M&Aで起こりやすいトラブルや失敗の原因や回避策は?

2019.03.29 会社・事業を買う
ビル

企業や事業の成長のために企業買収を行っても、思ったような効果を生まなかったり、買収先の企業の業績が悪化したりするなど、失敗といえる事態に見舞われることがあります。また、買収後に簿外債務が見つかり、支払いを巡ってトラブルになるケースも少なくありません。

そこで、買い手側企業の視点から、M&Aで起こりやすいトラブルを挙げたうえで、失敗の原因や回避策について解説していきます。

買収先企業の選定ミス

買い手側企業が主体性を持たずに、M&A仲介会社の勧めるがままに買収を進めるケースなど、M&Aでは買収先企業の選定ミスは起こりやすい失敗の一つです。買収先企業の選定ミスにつながる原因や回避策をみていきましょう。

M&A仲介会社の勧めるがままに買収を決定

M&A仲介会社などに企業買収をしたい意思を伝えると、希望条件に合った業種や譲渡金額の企業の買収を打診されることがあります。しかし、M&A仲介会社によっては売り手企業や買い手企業の業種への理解が、浅いケースもみられます。売り手企業の詳細な事業内容や強みを深く理解してない場合、さほどシナジー効果が見込めないにも関わらず、買収を持ちかけるケースがあるのです。また、何社にも断れた買収案件を持ち込んでくるケースもあり、多くの企業が最終的に買収に至らなかった企業には、何か問題を抱えている可能性が否めません。

M&A仲介会社によって業種や企業規模による得手不得手があり、アドバイザーによる能力の違いもあるため、利用するM&A仲介会社を見極めることが大切です。

また、同じ業種であっても、企業によって得意とする分野やビジネススタイルには違いがあります。特に異業種の企業の買収を希望する場合には、買収によるシナジー効果が見込めるか、企業の情報を精査して慎重に検討をすることが大切です。

M&A仲介会社に勧められた企業にすぐ飛びつくのではなく、自社が買収するのに向いて企業であるか、慎重に検討しましょう。

経営戦略上の判断ミス

M&Aは時間を買うことができるビジネス手法といわれ、新規に立ち上げるよりも、事業を軌道に載せるまでの期間を省けるとされています。しかし、買収にかかる費用によってはコストが見合わず、一から立ち上げた方が費用を抑えられます。また、コスト面では見合っても、企業文化が合わない企業の場合、自社のビジネススタイルで運営しにくいケースもあります。買収を検討する場合には、当該企業の買収が経営戦略上、適切であるか改めて検討することが必要です。

シナジー効果の過信

買収によるシナジー効果を高く評価し過ぎることも、M&Aが失敗となる要因の一つです。
M&Aによるシナジー効果は、明確に数値化することは難しいケースが少なくありません。そのため、シナジー効果を期待して買収に踏み切ると、思った通りの成果が得られないケースがあります。企業価値を評価する際には、シナジー効果を見込んだ場合、シナジー効果が見込めない場合、業績が悪化した場合の3パターンをもとに検討するなど、シナジー効果を過大評価しないように注意することが大切です。

デューデリジェンスで価値を正しく判断

こうした失敗を防ぐためには、デューデリジェンスを行い、企業価値を正しく判断することが大切です。デューデリジェンスを実施するには、専門家への支払いが発生するため、内部のスタッフによる調査で買収を進めてしまうケースがあります。しかし、詳細な部分の判断を見誤り、M&Aが失敗に終わるケースもありますので、デューデリジェンス費用は必要経費として準備しておきましょう。

M&A後の簿外債務の発覚

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中小企業では、簿外債務が発生すること自体は、会計処理上の理由から珍しいことではありません。通常は、売り手側企業は、買い手側企業に提示する書類で、簿外債務を明確にしています。しかし、M&Aの実施後に隠れた簿外債務が発覚して、大きなトラブルになることがあります。売り手企業が簿外債務によって発生するコストの負担を求めるために裁判を起こすには、費用も手間も時間もかかってしまいます。

