利を第三者に譲り渡すことができない。」と定められています。

したがって、事業譲渡先に従業員の雇用契約を引き継ぐ場合には、会社分割や合併とは異なり、一人ずつ同意を得なくてはいけません。

言い換えると事業譲渡では、法律に基づいて従業員の意思が最優先されるわけです。

法律上の制度ですので、いくら合理的な理由や強制があったにせよ、転籍を希望しない従業員を譲受企業に譲渡することは当然できません。

参考:民法第625条1項

虚偽の情報を伝えて同意を得ると、意思表示の取消しがなされるリスクがある

「強制的に同意を得られないならば、虚偽の情報を伝えて相手から同意を得よう」などと考える方も中にはいます。

ただし、虚偽の情報を伝えて同意を得ても、民法96条の規定によって意思表示の取消しがなされる可能性があります。

要するに法律によって同意自体が無効となるリスクがあるので、「移籍すれば、給与や休日が大幅に増える」などと虚偽の情報を伝えるのは控えましょう。

参考:民法第96条

従業員から事業譲渡に伴う移籍について同意を得るには

M&Aの時に従業員の雇用契約を継承する上で、移籍する旨を同意してもらうプロセスは避けてとおれません。

優秀な従業員の雇用契約を引き継げないと、買い手から見た企業価値は低下します。

その結果、支払われる買収金額が当初よりも値下げされたり、最悪の場合事業譲渡の契約自体が見送りとなる(成立しない)リスクがあります。

支払の金額が減額されるなどの事態を避けるためにも、売り手の代表は従業員から同意を確実に確保しておくことがベストです。

そこでこの章では、事業譲渡の際に従業員から同意を得る方法を2つご紹介します。

転籍予定の従業員とあらかじめ協議する

同意を得るためには、転籍して欲しい従業員となるべく多くの協議を重ねることが重要です。

協議に当たっては、最低でも以下の項目を具体的かつ細かく説明し、従業員に雇用引き継ぎの必要性や、労働条件等について理解してもらうことが不可欠です。

  • 買い手企業の事業内容や労働条件、想定される業務内容・勤務地など
  • 事業譲渡に関する事項(必要性や債務履行の見込みなど)
  • 転籍することで得られるメリット(倒産リスクの低い職場で安心して働けるなど)
  • 有休消化や退職金、勤続年数の取り扱い

また、上記以外の項目で従業員から質問された際には、一つひとつ情報を提供することで疑問を取り除くことも大切です。

上記のように積極的なコミュニケーションを取ることで、よりスムーズに同意を得やすくなるでしょう。

買い手から従来よりも優良な労働条件で契約する旨の同意を得ておく

従業員がより良い待遇で働けるように、買い手との間で交渉し、その内容を契約書に盛り込むことも効果的です。

極端な話ですが、今よりも高い金額の賃金や手当、休日の大幅増加などの条件を提示すれば、前向きに転籍に関して検討してもらえるでしょう。

また、あらかじめ従業員と協議し、そこでヒアリングした従業員が不満に思う処遇を解消するだけでも、従業員から良い評価を得られるでしょう。

ただし口約束だと後から破られる可能性があるため、事業譲渡の契約書にて合意した内容をしっかり書いておくことが重要です。

移籍に対する同意を得られない従業員への対応方法

上記でお伝えしたスキームを試しても、一部の従業員からはどうしても同意を得られないケースはあります。

事業譲渡に伴う転籍を断る従業員に対しては、どのような対処方法を用いるのが良いのでしょうか?

一般的な対応としては、下記の3つのうちいずれかを選択することになります。

買い手企業に出向させる

出向とは、自社との雇用契約を締結した状態で、買い手企業で働いてもらう手法です。

一定の期間にわたって出向の形で働いてもらい、安心してもらえた段階で同意を得た上で契約の移転を図ります。

「優秀な人材の力も引き継いでおきたい」という買い手の意向もある程度満たせる上に、法律上の問題もありません。

また従業員は、他の新たな組織で働くことに問題ないか試した上で、自ら移籍するかを判断する機会を得られます。

受け入れる相手側はもちろん、自社や従業員にとってもメリットが大きいので、非常におすすめの方法です。

配置換えなどにより自社で働いてもらう

どうしても新しい会社で働きたくないという者に対しては、そのまま自社の事業所で雇用し続ける必要があります。

例えば、配置換え(労働する内容の変更)などを行い、引き続き自社で働いてもらうという選択肢があります。

「会社に継続して残ることができるなら、これまでとは異なる仕事内容でも問題ない」と考える従業員に対しては、こちらの形式で十分に対処できます。

ただし「買い手企業で働きたくはないし、これまでと異なる仕事もしたくない」という従業員には、配置換え自体を拒否される傾向があり、これがデメリットとなります。

同意を得られないことを理由にした解雇は原則不可能

事業譲渡に伴う契約移転に同意を得られないことを理由に、社員を退職させることは労働契約法第16条の規定により通常は認められません。

従業員をリストラするには、基本的に「整理解雇の4要件(下記参照)」をすべて満たしている必要があるため、非常に難しいです。

  1. 人員削減の必要性(経営上の事情で人員の削減が不可欠)
  2. 解雇回避の努力(解雇しないために、あらゆる努力を行なった)
  3. 人選の合理性(解雇対象を選ぶ基準が合理的)
  4. 手続きの妥当性(労働組合や労働者に向けて十分な説明や協議を実施した)

つまり、資金繰りの面などで雇用を維持するのが困難であり、かつ前述した配置換えや雇用の調整などを十分に行った上で、はじめて従業員の解雇が認められるのです。

参考:「事業譲渡又は合併を行うに当たって会社等が留意すべき事項に関する指針」の概要 厚生労働省

事業譲渡では従業員への影響を考慮して同意形成を図ることが重要

以上のとおり、満足いく条件で事業譲渡を果たすには、従業員から契約の引き継ぎについて同意を得る必要があります。

同意を得るためには、時間をかけて従業員と何回も協議を重ねて、不安や不満を一つ一つ取り除くことが大切です。

また、労働環境や条件が大きく悪化すると、従業員はストレスを抱えながら働いたり、別の会社に転職せざるを得なくなります。

こうしたトラブルを回避するためには、従業員により良い労働環境や条件を与えるように、売り手と買い手のそれぞれが約束を交わしておくことも大切です。

従業員への影響を最小限に抑えたいならば、実績があるM&Aの専門家からサポートを得るのがおすすめです。

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報酬にあまり費用をかけずにM&Aを完了させたい方は、お気軽にご相談いただけると幸いです。

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