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会社を売却した際の退職金や退職する従業員の扱い、事業譲渡との違いについて解説

2021.03.01 M&A知識

2020年〜2021年の現在、後継者の不足や経営の維持に対する不安の高まりなど、深刻な課題を抱える中小企業が少なくありません。

その影響で近年、日本の国内では不動産やIT、建設などの業種を中心に多くの業界で中小企業が運営する会社や事業の売却を行うケースが増えています。

会社売却と事業譲渡では、経営者や従業員の退職に関する処遇、および退職金をめぐる対応が変わってきます。

例えば会社を売却する時には売り手の経営者に退職金が支払われ、事業の売却ではその法人の中で勤務していた従業員に支払われます。

そこで今回の記事では会社を売却する方に向けて、会社売却における退職・退職金の規定の概要について、事業譲渡との違いを明確にしつつ解説します。

事業を親族ではない後継者に承継する目的で会社売却を検討・準備している方や、事前に自社の従業員への退職金についてどのような対応が必要かを理解しておきたい方は必見です。

会社の売却(株式の譲渡)における退職・退職金の取扱い

会社売却では、株式譲渡(株主が持つ株式を売却する)と呼ばれるM&Aの手法が活用されます。

株式譲渡には、「手続きが簡単である」、「経営者の個人にかかる税金が少なくなる傾向がある」などのメリットがあります。

そのため最近の動向を確認すると、多くの中小企業はこちらのスキームを活用して会社売却を実行しています。

そこでこの章では、会社売却を行う場合における退職および退職金の取り扱いに関する知識をご紹介します。

売り手の経営者は退職に伴い「役員退職金」を受け取る

会社売却を行った後は、基本的に売り手の社長(代表)は買収された企業を退職することになります。

退職にともない経営陣は、売買で得られる金額とは「別」に、新たに役員退職金を報酬として取得できるケースが多いです。

なお売却の際の価格は、仲介会社が算出した企業の価値を用い、最後は話し合いによって決まります。

企業の価値を求める体系は、類似企業における株価の指標と比較する手法や、今後の成長をベースに用いる手法などさまざまです。

自社と買い手の希望を考慮し、なるべくお互いが納得できる方法を使って丁寧に価値を定めるのが大切です。

従業員の退職金に関する事項はそのまま買い手に承継される

一方で従業員については、法律における株式譲渡の規程に基づいて、雇用契約(労働契約)がそのまま買い手の経営陣に引き継がれます。

言い換えると、経営者(会社の代表)の双方が合意の上で進められたM&A(合併と買収)について拒否することはできないのです。

ただし、会社売却を実施したタイミングでは退職金に関する事項に大きな変更はありません。

従業員にとってマイナスな影響は少ないため、心配せずに会社に残る選択肢を選んでも問題ないでしょう。

会社売却と事業譲渡における違い

会社売却と一部の事業のみ売却するのでは、手続きの規模・特徴や成約までの手順、法務などの面に大きな違いがあります。

たとえば事業譲渡では、引き継いでいく対象となる従業員がいる場合に、それぞれ個別に同意を得る必要があります。

また、退職や退職金をめぐる規定も大きく異なります。

M&Aのスキームを利用する際には、どちらの方が自社にとって優秀な方法かどうかを見極めることが重要です。

そこでこの章では、事業譲渡における退職及び退職金の規定を説明します。

役員退職金は発生しない

そもそも事業譲渡は、一部の事業に関係・関連する資産(人材や設備、施設なども含む)や権利・義務(債務など)のみが引き継がれます。

当然に売り手の経営権は引き続き残るため、社長が役員退職金を受け取ることはありません。

ただし会社売却後に経営者が退職する事情ならば、辞めるタイミングで自分の会社から退職金を支払うことは大丈夫です。

社員の退職金は「買い手に引継ぎ」または「売り手が支払いを実行」の2パターン

事業譲渡で買い手が従業員を引き継ぐには、一人ひとりと新しい雇用の契約を締結する必要があります。

つまり社員が買い手に転籍する時点で、退職金に関する内容が自動的に引き継がれることはないわけです。

事業譲渡を進める際には、一般的に退職金に関して以下のうちいずれかの対策を用いる必要があります。

  • 買い手側で売り手で労働していた期間を引き継ぎ、最終的に買い手にて退職金を支払う
  • 事業譲渡の時点で、過去に就労してきた期間を清算し、それに応じた退職金を支給する

