M&A詐欺とは?主な手法や巻き込まれないための注意点
2025.02.09 M&A知識近年、企業間の買収や統合が進む中、M&Aを巡る詐欺行為が増加しています。M&A詐欺は、巧妙な手法で企業や個人を狙い、深刻な経済的被害をもたらします。M&Aはビジネス成長のための重要な手段ですが、不正行為に巻き込まれないためには、適切な知識と対策が欠かせません。
本記事では、M&A詐欺の主な手法や被害に巻き込まれないために注意すべきポイントなどについて詳しく解説します。
M&A詐欺とは?
M&A詐欺とは、企業の買収や合併を装って行われる詐欺行為のことです。本来、M&Aは企業の成長や経営課題解決を目的とする正当な取引ですが、中にはM&Aを悪用する事業者が存在します。
主な手口としては、虚偽の財務情報や事業計画を提示して投資を誘引するケースや、後継者のいない企業に架空の買収提案を持ちかけて手付金を騙し取るケースなどがあります。また、実態のない企業や書類を用いてM&Aの取引を進め、資産を譲渡させた上で逃げることも一般的な手口です。
こうしたM&A詐欺は、企業の資金や信用を損なうリスクだけでなく、従業員や関係者にも多大な影響を与える可能性が伴います。M&A詐欺に巻き込まれないためには、取引相手の背景調査や契約内容の慎重な確認が不可欠です。
M&A詐欺の現状
近年、日本では少子高齢化による後継者不足を背景に、中小企業のM&Aが増加傾向にあります。経済産業省の推進もあり、M&A市場は年々広がり続けていますが、その一方で詐欺のリスクも高まっています。
具体的には、買収後に企業の資金や資産を流用するケースや、虚偽の財務情報を提示して取引を誘導するケースなどが問題視されています。また、事業売却を希望する経営者に対して、悪質な買い手を紹介する仲介業者の存在も指摘されています。これにより、売り手側の経営者が損失を被る事例が後を絶ちません。
このような事態を受けて、政府はM&A業界の透明性向上や規制強化に向けた取り組みを進めています。しかしながら、詐欺の手口は巧妙化しており、企業側の慎重な対応が求められています。
M&A詐欺の手法
売り手が狙われるケース
売り手企業が巻き込まれる詐欺の一例として、買い手が偽の事業計画を提示して信頼を得た後、資金や資産を持ち逃げする手口が挙げられます。
また、仲介業者が虚偽の買収希望者を紹介し、高額な仲介手数料を請求される事例も報告されています。さらには、買い手側による機密情報の不正取得や、契約成立後の対価未払いといった問題も発生しています。
買い手が狙われるケース
買い手企業が被害を受ける詐欺では、売り手が財務上のリスクや負債を意図的に隠すことが主な詐欺の手法となります。
中には、経営状況を誇張して売却価格を不当に引き上げるケースもあります。また、仲介業者が開示資料や契約手続きの名目で高額な追加費用を要求する詐欺も発生しています。
これらの被害を防ぐためには、売り手・買い手ともに第三者の専門家による十分な調査や契約内容の確認をしっかり行うことが大切です。
M&A詐欺に巻き込まれないために注意すべき点5選
M&A詐欺に巻き込まれないためには、どのようなことに注意すればいいのでしょうか?注意すべきポイントを5つ紹介します。
- 専門家に相談する
- 信頼できる仲介会社を選ぶ
- 徹底的に調査(デューデリジェンス)する
- やり取りの記録を残す
- 契約内容を細部まで確認する
専門家に相談する
M&Aの過程で詐欺に巻き込まれるリスクを軽減するには、信頼できる専門家に相談することが大切です。
M&Aは複雑なプロセスを伴うため、法務や財務、税務など専門知識が必要な場面が多くあります。適切な知識や経験がない場合、自身で判断することは困難であり、詐欺被害に遭うリスクも高くなります。
たとえば、企業価値の算定が過大または過小である場合や、取引条件が一方的に不利な内容であった際、専門家が関与することで問題を事前に察知し、適切な対策を講じることができます。
また、専門家は契約書の細部や法律的な抜け穴にも精通しているため、詐欺行為を未然に防ぐためのアドバイスを得ることが可能です。
専門家に相談する際は、弁護士や公認会計士、税理士など、M&Aの経験が豊富で実績のある人を選ぶことが大切です。知識と経験がある専門家の力を借りることで、安全に取引を進めることができるでしょう。
信頼できる仲介会社を選ぶ
M&Aの取引を安全に進めるには、信頼できる仲介会社の選定も大切なポイントです。仲介会社は取引先のマッチングや交渉を円滑に進める役割を果たしますが、不適切な会社に依頼すると詐欺被害のリスクが高まります。
信頼性の低い仲介会社は、十分な調査を行わずに交渉相手を紹介したり、外部の第三者を通じて情報を共有することで取引の透明性が損なわれたりするケースがあります。この結果、詐欺を目的とした企業が取引に関与するリスクが高まります。
仲介会社を選ぶ際は、業界内での評判や実績、過去の取引事例などを確認しましょう。また、情報管理体制が整備されており、守秘義務を厳守しているかどうかも重要なポイントです。
