• TOP
  • M&A知識
  • M&Aにかかった費用は損金算入できる?具体的な事例を用いて解説!

M&Aにかかった費用は損金算入できる?具体的な事例を用いて解説!

2021.05.28 M&A知識

M&Aを実行するにあたり、デューデリジェンス費用、仲介手数料、登記費用など多くの種類の費用がかかります。

今回は、これらのM&A費用が損金算入できるのかについて、損金算入の概要から、具体的な事例を用いて解説していきます。

損金と費用の違いについて

損金とは、税務上の費用のことであり、会計上の費用とは異なる概念です。

損金の反対語としては、益金であり、税務上の収益を表している用語です。

損金と費用の違いを考えるにあたり、例えば、交際費について考えてみましょう。

交際費は会計上、基本的にはいくら取引を行ったとしても、すべて費用に計上することができます。

一方、税務上は会社の規模に応じて損金算入できる限度額が定まっています。

損金と費用に差異が生じる理由

交際費をいくらでも損金算入できるルールの場合、利益が出ている会社は年度末にすべて交際費として使ってしまうかもしれません。

交際費をすべて損金算入し利益をゼロにしてしまうと、税務署としては法人税を徴収することができません。

そのため、税務上のルールとして、交際費の損金算入限度額を定めなければ国全体の税収が下がってしまうため、限度額を設定しているのです。

一方、会計は利害関係者のために、適切に企業の状況を伝える目的で数字が作られているので、限度額が定められることはありません。

M&Aにかかる費用で損金算入できないもの

M&Aにおいて、株式取得費用と特定株式の取得に要した費用は、損金算入することができません。具体的には、以下のような費用は損金算入できず、株式の取得価額に算入されることになります。

  • 株式取得費用(株式譲受対価)
  • 公認会計士、税理士、弁護士などに支払うデューデリジェンス費用
  • 契約書作成のための弁護士費用
  • M&A仲介手数料、成功報酬

損金算入できるタイミング

M&Aした段階では損金できなかった費用について、株式を処分した際には損金算入が可能です。

株式の処分とは、買収した株式を第三者に売却した場合、廃業・倒産の場合が該当します。

例えば、2021年に株式取得費用1億円、デューデリジェンス費用1,000万円でA社を買収したケースを考えてみましょう。

A社の株式取得費用は1億1,000万円で、2021年には損金算入できる金額はありません。

1年後、A社の株式を2億円で売却した場合、株式売却益は以下のとおりです。

  • 2億円―1億1,000万円=9,000万円

結果として、デューデリジェンス費用1,000万円が、株式売却益を下げており、デューデリジェンス費用も適切に損金算入されていることが分かります。

M&Aにかかる費用で損金算入できるもの

M&Aにおいて、特定の株式購入に紐づかない支出については、損金算入することができます。

例えば、以下のような費用が挙げられます。

  • M&A実施前の市場調査費用
  • M&A戦略立案のためのコンサル費用
  • 基本合意書締結前の簡易デューデリジェンス費用
  • 買収後、対象会社の役員変更した際の登記費用
  • 有価証券取得のための通信費、名義書換料

市場調査費用、コンサル費用、基本合意書締結前の簡易デューデリジェンス費用は、その後に特定の会社の買収が成立したとしても、支払い義務が生じた期に通常の費用と同様に損金算入することができます。

また、買収後の登記にかかったお金については、すでに買収後であることから、上記と同様に損金算入されます。

有価証券取得のための通信費や名義書換料については、取得価格に含めないことができる旨、税法上で定められているため、発生した期の損金に算入することができます。

まとめると、「特定の株式取得に要した費用か」によって、税金を計算する上で、損金算入できるかできないかが変わってくるため、事前によく検討しておくことがポイントです。

参考:

国税庁 第2款 有価証券の取得価格

M&Aで生じたのれんについて

のれんは、スキームによって会計・税務上の処理が変わってくる点に留意が必要です。

株式譲渡の場合、会計上も税務上も個別財務諸表においてのれんは発生しません。

中小企業では連結財務諸表を作成する機会は少ないかもしれませんが、上場企業などにおいて、連結財務諸表を作成している場合のみ、のれんが計上され、会計原則上は20年以内の定額償却が求められています。

連結財務諸表におけるのれんは、税務には関係なく、制度上、損金算入されることもありません。

一方、事業譲渡の場合、個別財務諸表において、会計・税務上でのれん(資産調整勘定)が発生します。

事業譲渡ののれんは5年で定額償却されることがもとめられており、損金算入することができます。

例えば、1億円で事業譲渡を受け、その全額がのれんだった場合、毎年の損金計上額は以下の通りです。

  • 1億円÷5年=2,000万円

1億円の事業譲受をすることで、毎年2,000万円の損金計上ができ、その分、毎期の課税所得が圧縮され効果的な節税に繋がります。

事業譲渡以外に損金算入できるスキーム

事業譲渡以外にも、税務上ののれんが発生し損金算入できる場合があります。

主に以下のようなスキームを活用することが挙げられます。

  • 非適格合併
  • 非適格分割
  • 非適格株式交換・移転
  • 非適格現物出資

「非適格」合併など、非適格な組織再編の場合、税務上、資産・負債を「時価」で引き継ぐことになります。

反対に、「適格」合併などの場合、税務上、資産・負債を「簿価」で引き継ぐことになるため、のれんが発生することはありません。

「適格」になる要件は税務上厳格に定められており、「適格」以外のスキームは、すべて「非適格」となります。

M&Aの税制ストラクチャーは非常に複雑であり、実務において、のれんが償却できるからこのスキームが良いといった判断をすることはできません。

複合的な判断が求められること、最新の税制改正の影響を毎年加味すべきであることから、複雑なストラクチャーを利用する場合には、必ず税理士の先生に確認いただくようにしましょう。

参考:

新日本有限責任監査法人 企業結合の税務

専門家への相談が重要

以上、見てきた通り、株式投資に直接要した費用については、基本的には損金算入することができません。

株式取得に直接要した費用かどうかあいまいな場合には、M&Aに詳しい税理士などの専門家に相談することがお勧めです。

また、経営者自身で複雑な税務スキームの可否を判断することは、税務において損してしまうリスクがあまりに大きいため、必ず、専門家からの支援を受けるようにしましょう。

周りにM&Aに詳しい税理士がいないといった場合には、M&AアドバイザリーなどM&A専門家に相談することで、頼れるプロフェッショナルを紹介してもらえる場合があります。

M&Aの税務や法務は、高度な知識とノウハウが要求される業務であり、法人の経営、財務に大きなインパクトを与えます。

そのため、自らで判断してしまってプロジェクトを進めてしまうと、後で大きな課税が生じることになったといった大きな問題になる可能性があります。

実際にM&Aのプロジェクトを進める前に税務関係についても、気軽に相談できる専門家やサービスを見つけておくことが重要です。