事業譲渡と会社分割の違い【4つの違いを解説!】
2020.12.09 M&A知識一部の事業のみを譲渡する点では、事業譲渡と会社分割は似ているM&A手法です。
そのため、一部の事業のみを売買したい方にとっては、どちらの手法を選ぶべきか悩む部分となるでしょう。
一見すると両者は似ているものの、実は事業譲渡と会社分割のあいだには、あらゆる点で大きな違いが存在します。
この違いを知らないと、M&Aで想定していたメリットを得られずに後悔するおそれがあります。
そこで今回は、事業譲渡と会社分割のあいだにある4つの違いをわかりやすく解説します。
M&Aの目的
まず根本的な部分として、事業譲渡と会社分割では実施する目的に違いがあります。
M&Aを実施する際には、最低限目的の違いだけは理解しておきましょう。
事業譲渡
事業譲渡は、純粋に事業を売買する目的で活用されることがほとんどです。
具体的に売り手と買い手は、以下の目的で事業譲渡を活用します。
- 売り手:不採算事業の売却、主力事業への集中
- 買い手:既存事業の拡大、弱みの補強、新規事業への進出に必要なリソース獲得
事業の売買が目的であるため、買い手から売り手に対して現金が対価として交付されます。
会社分割
一方で会社分割は、グループ企業内における組織再編を目的に実施されます。
組織再編とは、効率的な組織運営やコストカットなどを目的に、会社内の組織や部門を編成し直すことです。
組織再編行為に含まれる会社分割では、あくまで会社内で完結する点や後述する適格要件の存在から、株式等が対価として用いられることが多いです。
資産や権利義務の引き継ぎ
資産や権利義務をどのように引き継ぐかという点に関しても、事業譲渡と会社分割では大きく異なります。
違いを知らないと、M&Aがスムーズに進まなくなる恐れがあるので注意しなくてはいけません。
事業譲渡
事業譲渡では、売買する資産や権利義務の範囲や種類を指定することができます。
不要な資産や簿外債務などを除外できる点では優れているものの、資産や権利義務を1つずつ個別に引き継ぐ必要があります。
たとえば従業員の雇用契約に関しては、引き継ぎたい従業員1人ずつと雇用契約を結ばなくてはいけません。
また、売掛金や固定資産などに関する契約に関しても、取引先等から同意を得ないと引き継げません。
なお許認可に関しては、買い手側で新たに取得する必要があるので十分注意しましょう。
会社分割
一方で会社分割では、資産や権利義務を包括的に承継できるため、個別に契約を結び直したり同意を得る必要はありません。
許認可に関しても、一部(宅地建物取引業や貸金業など)を除いて自動的に引き継げます。
ただし、事業譲渡と比べて手続きにかかる手間は少ないものの、会社分割では簿外債務や不要な資産を引き継ぐリスクがあるので注意しましょう。
債権者保護手続きや特別決議の有無
債権者保護手続きとは、債権者の利益を守るために、債権者に対してM&Aを行う旨を通知したり、異議を申し立てる機会を与えたりする手続きです。
一方で特別決議とは、一定の重要事項を株主総会で決定する場合に必要な決議です。
事業譲渡と会社分割では、債権者ほごと特別決議の有無や必要となるケースに大きな違いがあります。
事業譲渡
事業譲渡では、債権者保護の手続きは必要ありません(ただし各債権者の同意は必要)。
また特別決議に関しても、「事業の全部譲渡」、「重要な一部の譲渡」、「事業の全部譲受け」に該当しなければ不要です(会社法第467条)。
なお重要な一部の譲渡とは、譲渡する資産の帳簿価額が、売り手側の総資産額の20%を超える事業譲渡を意味します。
会社分割
一方で会社分割では、原則かならず債権者保護を実施しなくてはいけません(会社法799条、810条)。
また特別決議についても、一部のケースを除いて基本的に必須となります(会社法第795条、804条)。
以上より、株主や債権者に対する手続きの負担については、事業譲渡の方が相対的に軽いと言えます。
税金
最後にご紹介する違いは税金です。
事業譲渡と会社分割は、法律上の立ち位置が根本的に異なるため、支払う税金に関しても全く異なります。
事業譲渡
事業譲渡では、基本的に法人税等(個人の場合は所得税)と消費税が課税されます。
法人税等は、譲渡益(譲渡金額−譲渡する資産の簿価)に対して課税されます。税率は企業によって異なりますが、大体30%前後です。
一方で消費税は、譲渡する資産から非課税資産を差し引いた金額に課税されます。
消費税法では、消費税が非課税となる資産として以下を規定しています。
- 土地
- 有価証券(株式や債券、手形など)
- 債権(売掛金や貸付金など)
要するに、上記に該当しない資産に対して消費税率(10%)をかけることで、消費税の金額が求まるわけです。
会社分割
比較的シンプルな事業譲渡と比較して、会社分割における税務の取り扱いは複雑です。
まず消費税に関しては、例外なく非課税となります。
一方で法人税等に関しては、税制の適格要件を満たすかどうかによって課税されるかどうかが異なります。
適格要件を満たしている会社分割(適格会社分割)の場合、原則的には課税の繰り延べにより損益が発生しません。
つまり、法人税等は原則課税されないわけです。
ただし適格要件を満たさない会社分割の場合は、譲渡損益が発生するため、法人税等も課税されます。
具体的な適格要件は非常に複雑ですので、税理士などの専門家にアドバイスを仰ぐのがオススメです。
まとめ
事業譲渡と会社分割の違いをまとめると以下のとおりです。
事業譲渡 | 会社分割 | |
M&Aの目的 | 事業の売買 | グループ内の再編 |
資産や権利義務の引き継ぎ | 個別に引き継ぎが必要 | 自動で包括的に引き継がれる |
債権者保護手続きや特別決議の有無 |
債権者保護は不要 特別決議は一部のケースで必要 |
債権者保護と特別決議の双方が原則必要 |
税金 | 法人税等や消費税が課税される |
適格要件を満たせば、法人税等は原則非課税 消費税は適格要件に関係なく非課税 |
上記の違いを踏まえて、事業譲渡と会社分割のどちらを選択するかを考えるようにしましょう。
ただ単に事業の売買を行いたい方は事業譲渡、グループ企業内の経営再建を行いたい方は会社分割を使うのがベストです。
※参考文献