会社売却の相場とは?相場算定に役立つ企業価値の計算方法も解説!

2020.08.31 会社・事業を売る

2020年の現在、国内にある中小企業の間で後継者不足が問題となっています。

事業承継をめぐる問題は、ITなどの比較的新しい業界も例外ではありません。

こうした事情から、日本では会社売却による事業の引き継ぎを希望するケースが増えています。

事業を次の世代に残せるだけでなく、売却による利益を得られる点も会社の代表にとってメリットとなります。

そんな会社の売却価格は、最終的には買い手の経営者と売り手のオーナーによる交渉で決まります。

とはいえ、「この条件なら大体このくらいの値段で売却できる」という相場は存在します。

今回の記事では、一般的な会社売却の相場や相場算定に役立つ企業価値の求め方、相場よりも高値で売却する方法などに関して、概要を詳しく解説します。

会社売却を検討しており、前もって売却価格の相場を知りたいという方は必見です。

事業の譲渡と会社売却で相場は変わってくるのか?

売り手の視点から見ると、M&A(合併と買収)は大きく「事業の譲渡」と「会社の売却」という2つの手法に大別されます。

事業の譲渡とは、会社が運営している一部の事業のみを売却する手法です。

一方で会社の売却は、自社で発行している株式を売却する手法です。

事業譲渡では、一部の事業で使われている資産(不動産など)や従業員との契約などのみを売却します。

一方で会社売却では、社内にあるすべての権利義務、ノウハウや技術などの無形資産を相手に譲渡する形で対応します。

そのため、事業の譲渡と比べて会社売却の方が、売却の価額は大きくなる傾向があります。

少しでも高く会社売却を実現したいならば、なるべく会社売却によるM&Aを行うことが重要です。

中小企業は「時価純資産+営業利益の3〜5年分」が会社売却の相場

一般的な中小企業では、時価換算した純資産(資産−負債)に、営業利益の3〜5年分(営業権)を足し合わせた金額が相場の目安となります。

  • 一般的な会社売却の相場 = 時価純資産 + 営業利益 × 3〜5

たとえば、時価純資産が1,500万円、営業利益が500万円、営業利益の5年分を基準に用いる場合、会社売却の相場は下記の通り計算できます。

  • 1,500万円 + 500万円 × 5 = 4,000万円

つまり上記のケースでは、対価として4,000万円をもらうことができると予想されます(ただし、ここから仲介会社への報酬などを支払います)。

手軽に計算できるため、簡易的に相場を求める上ではとても重宝する方法です。

一方で、この方法には「ビジネスの将来性」や「競合他社」、「過去の事例」などを加味しにくいデメリットがあります。

そのため、自社の経営が置かれた状況に応じてより正確に相場を計算したいケースでは、「企業価値」を計算するのがベストです。

企業価値の計算方法

企業価値を簡単に説明すると、資産や負債、事業などを総合的に加味した上で、企業の価値を金銭的に表したものです。

会社売却の場面では、売り手と買い手の利害が真っ向から対立するため、話し合いのみで売買価格を決定するのは困難です。

そこで実務では、合理的な視点から企業価値を計算し、その金額をベースに売買価格を決めるのが一般的です。

つまり企業価値を計算すれば、自社を売却した場合の相場を把握できると言えます。

企業価値の計算方法は、大きく「コストアプローチ」、「インカムアプローチ」、「マーケットアプローチ」の3種類に分けられます。

それぞれの違いは「企業価値算定の根拠」にあり、売り手の何を重視するかによって最適な方法は異なります。

コストアプローチ

コストアプローチとは、「貸借対照表の数値」を価値算定の根拠とする方法です。

前述した「時価純資産+営業利益の3〜5年分」もコストアプローチの一種と言えます。

先ほどのご説明から分かる通り、簡単に会社売却の相場を算定するのが可能である点が最大のメリットです。

また、会計上のルールに基づいて作られた財務諸表を用いるため、客観性の高い相場となります。

一方で貸借対照表は、あくまで過去の事業活動の成績を表すものです

そのため、コストアプローチでは将来性や市場の成長性などは加味しにくいです。

将来性の高い企業にコストアプローチを適用すると、実態よりも安く会社売却する結果となってしまいます。

以上より、この方法は社歴の長い中小企業や、規模が小さい法人、赤字の会社などが相場算定の対象として最適であると言えます。

インカムアプローチ

インカムアプローチとは、「収益性」を価値算定の根拠とする方法であり、DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)が最も多く活用されています。