中小企業では簿外債務が存在することが多い理由や回避策について、みていきましょう。

簿外債務が存在する理由

そもそも簿外債務とは、帳簿に書かれていない債務、すなわち貸借対照表に記載のない債務をいいます。簿外債務であっても、株式譲渡によるM&Aなどでは買い手側企業が債務を引き継ぐことになるため、帳簿に書かれていない債務が後から発生してしまうと、想定外の損失を抱えることになります。

ただし、中小企業の会計処理で簿外債務が発生することが多いのは、税務会計を採用している企業が多いことが理由であり、簿外債務があること自体に問題があるわけではありません。

主な企業会計の種類に財務会計と税務会計があります。大企業の多くは財務会計を採用していますが、株主や投資家、金融機関、取引先など外部の利害関係者に対して、経営状態を示すことを目的としたものです。一方、中小企業の多くで採用する税務会計は、企業の所得税を算出するためのものです。財務会計と税務会計では、費用計上できるものや会計処理方法などに、違いがあります。

税務会計では、企業側はできるだけ多くの費用を計上して税負担を軽くしたいという意図が働きやすいですが、反対に税務署側はできるだけ費用計上をさせないで多くの税金を徴収したいと考えています。そこで、税務会計では、実際に支払い義務が発生していない費用、損金ではない、という考え方がとられています。そのため、今後発生することが明らかでありながら、計上されていない簿外債務があるのです。たとえば、未払いの給与、賞与引当金、退職金引当金などの簿外債務は、売り手企業から決算書への注意書き等で申告を受けていれば問題ありません。

また、過去に遡って未払い残業代がある場合、時効までの2年分を従業員から請求されるリスクがあるため、買い手企業に申告するべきものになります。この他に、発生しやすい簿外債務として、回収の見込みがない売掛金や、社会保険に加入義務がありながら未加入の場合の保険料などが挙げられます。また、他社の債務保証を行っている、訴訟リスクを抱えている、金融商品の含み損があるといったケースもあります。

意図的に将来発生する可能性のある偶発債務が記載されていないこともあるため、簿外債務に注意をする必要があるのです。

デューデリジェンスを徹底する

こうした簿外債務に気づかずにM&Aを実行することがないよう、売り手企業と基本合意契約を結んだ後、デューデリジェンス(買収監査)を徹底的に行うようにします。譲渡契約を結ぶ前に簿外債務がわかれば、M&Aをとりやめる、あるいは譲渡予定価格から差し引く交渉を行うといった対策がとれます。

デューデリジェンスは、財務、法務、労務、ビジネスの面から行われます。財務デューデリジェンスは公認会計士事務所、法務デューデリジェンスは弁護士事務所、労務デューデリジェンスは社会保険労務士事務所といったプロに依頼するのが一般的です。

契約に表明保証を明記する

簿外債務がM&Aを実行後に発覚するのを防ぐ方法として、契約に表明保証を求めることが挙げられます。表明保証とは、最終的に譲渡契約を結ぶ際に、譲渡日における財務や税務、法務などに関する事項が正確であること保証するものです。

デューデリジェンスを徹底して行っても、短期間ですべての問題点を把握し、譲渡価格に反映させるための交渉を行うことは難しいです。そのため、譲渡契約には、表明保証を盛り込むことが一般的です。

M&A後の社員の大量退職

打ち合わせ

M&A後に買収した企業の社員が大量に退職してしまうケースもありますが、事業運営に大きな支障をきたします。また、キーマンとなる人材が抜けてしまうと、人材を新たに採用しても、これまで通りの事業運営が難しくなるケースもあります。M&A後に社員の大量退職が起こることがある理由や回避先をみていきましょう。

