税理士事務所の事業譲渡【スモールM&Aの事例】
2021.01.22 M&Aトピック実際の事例を確認してイメージを膨らませておくと、スムーズにご自身が望む形でM&Aを行いやすくなります。
ただし、「大手企業のM&A」と「零細・中小企業および個人事業主によるM&A」では、手続きや条件などが大きく異なるため、インターネット上に掲載された大規模な事例はあまり参考になりません。
そこで今回は、弊社が実際に取り扱った「税理士事務所による小規模な事業譲渡の事例」をご紹介します。
売り手が提示したM&Aの条件や成立に至った理由などをご紹介しますので、売上高数百万円規模の事業や会社を売却したい方は参考にしていただければと思います。
売り手の基本情報
まずは、売り手側の基本的な情報を確認しておきましょう。
事業概要
今回ご紹介する売り手様は、東京都にあった小規模な税理士事務所でした。
収益源となっていたのは、顧問契約を結んでいた企業からの法人顧問料や決算料、個人事業主の確定申告に対する報酬です。
税理士が個人で開業し、小さな規模で税理士業を行っていたイメージが分かりやすいでしょう。
財務情報
売り手となった税理士事務所の売上高や営業利益、および負債の状況は以下のとおりです。
- 売上高:約700万円
- 営業利益:約700万円
- 負債:なし
売上高は少ないものの、ほとんど経費をかけていないため、営業利益も比較的高い水準となっています。
また負債を一切抱えていなかったため、財務的な基盤は安定していたと言えます。
M&Aの概要・条件
次に、本件の事業譲渡における概要や条件をお伝えします。
売り手が事業譲渡を希望する理由
本件の事業譲渡は、経営者の高齢化を理由に実施されました。
イメージ的には、M&Aによる事業承継に近い形です。
事業譲渡の対象となった資産
本件の事業譲渡では、税理士事務所が抱えていた顧客のみの譲渡となりました。
具体的には、安定的に顧問料や決算料を受け取ることができる約25社の顧客が譲渡対象でした。
一般的なM&Aとは異なり、オフィスや従業員の雇用契約、その他事業用資産が一切譲渡対象に含まれていないのが特徴です。
売却金額
売り手様の希望も踏まえて、最終的な売却金額は250万円(経営者様が受け取る収益は100万円)となりました。
売上高や営業利益と比べると少額ですが、引き継ぐ資産が顧客だけという点を考えると妥当な金額と言えます。
売り手の経営者が提示した条件
売り手の経営者は、事業譲渡にあたって「買い手が顧客との契約を継続できなくても、こちら側で責任(補償)を負わないこと」を条件としました。
株式譲渡によるM&A(会社売却)とは異なり事業譲渡では、引き継ぎ対象となる顧客との契約について、一つひとつ買い手側で契約し直す必要があります。
そのため本件の場合、担当の税理士が変わることで、顧客側が契約の引き継ぎを拒否する可能性がありました。
万が一引き継ぎを拒否されると、売り手側の責任を追及されたり、事業譲渡の時点で売買金額が下げられるリスクがあります。
こうしたリスクを回避するために、あらかじめ責任や補償を負わない旨を条件にしたわけです。
事業譲渡が成立した理由
財務的には安定しているものの、顧客のみの譲渡であるため、一見すると買い手が見つからないように思えます。
ですが本件の事業譲渡は、売り手経営者の希望通りに無事成約しました。
上記の条件でM&Aが成立した背景には、下記2つの理由があると考えられます。
最初から顧客を持った状態で税理士事務所を開業できる
1つ目の理由は、売り手が譲渡する顧客に対して、買い手が価値を見いだしたことです。
今回買い手となったのは、これから税理士事務所を開業しようとする方でした。
税理士事務所に限らず、新しく開業する方にとって、顧客の獲得には多大な時間や労力、コストがかかります。
よほど知名度や実績がある場合でない限り、信用力がないため顧客を一社獲得することですら大変です。
一方でM&Aによって事業を買収すれば、顧客を最初から確保した状態で開業できます。
今回の買い手様にとっては、M&Aを活用した方が、一から顧客を開拓するよりも時間やコスト、労力を減らした上で顧客を獲得できる状況でした。だからこそ買収を決断したわけです。
この事例のように、中小企業によるM&Aでは、顧客やノウハウ、事業用設備の取得に価値を見いだす買い手様はとても多いです。
たとえ業績や事業規模の面で秀でていない売り手でも、自社のノウハウや顧客、設備などを評価してくれる買い手を見つければ、事業や会社を売却できる可能性は十分あるのです。
弊社が手数料を成果報酬型にしたことで、買い手のリスク・負担が軽減された
2つ目の理由は、成果報酬型の手数料にしたことで、買い手側が背負うリスクや負担が軽減されたことです。
基本的に弊社では、M&Aの成果報酬として買い手様からも最低150万円の手数料を頂いております。
前述したとおり、本件の事業譲渡では売却金額が250万円であるため、手数料も含めた買い手様の支出は400万円となります。
しかし、およそ700万円弱の売上に相当する顧客しか譲渡対象でない上に、確実に顧客の契約を引き継げる保証もありませんでした。
つまり買い手様は、「年間700万円の売上を確保できるとはかぎらない状況で、最初に400万円も支出する」という非常に高いリスクを背負う必要があったわけです。
そこで弊社は、買い手様のリスクを軽減するために、事業譲渡後に獲得した売上の一部を手数料とする報酬体系をご提案しました。
こうすることで買い手様は、万が一顧客を引き継げずに売り上げが当初の想定よりも大幅に減った場合には、ほとんど手数料を支払わずに済みます。
買収後のリスクや負担を大幅に軽減する報酬体系にしたことで、買い手様には安心してM&Aに臨んでもらえました。
まとめ
今回ご紹介した事例のように、たとえ売上高が小規模であっても、満足いく条件でM&Aを実施できる可能性は十分あります。
買い手によってM&Aの目的(どのような経営資源を取得したいか)は異なるため、顧客のみの売却や資産譲渡のニーズも大きいです。
小さい規模で事業を行っている中小企業・個人事業主様も、ぜひ会社売却や事業売却にチャレンジしてみてください。
なお弊社では今回ご紹介した事例のように、売り手・買い手様の負担を軽減できるように、M&Aのスキームや手数料体系を柔軟に設定しております。
依頼主様が損をしないようにご対応しますので、「M&Aの仲介は手数料が高いから頼めない」とお考えの方もぜひ一度お気軽にご相談いただければと思います。