DCF法は、将来得られるキャッシュフローを現在価値に割り引き、その金額を基に企業価値を計算する方法です。

なおDCF法では、割引率にWACC(加重平均資本コスト)と呼ばれる指標を用いるのが一般的です。

DCF法をはじめとしたインカムアプローチには、今後の将来性を最大限考慮した上で企業価値を求められるメリットがあります。

ただし、事業計画書の内容が100%達成されるとは限らないため、正確さや客観性に欠けやすい点がデメリットとなります。

また、計算には会計やファイナンスの専門知識が必要となるため、簡単には算出できない点にも注意が必要です。

また、売り手側の恣意的な感情が企業価値の算定に入りやすいため、DCF法は外部の専門家(公認会計士など)によって用いられるのが良いと言われています。

多少のマイナス要素はあるものの、事業が成長傾向にある有力ベンチャーや、安定した収益を期待できる大手企業の相場算定には最適の方法です。

マーケットアプローチ

マーケットアプローチとは、「市場(マーケット)で行われている取引」を根拠に企業価値を求める方法です。

具体的には、事業内容が似ている上場企業の株価を参考にする「類似会社比較法(マルチプル法)」や、過去のM&A事例を参考にする「売買取引比較法」、株式の平均的な評価額を基準とする「市場株価法」などが該当します。

