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事業譲渡と株式譲渡の違いとは?5つの違いを徹底解説!

2020.12.09 M&A知識

中小企業のM&Aは、主に株式譲渡または事業譲渡の手法が用いられます。

名前が似ていることもあり、初めてM&Aを行う方はどちらの手法を使うべきか悩む傾向にあります。

そこで今回は、事業譲渡と株式譲渡における5つの違いを解説します。

売買する対象

事業譲渡と株式譲渡における最たる違いは、売買する対象です。

事業譲渡における売買対象

事業譲渡では、売り手企業が運営する事業の一部またはすべてが売買対象となります。

具体的には、譲渡対象の事業に属する資産や権利義務が売買されます。

あくまで事業を売買するため、たとえすべての事業を売却したとしても、会社の経営権自体は存続します。

株式譲渡における売買対象

一方で株式譲渡の場合、売買する対象は売り手企業が発行している株式となります。基本的には、会社が発行しているすべての株式が売買されます。

株式を売買する仕組み上、株主(経営陣)以外には何も変動は生じません。

したがって株式譲渡では、売り手企業が持つ権利義務や許認可などが自動的に買い手に引き継がれます。

取引の主体

事業譲渡と株式譲渡における2つ目の違いは、取引を実施する主体です。

事業譲渡の取引主体

事業譲渡では、企業(または個人事業主)同士で事業の売買を行います。

売買による利益を獲得するのは企業であり、株主は利益を得ることができません。

株式譲渡の取引主体

一方で株式譲渡では、株主同士または株主と事業者によって契約が結ばれます。

したがって、取引の主体となるのは法人(事業主)ではなく株主となります。

あくまで株主が利益を得るため、法人側に利益がもたらされることはありません(法人株主のケースを除く)。

M&Aを行う目的

M&Aを行う目的も、事業譲渡と株式譲渡では根本的に異なります。

事業譲渡の目的

事業譲渡は、一部の事業のみを取得・売却する目的で実施されます。

具体的な目的は、売り手と買い手で異なります。

売り手の場合、主に「不採算事業からの撤退」や「資金の獲得」、「主力事業への集中」を目的に事業譲渡を実施します。

一方で買い手は、主に「既存事業の拡大」や「新規市場への進出」、「弱みの補強」などを目的に事業譲渡を活用します。

特に、売り手企業から簿外債務や不要な資産を引き継ぎたくない場合に、事業譲渡の手法が選ばれやすいです。

株式譲渡の目的

株式譲渡は、会社まるごと売買する目的で実施されます。

具体的な目的は、事業譲渡と同様に売り手と買い手で異なります。

売り手は、主に「事業承継」や「創業者利益の獲得」を目的に株式譲渡を行います。

一方で買い手は、事業譲渡と同様に「既存事業の拡大」や「新規事業への進出」などを目的に株式譲渡を活用します。

特に、面倒な手続きをせずスムーズに目的を達成したい場合は、事業譲渡よりも株式譲渡の手法が用いられます。

関連記事:M&Aを実施する目的とは?売り手・買い手双方の視点から解説

手続きの流れ

事業譲渡と株式譲渡では、M&Aで行う手続きにも大きな違いがあります。

事業譲渡の手続き

事業譲渡では、主に以下の手続きを行う必要があります。

  • M&Aの検討と準備
  • 売り手・買い手同士による面談と交渉
  • デューデリジェンス
  • 事業譲渡契約の締結
  • 株主への通知または公告
  • 株主総会の特別決議(不要なケースあり)
  • 反対株主の買取請求
  • 財産や契約の名義変更手続き

特筆すべきは、買い手側で買収したい財産や契約に関して、1つずつ名義変更や移転の手続きを行わなくてはならない点です。

個別に契約や各種手続きをし直す必要があるため、M&Aの完了までに多大な労力と時間がかかるおそれがあります。

株式譲渡の手続き

株式譲渡によるM&Aでは、主に以下の手続きが必要です。

  • M&Aの検討と準備
  • 売り手・買い手同士による面談と交渉
  • デューデリジェンス
  • 譲渡制限株式の承認請求
  • 取締役会または株主総会による譲渡承認
  • 株式譲渡契約の締結
  • 株主名簿の書き換え

事業譲渡と比べると、手続きが遥かに簡単である点がメリットです。

迅速にM&Aを行いたかったり手間をかけたくない場合には、事業譲渡よりも株式譲渡が適しているでしょう。

関連記事:M&Aの流れ【検討段階からの手続きを徹底解説】

税金

事業譲渡と株式譲渡における5つ目の違いは税金です。

事業譲渡の税金

事業譲渡では、事業を売却した会社に対して法人税等と消費税が課税されます。

法人税等は、事業譲渡で得られた利益と、本業などで得られた利益を合算した金額に対して課税されます。

一方で消費税は、事業譲渡で売却した資産のうち、消費税法で規定された非課税資産を除く部分に課税されます。

※補足

個人事業主の事業譲渡では、法人税等ではなく所得税が課税されます。

株式譲渡の税金

株式譲渡では、株式を売却した株主に対して、所得税と住民税が課税されます。

所得税と住民税は、どちらも譲渡所得に対して課税されます。

譲渡所得とは、売却金額から取得費と譲渡費用を差し引いた金額です。

なお所得税の税率は15.315%、住民税の税率は5%となっています。

※補足

株主が法人だと法人税等が課税されますが、中小企業ではあまりないケースなので割愛します。

まとめ

事業譲渡と株式譲渡の違いをまとめると次のとおりです。

  株式譲渡 事業譲渡
売買する対象 株式 事業(資産や権利義務)
取引の主体 株主 会社
目的

・売り手:事業承継、創業者利益の獲得

・買い手:スムーズかつ少ない手間でM&Aを行う

・売り手:不採算事業からの撤退、資金の獲得、主力事業への集中

・買い手:不要な資産や簿外債務を引き継がずにM&Aを行う

主な手続き ・M&Aの検討と準備

・売り手・買い手同士による面談と交渉

・デューデリジェンス

・譲渡制限株式の承認請求

・取締役会または株主総会による譲渡承認

・株式譲渡契約の締結

・株主名簿の書き換え

・M&Aの検討と準備

・売り手と買い手による面談と交渉

・デューデリジェンス

・事業譲渡契約の締結

・株主への通知または公告

・株主総会の特別決議(不要なケースあり)

・反対株主の買取請求

・財産や契約の名義変更手続き

税金

所得税と住民税

(ただし法人株主だと法人税等が課税される)

法人税等と消費税

(ただし個人事業主の場合は、法人税等ではなく所得税が課税される)

見てわかるとおり、事業譲渡と株式譲渡のあいだには大きな違いがあります。

違いを考慮した上で、ご自身にとって最適な手法を選ぶようにしましょう。