買い手との話し合いや自社の負担を考慮して、最適な選択を行いましょう。

会社売却で退職金を活用するメリットは、社長(役員)および買い手の税金を節税できること

会社売却の際に退職金を受け取れば、社長(役員)が個人で支払う所得税を減額できる可能性があります。

その理由としては、退職金に関する所得税の算出は通常とは異なる方法が採用されているからです。

退職金の計算にはさまざまな控除の仕組みが適用されるため、同じ金額でも通常の所得よりも課される税額が少なくなります。

また、支払う役員退職金は損金扱いとなるため、譲受の側でも税金を減らすことに成功できます。

税制の面で有利なので、会社売却に際しては積極的に役員借入金を導入すべきと言えるでしょう。

勤続年数によって退職金の所得控除に関する計算の結果が変わる

役員退職金に関しては、具体的に下記の計算式を使って所得税の額を計算する流れとなります。

  • 所得税額 = (退職金の総額 − 退職所得控除) × 1/2 × 税率 − 控除額

ここで重要なポイントとなるのが、計算時点で適用される「退職所得の控除」です。

退職所得控除は、働いた時間(勤続年数)が長いほど金額が多くなる要件となっています。

したがって、長年にわたり会社を経営している(勤続の期間が長い)人ほど、ほぼ必ず大きな金額の節税が可能となります。

支払う税額を少なく調整したいならば、なるべく勤続年数を増やしてから会社売却するのが良いでしょう。

会社売却や事業の譲渡における従業員の退職をめぐるデメリット・注意点の一覧

会社売却や事業譲渡をめぐっては、M&Aの前後における従業員の退職について十分な注意を払うことが大切です。

その理由としては、もちろん退職金の計算における会計や税務のルールが難しいということもあります。

ですが、それ以上に従業員の感情が関係してくるという点が大きいです。

従業員について考えることをせずに事業・会社売却の契約を成立させると、従業員に大きな迷惑がかかったり、最終的に自社が損失を被るなどの失敗も生じ得ます。

そうした事態を回避する努力として、ここで紹介する注意点を踏まえた上でM&Aに関する決断をしましょう。

会社売却のスキームでも、買収後に従業員の退職金に関する事項が変更されるリスクがある

基本、会社売却の手段でM&Aを行えば、そのまま退職金の規定は引き継がれます。

しかし買収が行われてからしばらくした後に、内容が大幅に変更される可能性は十分に考えられます。

変更の内容次第では、社員にとって不利な事態となり得るでしょう。

労働条件が変更され、従業員が大きな不満を感じたりモチベーションが低下するリスクがある

事業譲渡の場合、基本的に買い手が提示する条件(給与や手当などの待遇に関するもの)にしたがって働くことになります。

交渉の数を重ねた結果、より良い条件が提示されれば良いでしょう。

しかし、有給休暇や給料が減らされたり、仕事の役割が対価(受け取るお金の額)に見合わないものとなるリスクもあります。

従業員の移動を伴う限り、その後に社員が劣悪な条件で働くリスクを無くすために、慎重に買い手を選ぶことが重要です。

M&Aの直前で経験が豊富な従業員が退職し、企業価値が下がるおそれも

M&Aの直前で、買い手からのニーズがある社員が退職してしまうリスクもあります。

その結果、退職する社員の分だけ自社の企業価値が下がってしまい、会社や事業を売買するときの価格は小さくなります。

そうした形を避けるためにも、あらかじめ転籍する者との間でM&Aに関して、しっかりと納得してもらうことがおすすめです。

従業員が退職に追い込まれるリスクがある

基本的に事業や会社の買収は、優れたノウハウを持つ社員の承継を伴うものです。

しかし、業績の悪化などが原因で費用をカットする必要性が高まり、結果的に人員の削減に方針が転換される可能性もあります。

また前述のとおり、引き継がれた先で労働環境の悪化に見舞われることも想定されます。

不満を抱いた従業員が買い手の経営陣と間でトラブルを起こしてしまい、その結果遠回しな手段で解雇される事態もあり得ます。

実際こうした事例は少なからず存在し、現在はコロナによる経営悪化もあるため注意が必要です。

まとめ

今回のコラムでは、会社売却や事業の譲渡における退職・退職金の扱いを記載しました。

上記で説明したように会社の売却には、専門的な知識を要する他に従業員やM&Aの相手の思惑も入ります。

そのため、退職や退職金に関する事項を正確に判断することは、とても難しい部分となります。

したがって、M&Aのプロであるアドバイザー(弁護士や税理士など)に支援を依頼するのがベストです。

専門家に実務のサポートを依頼すれば、自力で行う場合と比べて満足いく形でM&Aが実現しやすくなるでしょう。

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相談の料金は無料ですので、ぜひお気軽にご連絡いただければ幸いです。