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ベンチャー企業経営者必見!事業売却でエグジットするためのポイント5つを解説

2021.06.20 会社・事業を売る

ベンチャー企業経営者のエグジット方法は、IPOか事業売却(株式譲渡、事業譲渡、合併など)の2通りの手法があります。

もちろん、多くの企業はIPOを目指して経営を続けているわけですが、実際にIPOできるベンチャー企業は一握りです。

今回は、事業売却するために必要な実務上の重要ポイントを5つ、具体的な事例を交えながら解説していきます。

1. ベンチャーキャピタルからの出資の際の種類株の内容に注意

ベンチャーキャピタルから資金調達する場合、実務上、種類株により調達する場合が多くなっています。

種類株を発行することで、剰余金の配当、議決権など普通株とは異なる権利を付与することが可能になります。

例えば、無議決権株式、役員を選任できる権利、普通株よりも優先して配当が貰える権利など、様々な種類株発行が会社法上認められています。

上記の種類株の中でも注意すべき内容は、「残余財産分配権」です。

「まず種類株主に投資額の2倍を分配、その後残った金額を普通株主と種類株主に分配する」このような条件をよく見かけることがありますが、発行前にきちんとリスクを把握しておく必要があります。

残余財産分配権は、株式会社の倒産時ではなく、事業売却時に大きな効果を及ぼすことになります。

ベンチャーキャピタルに有利な条項が付された種類株式を発行している場合、買い手は普通株の場合のバリュエーションよりも高い買収金額を支払わなければなりません。

つまり、種類株発行によって、自社を売却するハードルが上がってしまっているのです。

もちろん、ベンチャーキャピタルの立場から見れば、種類株でないとスタートアップに投資することがリスクとリターンの観点から難しい場合もあります。

ベンチャー企業の経営者の立場からは、有利な残余財産分配権を付した種類株式を発行することで、どのようなリスクがあるかは、きちんと把握しておく必要があります。

2. 増資のバリュエーションは高ければ良いというわけではない

増資する際のバリュエーションは、高ければ高いほど経営者の希薄化が小さくて済むため、なるべく高いバリュエーションで調達するのが望ましいと言えます。

一方、現状の評価とかけ離れた高すぎるバリュエーションで資金調達すると、後の資金調達ラウンドで苦労する可能性が高まります。

通常、ベンチャーの増資は、創業後すぐのシード期、シリーズA、シリーズB、シリーズC、そしてIPOなどと続きますが、企業価値は新規ラウンド毎に増えていく必要があります。

前述した投資契約上、ダウンラウンドで資金調達した際に、経営者の希薄化がより大きくなってしまう場合、ダウンラウンドで調達するのが現実的でない場合もあります。

最初に高すぎるバリュエーションが付いた場合、次回資金調達時には、より高いバリュエーションで資金調達する必要があるため、今まで以上に高い成長性が求められることになります。

事業売却する際も、高い価格で資金調達を行なっている場合には、それよりも高い金額で事業売却しなければならないため、ハードルは上がります。

増資時のバリュエーションよりも低い金額で事業売却しても、既存投資家は売却損が出てしまうため、その事業売却取引を容認することはできません。

事業売却やIPOまでのイグジットプランを立て、それまでの資本政策表を策定のうえ、どのようなバリュエーションで資金調達するのが最適かよく議論する必要があります。

適切な資本政策が分からないといった場合には、公認会計士・税理士事務所などのコンサルティングサービス等を活用するようにしましょう。

3. IPOの選択肢を簡単に捨ててはいけない

結果として事業売却することになったにせよ、初めから事業売却ありきで経営しない方が良い結果に結びつきやすいです。

事業売却する際は、買い手からきちんとした評価を受けることを前提に、事業売却の交渉を行わなければなりません。

事業売却の選択肢しか持っていないと交渉上不利になってしまいます。

また、事業売却したい意識が強すぎると、「売り逃げ」と見られてしまい、買い手候補に対してあまり良い印象を与えることはできません。

日本国内での上場の選択肢も残しつつ、事業売却も機会があれば考えているといったスタンスの方が成功確率は上がります。

4. シナジーのある買い手は必ずどこかにいるはず

M&A仲介会社やFAに相談市、事業売却のプロセスを進めたとしても、誰もが事業売却に成功できるわけではありません。

一度事業売却に挑戦し、結果として売却できなかったとしても諦める必要はありません。

その理由は以下のとおり、選択肢が残されているためです。

  • 違うM&A仲介会社やFAに相談してみる
  • 1年後など時期やタイミングを変えて再び事業売却に挑戦してみる

例え、現在の売上・収益規模が小さく、利益が出ていなかったとしても、自身の事業とシナジーが見込まれる買い手は必ずどこかにいるはずです。

以下のような強みがあれば更に買い手は探しやすくなることでしょう。

  • 新しい技術を持つ、開発力が高いなど競争優位の源泉がある
  • 優秀な人材(取締役、従業員)が揃っているなど組織力がある
  • 創業者が起業家マインドを持っており、今後の成長が期待できる
  • 経営の戦略が明確で、買い手が経営を引き継ぎやすい
  • 固定の顧客がいるなど、売上が安定している

