会社を売るメリットやデメリットは?いくらで売れる?

2019.01.20 会社・事業を売る
複数のビル

かつては会社売却は「身売り」というネガティブなイメージを持つ人が多かったかもしれませんが、会社譲渡などのM&Aは企業が課題解決を図るためのポジティブな手法の一つです。中小企業においても、会社を売ることは珍しいことではなくなって来ました。

「会社を売る」とは具体的にどういうことなのか解説したうえで、会社を売る理由や値段の目安、メリットやデメリットなどについてみていきます。

「会社を売る」とは?

そもそも、「会社を売る」とはどういうことなのでしょうか。単純に土地や建物、あるいは商品やサービスを売るのとは違い、会社には従業員が在籍し、取引先や仕入れ先のネットワークがあり、商品や原材料の在庫、建物や不動産、借り入れなどがあるケースもあります。

「会社を売る」方法として多いのは株式譲渡によるものです。たとえば、売り手企業A社の株主が株を100%、買い手企業のB社に売却することで、A社はB社の完全子会社になります。A社の法人格を譲渡し、株主が変わったというだけですので、基本的にA社の資産や負債はもちろん、従業員、取引先や仕入れ先との契約、許認可、商品や原材料の在庫といったものもそのまますべてA社にある状態で、B社が株主として支配します。

このほかに「会社を売る」方法として使われるスキームに、事業譲渡が挙げられます。事業譲渡の場合は、事業ごとに資産や負債を選んで売却していきます。売り手企業A社が飲食業の事業を買い手企業のB社に売却する場合、A社の飲食業に関わる資産や負債、労働契約などがB社に引き継がれます。

A社の法人格は譲渡されず、B社に譲り渡す資産や負債は個別に選択できる点が株式譲渡との大きな違いです。譲渡された資産や負債の名義変更が必要となり、取引先との契約も結び直すことになり、許認可が必要な場合は改めて取得する必要があるケースが多いです。しかし、売り手企業にとっても買い手企業にとっても、譲り渡す資産や負債を選べるというメリットがあることなどから、事業譲渡が用いられることもあります。

会社を売る理由で多いのは?

中小企業が株式譲渡や事業譲渡によって会社を売るケースでは、どのような理由が多いのか、主な理由をみていきます。

後継者問題を解決する

オーナー経営者が廃業という選択をすると、従業員の雇用の問題が発生するとともに、取引先へも影響を及ぼします。また、長年培ってきたノウハウが失われることになってしまいます。しかし、今、中小企業では後継者問題が顕在化してきているのです。

中小企業庁では、2016年に「事業承継を中心とする事業活性化に関する検討会(第1回)」の資料として『事業承継に関する現状と課題について』をまとめています。それによると、大企業を含むデータになりますが、休廃業・解散件数は2008年を境に増加傾向にあります。その要因として挙げられるのは、オーナー経営者に子供がいない、あるいは子供が継がないことによる後継者難です。経営者の年齢のボリュームゾーンは、1995年は47歳でしたが2015年には66歳となり、高齢化が進んでいます。

出典:中小企業庁「事業承継に関する現状と課題について」

同じ資料によると、40年前は子供が承継するケースが80%を超え、親族が承継するケースが90%を超えていました。しかし、2015年までの5年間で経営者を承継した人のうち、子供は20%台半ばにまで激減しています。代わりに増えてきたのが、40%ほどを占める社外の第三者や、20%台半ばの親族以外の従業員です。

会社を売って第三者に引き継ぐことで、後継者問題を解決することが一般化してきているのです。

経営不安を解消する

経営不安があるときには、自社の成長のための施策として、会社を売ることが選択肢の一つとなります。大手企業や資金力のあるベンチャー企業の傘下に入って経営を託すことで、人材や販売網、資金などが注入され、業績の拡大が見込めます。あるいは、事業売却によって不採算部門を切り離し、得られた資金をコア事業に投入するというスキームも考えられます。

赤字会社でも特殊な技術を持っていたり、優良な顧客を抱えていたり、立地条件のよい店舗網を持っているなど、事業に強みがある場合には売却は可能です。ただし、一般的には資金繰りが悪化してきてからでは売却が難しくなりますので、M&A仲介会社などのプロには早めに相談をしましょう。

会社を売るメリット

スーツの男性

中小企業のオーナー経営者が会社を売ることで、株主や会社自体にどのようなメリットがあるのでしょうか。

株主が利益を得られる

株式譲渡による会社売却では、株主に対価としてお金が支払われますので、収益を上げている会社を売る場合には、多額の創業者利益を見込むことができます。オーナー経営者は株を売却した資金を老後の生活費に充てる、あるいは新たな事業を始めるための資金にするといった形で活用することが可能です。

事業承継ができる

後継者となる人材が子供などの親族や従業員などから見つからない場合、会社売却によるM&Aによって事業承継が行えることもメリットです。廃業した場合は、中高年の従業員が働く場を失ったり、取引先の企業が販売先や仕入れ先を失い、事業が上手くいかなくなるといった影響を及ぼしたりする可能性があります。会社を売ることで、これまでのノウハウや技術、販売網などを活かして、事業を継続していくことができます。