多くの従業員が不安に思うのは会社の方向性や待遇

M&Aが発表されると、転職をすることが頭をよぎる社員は多かれ少なかれいます。M&Aによって経営陣が変わることで、多くの従業員が不安に感じるのは会社の方向性が変わることによって、仕事の進め方が変更になることや待遇の悪化です。今後の給与や賞与がどうなるのか、労働条件や福利厚生などの待遇はどうなるのか、収入や働き方に直結することは多くの従業員が気になる点です。また、組織改組や人事異動、評価方法などはキャリアに関わってきます。業務手続きやシステムの変更よって、担当する職務内容が変わると働きやすさやキャリアに影響します。

実際に社員の大量退職が起こるのは、従業員にとってM&A後の先行きが見えないケースや、すぐに大きな変革が起きたというケースが多くを占めています。また、M&Aの成立前に売り手企業の社内に情報が広まると、その段階で大量の退職者が出ることもあります。

M&Aの告知後速やかに社員にメッセージを発信

M&Aによる大量退職を招かないためには、M&Aの成立前の段階では、メールの件名や会議名にも気を配るなど情報管理を徹底するよう、売り手企業に求めることが大切です。また、M&A直後には待遇や事業の方向性を大きく変えないソフトランディングで運営することと、そしていち早くそのことを従業員に伝えておくことがポイントです。M&Aが成立して公表するする際には、買い手企業が会議やビデオメッセージで直接説明ができる機会を設けてもらえるよう、事前に売り手企業に要請しておきましょう。重要なキーマンに対しては、一般社員への公表前に伝えてもらうなどの対策も考えられます。

M&A後の従業員の退職を防ぐ方法については、『PMIとは?M&Aでの円滑な事業の引継ぎを実現するポイント』でも詳しく解説しています。

M&A直後の業績悪化

後ろ姿の男性

M&Aで手に入れた企業が、直後に業績悪化が悪化してしまっては、シナジー効果を期待できないだけでなく、赤字を埋めるための資金が必要となり、共倒れとなるリスクさえあります。しかし、現実的にはM&Aの成立後に業績が悪化し、予想外の事態を招くケースがあります。

買収先企業に経営状態を伝える義務はない

買い手企業に対して、虚偽の情報を伝えることには違法性があるものの、決算資料など提出している資料が正確であれば、業績が悪化していることを伝える義務はありません。そのため、決算上は業績が好調であっても、直近では業績の悪化が見込まれている場合など、M&Aの直後に業績が悪化することが起こり得るのです。

デューデリジェンスや市況の見極めが重要

M&A直後に業績が悪化する企業の買収を避けるためには、デューデリジェンスを徹底して行い、不透明な部分があれば追加資料の提出を求めることが大切です。また、業界の市況感などからも、今後の成長性について検討を重ねるようにしましょう。

経営を任せっぱなしにするリスクも

買収後に引き続き、旧オーナーなどの経営陣に経営を任せるケースもありますが、任せっぱなしにしていることも、M&A直後に業績が悪化する原因になります。インセンティブが得られなくなっていたり、エクジットによって多くの資金を手にしたりしていることによって、モチベーションが低下すると、これまで通りの熱意を持って企業経営を行えなくなりがちです。チェック機能を持つか、事業の引き継ぎを行うなど、対策を練っておきましょう。

まとめ

M&Aは実現できたものの、買い手企業側にとって失敗となったり、トラブルに見舞われたりするのは、そもそも買収先企業の選定ミスというケースが少なくありません。また、M&Aの成立までの過程で、企業価値の評価方法が実態とかけ離れていたり、デューデリジェンスをしっかりと行っていなかったりすることも、問題を引き起こす要因になります。

売り手企業を探して条件交渉を行い、適切な価格で譲渡契約を結ぶまでのM&Aの一連の過程を自社のみで行うのは難易度が高く、マンパワーも要します。M&Aを成功させるためには、M&A仲介会社や買収先企業を見極めることが大切です。買収を目指す企業の業種や企業規模を得意とするM&A仲介会社に依頼するとともに、アドバイザーのサポートを受けながら、企業買収を進めていきましょう。