類似する事例や同業の他社を参考にするため、客観性が高い企業価値を算定できる点がメリットです。

また、時代によって変わる市場の需要や競争環境を反映できる点もメリットの一つです。

一方で、類似する事例や企業が見つからないリスクや、短期的な市場のトレンドに左右される(株価が変わってしまう)点に十分な注意が必要です。

客観性の高さや市場を考慮する点から、現時点で業績は良くないものの、今後大きな成長が見込めるスタートアップなどにオススメの方法です。

相場よりも高値で会社売却するには

一般的には、上記でお伝えした企業価値(≒相場)とほぼ同じ値段での会社売却となります。

ですが、最近は相場よりもはるかに高い値段で会社売却できた事例も少なくありません。

この章では、数ある事例から分かる相場よりも高値で会社売却する方法を5つご紹介します。

希少性の高い経営資源を持つ

相場よりも高い値段で売却する上で、希少性の高い経営資源(過去に取得した特許や商品の開発技術など)を保有するのは有効な手段の一つです。

独占的に安定した収益を得られる可能性が高まる点で、希少性の高い経営資源を持っている会社は買い手から魅力を感じてもらいやすいです。

そのため現時点であまり利益を生み出していなくても、それを活かせる買い手が見つかれば高値で買収してもらえる可能性があります。

相場よりも高い値段で会社売却したいならば、まずは自社が希少性の高い経営資源を見える化することから始めましょう。

もし持っていないならば、時間をかけて希少性の高い経営資源を獲得したうえで、会社売却に取り組むのもおすすめです。

自社の強みを強化する

1つ目の方法と重複しますが、あらかじめ自社の強みを強化しておくと、相場を上回る値段での会社売却を提示しても成功しやすくなります。

たとえば大企業の取引先(顧客)を多く抱えていたり、特定の業界・業種における専門家と言える人材を抱えていれば、それは自社の強みとなります。

後はそうした強みをさらに強化したり、別の強みを持つようになれば、より買い手から高く評価してもらえます。

なお実際に高値での会社売却を行うには、自社の強みをわかりやすく伝える資料を準備することも大切です。

資料で自社の強みを相手に理解してもらえれば、デューデリジェンス(売り手への詳細な調査)によって投資する価値があると判断されやすくなります。

その結果、高値での会社売却が成約しやすくなるわけです。

自社とのシナジー効果が見込める買い手への売却

自社事業とのシナジー効果が見込める買い手を見つければ、相場よりも高値で会社売却できる可能性が高いです。

シナジー効果とは、ある要素が他の要素と組み合わさることで、それぞれ単体で得られる以上の結果を生み出す効果です。

たとえば5,000万円の売り上げを得ていた会社同士がM&Aを行い、売上が1億円を上回った場合にはシナジー効果が発揮されたと言えます。

なお、シナジー効果が発揮されるかどうかを分析するのは簡単ではありません。

ですので、シナジー効果が見込める買い手への売却を果たすには、買い手との豊富なネットワークを持つ仲介会社にサポートを依頼するのがベストでしょう。

事業が拡大しているタイミングで会社売却を行う

中小の株式会社によるM&Aでは、後継者の候補へとスムーズに事業を引き継ぐことが重視されがちです。

ですが会社売却を高値で行いたいならば、それに加えて「事業が拡大しているタイミングでの売却」も重視する必要があります。

なぜなら、事業の業績が上向きに推移しているほど人気が集まり、売却した際に受け取る金額は大きくなる仕組みだからです。

基本的にM&Aのアドバイザーは、売り手の現在及び将来の収益性を重視した上で企業価値を算定します。

つまり会社売却で受け取る利益は、収益性や将来性に大きく影響されるわけです。

「収益性や将来性が高いと判断されやすい」という理由から、事業が拡大しているタイミングでの会社売却がおすすめです。

実績が豊富なM&Aのアドバイザリーが提供しているサービスを受ける

M&Aアドバイザリーを探す時には、手数料や得意分野などを比較すると同時に、実績の豊富さを重視する選び方がおすすめです。

というのも、M&Aの実務には多様な専門知識や決断力、買い手とのネットワークなど、幅広い要素が必要となるからです。

こうした要素はよりM&Aの成約に携わった回数が多いほど培われます。

高値での会社売却で成果を出したいならば、たくさんの実績を持つアドバイザリーに依頼しましょう。

そうすれば、高値で売却できそうな案件を紹介してもらえたり、交渉の仲介などを徹底してサポートしてもらえます。

会社売却でかかる税金の一覧

外部の後継者に事業を引き継ぐ場合、会社売却で得られる金額の相場だけでなく、税務についても理解するのが重要です。

税金がいくら発生するかを理解していないと、節税の対策を図ることができなかったり、想定外の支払いで資金繰りが悪化するリスクがあるからです。

そこで以下では、会社売却で発生する各種税金の特徴をご紹介します。

まず経営者個人が持っている株式を売却した場合には、株主(経営者)が得る所得(収益−費用)に対して、所得税と住民税が課税されます。

なお所得税と住民税の税率は一定(20.315%)であるため、複雑な計算をしなくても支払う税額を計算できるでしょう。

一方で事業譲渡の形で会社の権利義務をすべて売却すると、売却益に対して法人税や消費税などが課税されます。

法人税等の計算は難しいため、節税の対策も含めて税理士などの専門家に依頼するのがベストです。

関係する記事:会社売却でかかる税金とは?ケース別に解説!

まとめ

あらかじめ相場や企業価値の算定方法を知っておけば、大体の価格を踏まえた上で会社売却の手続きを始められます。

ただし保有する経営資源や買い手次第では、相場よりも高値で会社売却できる可能性もあります。

「安い値段でしか売却できなそうだから」という理由で会社売却を諦めている方は、ぜひ今回お伝えしたポイントを踏まえて再チャレンジしてみてはいかがでしょうか?

弊社でも、M&Aのプロが高値での会社売却をサポートしております。

会社を高く売りたい方やM&Aの相手を探している方は、まずはお気軽に無料相談してもらえればと思います。

参考:会社売却とは?方法や手続きの流れ、価格の相場を徹底解説!