個人保証を外すことができる

株式譲渡による会社売却では、資産だけではなく、借り入れなどの負債も引き継がれます。中小企業では役員借入金として、代表者が会社に貸付を行っているケースがありますが、新たな経営者もとで、引き続き返済が行われていきます。

また、代表者が金融機関からの借り入れの個人で連帯保証をしている場合は、買い手が連帯保証を引き継ぐのが一般的です。オーナー経営者は高齢化して、実際には経営の一線から退いていたとしても、連帯保証をしているままの状態では経済的な不安を抱えることになりかねません。連帯保証の問題から、子供への事業承継を躊躇するケースもあります。会社を売ることで個人保証を外せることもメリットといえます。

事業の拡大を図れる

会社を売ると買い手企業とのシナジー効果によって、事業の拡大が図れることもメリットです。たとえば、商品やサービスに自信があっても営業力に課題がある企業の場合、販売網を持っている企業に買収されることで、シェアの拡大が見込めます。商品やサービスの開発に注力できる体制がとれることで、従業員はさらなる成長へとチャレンジできる環境が得られます。

会社を売るデメリット

後ろ姿の男性

オーナー経営者にとって会社を売ることはメリットがある一方で、新たな事業を行ううえで制限を受けるなどのデメリットもあります。

ロックアップによる拘束が発生することがある

会社は売ったら終わりではなく、譲渡後に事業経営がスムーズに進行していくために、売り手企業の経営者は一定期間の引継ぎを求められることがあります。ロックアップはキーマン条項とも呼ばれるもので、経営者が社長や顧問として一定期間残って業務に関わることをいいます。さらに、契約によっては、当該期間は他社への出資が禁止されるケースもあります。ロックアップ期間は通常2~3年程度が相場です。

すぐに新しい事業を始めたい人にとっては、ロックアップにより拘束されることはデメリットになります。ロックアップは譲渡価格との交渉次第ですので、ロックアップ期間を短くしたい場合は、譲渡価格を下げることと引き換えに交渉することになります。

競業避止義務が課されることが多い

会社を売却した後は、競業禁止義務が課せられることが多く、一定期間売却した会社の事業と同じ領域の事業には関われないことが一般的です。競業避止義務が課される期間は2~3年程度が一般的ですが、5年間とされるケースもみられます。また、経営者として同業で起業することを禁止されるだけではなく、株主や役員、あるいは従業員として関わることも禁じられることもあります。

周囲から非難を受けることがある

会社を売却後、経営が上手くいくとは限らず、新たな経営者のもとで働く従業員は、これまでと仕事の進め方が変わると反発するケースもあります。そのため、オーナー経営者は会社売却後に、元の従業員から会社をなぜ売るようなことをしたのか責められるケースも見受けられます。あるいは、長年にわたって代々引き継いできた会社の場合、親戚から非難されることも考えられます。

会社を買う企業側の理由は?

会社を買う企業側はどのような理由から、株式譲渡や事業譲渡による企業買収を進めるのでしょうか。買収先の候補となるのは同業種に限らず、異業種によるM&Aもあるため、自社を買う候補となるのは同業他社とは限らないのです。会社を買う企業側の理由について、売り手側企業と買い手企業の業種の類型などからみていきます。

同業他社との水平型M&A

売り手企業と買い手企業が同業種のM&Aは、水平型M&Aといわれ、M&Aの中で最も多い類型です。多くは事業規模を大きくすることや事業エリアを拡大することを目的としています。

業界で多くのシェアを持つ企業は存在感があり、プライスリーダーとして価格支配力が強く、スケールメリットにより、原材料費や商品の仕入れ価格を抑えられることもメリットです。収益を得られやすい経営体質から、生き残りを図りやすくなります。また、業界トップの企業企業には優秀な人材が集まりやすいという利点もあります。

しかし、自社で短期間で大幅にシェアを拡大するのは難しいものがあります。そこで、同業他社とM&Aをすることで、一気に業界や特定のエリアでのシェアを向上させることが可能です。また、進出していないエリアを営業圏とする同業他社を買収することで、営業エリアの拡大を図ることができます。

ただし、同業他社による買収は業界事情に精通しているため、足元を見られやすい点に注意が必要です。同業他社とのM&Aにおいては、人材が過剰となりリストラが実行されることもあるため、統合後について確認しておくことが大切です。

川上・川下との垂直型M&A

垂直型M&Aとは、商品やサービスの製造や流通、販売までの流れの中でのM&Aをいいます。消費者に近い方を川下、消費者から遠い方を川上と呼びます。たとえば、アパレルメーカーの場合、繊維メーカーを買収した場合は川上への垂直型M&A、販売店を買収した場合は川下への垂直型M&Aです。