信頼できる仲介会社とパートナーシップを築くことで、安心して取引を進めることが可能になります。
徹底的に調査(デューデリジェンス)する
M&Aにおいて詐欺を防ぐには、対象企業に対する徹底的な調査(デューデリジェンス)が欠かせません。
このプロセスでは、対象企業の財務状況や法務リスク、ビジネスモデルなどを詳細に調査します。不正な情報やリスクが取引前に明らかになれば、詐欺被害を未然に防ぐことが可能です。
たとえば、財務諸表に隠された赤字や負債の存在、不透明な取引先との契約などは、表面上の情報からでは見抜けないことがあります。専門家を交えた調査を実施することで、これらの問題点を浮き彫りにできます。
バイリンガル探偵・興信所であるJapan PIでは、企業信用調査やM&Aのリスクに対応したデューデリジェンスを行っています。
Japan PI代表の小山氏にどのような調査を行っているか、お話をお伺いしました。
”Japan PIは、M&Aにおけるリスクマネジメントのコンサルタントとして、関係者に調査サービスを提供しています。
主要な経営幹部を監視して秘密取引を明らかにしたり、アクティビストが資金確保のために利用する可能性があるスキャンダルを暴いたりするなど、複雑な問題に取り組んでいます。
関係者への徹底的な調査や現地調査の実施は、上場企業の数十億ドル規模のM&Aに大きな影響を与える可能性があります。
当事務所は、状況に応じて、アクティビスト(投資家)とアクティビストに対応する企業の双方にサービスを提供。
アクティビストは、上場企業の株式を内密に取得することがあります。アクティビストのバックグラウンドを調査し、明かされていないつながりを特定することは、企業にとって重要です。当社は、このような身元調査も実施しています。”
やり取りの記録を残す
M&A取引の過程で全てのやりとりの記録を残すことも、詐欺を防ぐための有効な手段です。特に、交渉や契約内容の変更が頻繁に行われる場合、後から内容を確認したり、証拠として提示したりする必要が生じる可能性があります。
たとえば、交渉中に提示された条件が後に不利な内容に修正された場合でも記録があれば不正を明らかにできます。これには、メールや書面でのやり取りはもちろん、電話や対面での会話を録音することも含まれます。
記録を残す際は、相手の承諾を得て正確な情報を保管することが大切です。また、記録は取引後も一定期間保管しておくことで、問題が発生した際の証拠として活用できます。記録を体系的に管理することで、取引の透明性を確保し詐欺のリスクを低減できます。
契約内容を細部まで確認する
M&A取引では、契約内容を細部まで確認することが詐欺防止の重要なポイントです。契約書には、秘密保持契約や基本合意書、本契約書など、複数の書類が含まれるため、それぞれの項目を慎重に精査する必要があります。
契約内容の確認を怠ると、不利な条件や予期せぬ条項が含まれていることに気づかず、後々トラブルになる可能性があります。
契約書を確認する際は、できる限り弁護士や法務専門家のサポートを受けることを推奨します。専門家が関与することで、リスクを未然に防ぎ、正確な理解のもとで取引を進めることができます。契約書の細部にまで目を通し、不明点があれば事前に解消することで安全なM&Aを目指しましょう。
実際にあったM&A詐欺の事例
実際にあったM&A詐欺の事例として、東京都千代田区の投資会社「ルシアンホールディングス」が関与した被害を2つ紹介します。
老舗喫茶店
長年、新橋で喫茶店を営んできた菊地一彦さんは、高齢と借金の問題から店舗の売却を決断。2022年、M&A仲介業者から紹介されたルシアンホールディングスは資金力と事業ノウハウをアピールし、菊地さんは信頼して株式を無償譲渡しました。
しかし、契約後に賃料滞納が続き、借入金の名義変更もされないまま従業員が次々と退職。結局、店舗は閉店し、借金だけが残る結果に。この事例では仲介業者の責任も問われ、他の三十以上の被害者が会を結成し、ルシアン側への法的責任を追求中です。
参照:NHK
分析機器メーカー
分析機器メーカー「センシュー科学」を創業した山口千秋さんは、債務3億円と妻の介護問題から事業継続を断念し、2022年にM&A仲介会社を通じてルシアンホールディングスへ売却しました。
しかし、売却後、約束していた連帯保証の解除は行われず、会社の資金6000万円が流出。最終的にセンシュー科学は倒産し、山口さんは家を失いました。経営者個人の生活にまで膨大な影響を与えたこの事例は、M&Aの審査体制強化の必要性を浮き彫りにしています。
参照:テレ東
まとめ
本記事では、M&A詐欺の主な手法や注意点などについて解説しました。
詐欺師は、架空の投資話や契約書の改ざんなど、さまざまな方法でターゲットを狙います。M&A詐欺による被害を未然に防ぐには、相手企業の信用調査を徹底し、専門家のサポートを活用することが重要です。また、不審な提案や過度に有利な条件には慎重に対応する姿勢が求められます。
M&Aはビジネス成長のチャンスである一方、リスクも伴います。本記事を参考に適切な知識と準備をもち、信頼性の高い取引を実現しましょう。