同じ業界、事業分野でなくとも、シナジーを獲得できる買い手候補は無数に挙げられます。

近年では上場企業、大手企業、中小企業問わず、積極的にM&Aを利用している企業も増え、M&A市場は活発になっている点にも注目してみましょう。

また、一度事業売却に失敗した後、成長をより加速することができれば、以前よりも高く評価され、事業売却できるようになる可能性もあります。

事業売却の経験やノウハウは決して無駄にはなりません。

粘り強く継続的に相手探しを行うことが大切です。

5. 事業計画含めて、管理面はしっかり対応する

事業売却の際、必要な資料やデータは決まっています。

例えば、以下のようなものが挙げられます。

  • 登記簿謄本
  • 貸借対照表、損益計算書の数年分
  • 事業・サービスのKPI推移
  • 市場規模、市場シェアなどがわかる資料
  • 法人税申告書数年分
  • 月次推移表
  • 資本政策表
  • 重要な人材リスト
  • 事業計画書(実績と計画が分かりやすく明記されているものが望ましい)
  • 重要な契約書リスト
  • その他重要な開発スケジュールなど

買い手は、事業の取得前には会計士や税理士、弁護士などに依頼してデューデリジェンスを実施します。

上記のデューデリジェンスは費用がかかりますが、事業買収の意思決定を行う前には買い手自身でビジネスデューデリジェンス・簡易デューデリジェンスといった形の調査を行うことがあります。

この際、買い手から依頼を受けたものの売り手が資料が出すのが遅れてしまう、資料がよく分からない、資料が間違っているなどがあると、交渉のテンポが悪くなってしまいます。

事業売却を検討しているのであれば、売却プロセスに入る前に必要な資料はきちんと揃えておくようにしましょう。

高い成長を前提にしたベンチャー企業の場合、事業計画の実現可能性もよく見られるため、ロジックがきちんと立てられており、筋が通っている計画を用意しておく必要があります。

ベンチャー企業を買収する側の視点

近年、大企業がベンチャー企業を高い金額で買収する事例が増加傾向にあります。

ベンチャーキャピタルからの資金調達も増え、ユニコーンと呼ばれる時価総額1,000億円を超える未上場企業も複数誕生しています。

日本だけでなくアメリカでも、大規模な金融緩和が行われており、世界的な金余り状態です。

そのお金の一部がベンチャー企業に流入し、ますますベンチャー企業に資金が集まり、巨大化している傾向も見られます。

成長しているベンチャー企業を買収する場合、売上・利益、資産・負債・純資産の規模が小さい一方で、高いバリュエーションが付いてしまうという問題点があります。

上場企業がベンチャー企業を買収する際、買収金額から純資産を差し引くことで計算されるのれんが多額に計上されます。

のれんは日本の会計基準上、20年以内の定額償却が求められています。

ベンチャー企業の規模が小さいため、短期的にはベンチャー企業が将来計上する利益よりも、のれん償却額が大きくなる、「のれん負け」の状態となります。

上場企業は、個人投資家や機関投資家に対して、業績発表を行っていますが、連結上の利益を減らしてしまう買収は実施しづらいことは事実です。

しかし、日本市場が縮小していく中、イノベーションのジレンマに陥ることなく、成長を続けていかなければ上場企業の未来はありません。

そのため、割高な金額と感じても、ベンチャー企業の成長性、将来性、シナジーを信じて買収する意思決定を行うのです。

日本の会計基準ではなく、米国会計基準、IFRSを採用した場合、のれんの定額償却は求められず、減損の対象のみとなります。

そのため、のれん償却による連結利益が減少することなく、規模の大きい買収を実現させることができます。

楽天やソフトバンクグループもIFRSを採用しており、積極的なM&Aを続けています。

参考:

ソフトバンクグループ「国際会計基準(IFRS)の任意適用に関するお知らせ」

楽天「IFRS導入に関する事前説明会 (第一回目)」

まとめ

今回は、ベンチャー企業経営者が事業売却でエグジットするためのポイントを解説してきました。

資本政策を一度誤ってしまうと、元に戻すことが難しくなります。

ベンチャー企業経営者にとって、株式は血液に例えられます。

一度、血液を抜いて、ベンチャーキャピタルに渡してしまうと、もとの血液の濃さにすることはできないのです。

事業売却の際に、足を引っ張る可能性のある種類株、株主間契約、投資契約の内容には十分注意する必要があります。

ベンチャー企業が事業売却する場合、自らターゲット企業を探し出し直接アプローチすること、M&Aマッチングプラットフォームに登録し買い手候補を探すこともできるでしょう。

他方で、M&A仲介会社やFA、コンサルタント、アドバイザリーの力を活用し仲介してもらった方が、アプローチできる会社が多くなるというメリットが大きいため、短期間で成約できる可能性は高まります。

成功報酬を中心とした費用は必要ですが、エグジットした金額の中からコストを支払うこともできます。

ベンチャー界隈に強く、IT業界・製造業・飲食業・サービス業に強みをもっているなど、自社の業種・業態に詳しい専門家をうまく活用することが大切です。

読者の皆さまが、適切な専門家の支援を得て、事前の準備をしっかり行い、事業売却によるエグジットを成功されることを願っています。