たとえば、原材料メーカーを買収することでマージンを抑えられる分、仕入れコストを下げられることがメリットです。また、デザイン会社も買収すると、オリジナル商品の開発をしやすくなります。また、販売会社を買収すれば、自社の商品やサービスの販売網を確保できます。ただし、垂直型M&Aを行うと既存の顧客と競合関係になるケースが多いです。

新規事業への進出

新事業への進出のためにも、M&Aは実施されています。一から事業を立ち上げて収益を確保できる状態にするまでには、リサーチなどの準備期間を含めて相応の時間を要します。M&Aは時間を買う経営手法ともいわれていますが、新規事業への進出のためのM&Aでは顕著に現れます。また、新規事業の立ち上げは必ずしも上手くいくとは限りませんが、既に実績を上げている企業を買収することでリスクを抑えられることもメリットです。

新事業への進出のためのM&Aは、周辺事業への進出と全く異分野の事業への進出が挙げられます。周辺事業への進出は、たとえば、スポーツジムの運営会社がスポーツ用品店を買収する、牛丼チェーンが焼肉チェーンを買収するといったものです。周辺事業の買収では、M&Aによるシナジー効果も得られやすいとされています。

既存の事業とは全く異なる分野への進出のためのM&Aは、既存の事業が衰退事業のため、新たな事業の柱が欲しいケースに多いです。本業にまだ体力があるうちに多角化を図りたいとう狙いがあります。

売れる会社の条件は?

グラフと電卓

会社を売ろうとしたときに、どんな会社でも必ずしも希望する条件で売却が実現できるとは限りません。売り手企業側からみると、シナジー効果が期待できる企業へアプローチすることで、適正価格での売却が実現しやすくなります。

安定的な利益の確保が見込める

買い手企業は買収に多くの資金を投じることになります。安定した利益を上げ続けている企業の買収であれば、投資した資金を何年で回収することができるか事業計画が立てやすくなるため、売りやすさがあります。

買い手企業に相乗効果が見込める

買い手企業が買収という手段を選択する理由の一つが、シナジー効果が見込めることによるものです。シナジー効果とは、単独で経営している状態よりも、統合することで単純に合計した以上の利益が生まれることをいいます。

たとえば、飲食店チェーンは他の飲食店を買収することで、仕入れのスケールメリットにより、原価が下がり利益率を下げることができます。あるいは、技術のある小規模な企業を販売力や資本力がある企業が買収すると、業績を2倍や3倍に増やせることがあるのです。

入手しにくい経営資源がある

自社ではできない、あるいは入手するまでに時間を要する経営資源を持っている企業も、売りやすい会社として挙げられます。たとえば、代理店網などの販売ネットワークを持っている、優良な顧客リストを持っている、特許権や独占販売権がある、採用しにくい優秀な人材が揃っている、高度な独自の技術があるといったケースです。

会社はいくらで売れる?

紙幣

実際に会社を売るとなると、どのくらいの価格で売れるものなのでしょうか。会社を売るときの評価額の目安や評価方法の種類について解説していきます。

会社を売るときの値段の目安

会社を売るときの評価方法に決まったものはありませんが、純資産とのれん代と呼ばれる営業権の評価が基本となります。純資産に資産の含み益を加えて、2~3年分の経常利益をプラスすると、簡易的に評価額の目安を算出することが可能です。また、経常利益を5倍ないし10倍するという計算方法もあります。

評価方法の種類

会社の価値の評価方法には様々なものがあり、代表的なものとして、修正純資産法やDCF法、類似会社比準法が挙げられます。いずれも一長一短であるため、いくつかの評価方法を組み合わせて活用することもあります。評価額がそのまま譲渡価格になるのではなく、売り手企業と買い手企業が交渉するうえでのベースとなるものです。

修正純資産法は、資産と負債を時価で再評価したうえで、資産から負債を引いて純資産を算出し、発行済株式数で割ることで一株当たりの株価を算出する方法です。客観的な数値で算出しやすい反面、事業の将来性やのれん代が考慮されないというデメリットもあります。

DCF法は収益性に基づいた評価方法であり、将来キャッシュフローからリスクなどを考慮した割引率で割り引いて、現在価値を求める方法です。のれん代や事業の成長性を評価できますが、主観が入りやすいことがデメリットとされています。

類似会社比準法は事業内容が類似している複数の上場企業の株価の平均を利用する方法です。株式市場の市況に影響を受けやすいことがデメリットです。

その他の評価方法については、『M&Aの譲渡価格や手数料など費用の相場は?』で解説しています。

まとめ

中小企業の経営者にとって、会社を売ることは事業承継問題の解決や経営基盤の確保を図るための手段の一つです。会社売却はいつのタイミングで行っても同じ価格で売れるわけではなく、市況感にも影響します。また、事業承継のために会社を売るのであれば、経営状態の改善を図った後の方が高値で売れるケースもあります。実際に会社を売る段階では、自社で買い手企業を探すのは難しいため、M&A仲介会社を活用するのが一般的です。会社を売ることを考えたら、まずはM&A仲介会社などの専門家に相談してみましょう。