廃業とM&Aのどちらを選択するべき?メリデメを解説!
2021.04.14 M&A知識ビジネスを辞める場合、経営者には大きく廃業とM&Aの選択肢があります。今回は、廃業とM&Aのどちらを選ぶべきか、廃業とM&Aの違い、廃業と比べたM&Aのメリット・デメリットを説明しながら解説していきます。
目次
廃業とは
廃業とは自主的に事業を廃止する手法です。
株式会社を法的に消滅させるためには、解散、清算という手続を経る必要があります。
自社を精算することで、会社に残っている全ての資産を株主に配分することができます。
自社の営業を停止し実質的に廃業させることもできますが、最終的に清算しておかなければ、毎年会社運営に必要なコストが永続的にかかってしまうという課題が残ります。
廃業と似たような用語として、「倒産」や「破産」が挙げられますが、倒産は債務の支払ができなくなり廃業せざるを得なくなった状況のことであり、自主的に行う廃業とは異なっています。
廃業と倒産の件数推移
2020年度において、廃業件数は49,698社(前年比+14%)、倒産件数は7,773社(前年比▲7%)でした。
倒産件数が前年から減少しているのは、コロナ対策として政府・自治体・銀行などの金融機関からの資金繰り支援策が有効だったためです。
一方、2013年以降、廃業件数は増加傾向にありますが、これは事業承継がなかなか進まずに社長の高齢化により廃業されるケースが増加していることが理由です。
廃業した企業の延べ従業員数は126,650人であり、年間で12万人以上の従業員が退職・離職・転職を余儀なくされています。
また、廃業した会社の代表者の年齢は4割が70歳以上である一方、事業の後継者が不足しており、高齢化社会が日本の大きな問題となっていることが分かります。
損益別データを見ると、廃業した会社の6割超が黒字経営の状態です。
近年、特に地方の中小企業において、親族が事業承継しない場合には、現状が黒字経営の会社であったとしても、次の後継者が決まらずに廃業するしかないという困難な状況が続いています。
参考:
廃業の手続
廃業の主な手続は以下のとおりです。
- 解散の株主総会特別決議
- 解散と清算人の登記
- 官報公告
- 会社清算時の貸借対照表作成
- 会社資産の売却、債務の弁済
- 残余財産の分配
- 決算報告の株主総会承認
- 会社清算結了の登記
会社資産の売却、債務の弁済後に残余財産の分配を行っていくことがポイントです。
廃業する会社に買掛金や借入金などの負債がある場合、会社資産を現金化することで先に弁済しなければなりません。
債務の弁済後に残った財産について、株主の持株比率によって分配することができます。
オーナー会社の社長であれば、100%最後に残った財産は自身のものですが、他の株主がいる場合は異なります。
例えば、残余財産が1億円、持株比率をAさん50%、Bさん30%、Cさん20%とした場合の分配金額は以下のとおりです。
- Aさん:5,000万円(1億円×50%)
- Bさん:3,000万円(1億円×30%)
- Cさん:2,000万円(1億円×20%)
廃業とM&Aとの主な違い
自社を廃業させ精算することで、M&Aと同様に資金を得られる可能性がある点は共通しています。
一方で、廃業とM&Aを比較すると、以下の点で大きく異なっています。
- 廃業はオーナー一人でも実現可能だが、M&Aは買い手が現れなければ実現できない
- 廃業よりもM&Aの方が負担する税額が少ない
- 実質債務超過の場合であっても、M&Aであれば売却できる可能性がある。
以下、より詳細に解説していきます。
1. 廃業はオーナー一人でも実現可能だが、M&Aは買い手が現れなければ実現できない
株主がオーナー一人の会社であれば、基本的には廃業し会社清算することはオーナー一人の意思決定で実現できます。
法的には、株主総会の特別決議による承認を得ることで、解散・清算手続を開始することができます。
一方、M&Aの場合、オーナーが会社を第三者へ売却したいと思っても買い手が現れなければ、株式譲渡や事業譲渡は成約しません。
また、例え買い手候補が現れたとしても、デューデリジェンスの結果、買い手がリスクが高いと判断し、買収の意思決定を取りやめる事例もあります。
2. 規模が大きくなれば、廃業よりもM&Aの方が負担する税額が少ない
廃業し会社清算した場合、会社に残った財産は株主に分配されます。
持株比率に応じて配分された財産は、株式の取得簿価に応じた部分は資本の払い戻しとして課税はされません。
しかし、株式の取得簿価を超える部分は、「みなし配当」として税務上取り扱われます。
みなし配当は、税務上、配当所得に該当し、他の所得と合算して総合課税されます。
そのため、みなし配当の金額が大きいものとなれば、最大45%の所得税率が適用されます。
例えば、廃業・会社清算によりみなし配当が1億円発生した場合は、45,000,000円の所得税がかかります。
また、みなし配当は総合課税であるため、みなし配当の他に役員報酬など他の所得がある場合には、合算されたうえで所得税が計算されてしまいます。
他方でM&Aの場合、株式売却益は分離課税となり、20.315%の固定税率です。
例えば、M&Aにより株式売却益1億円を得た場合は、20,315,000円の所得税がかかります。
株式売却益は分離課税であるため、役員報酬を貰っている場合であっても、株式売却益にかかる所得税の計算には影響を及ぼしません。
廃業とM&Aを比べると、金額規模が大きければ大きいほど、M&Aの方が税金を低く抑えることができ、有利になります。
参考:
3. 実質債務超過の場合であっても、M&Aであれば売却できる可能性がある
自社の債務が資産より多い状態を債務超過と言いますが、この場合、廃業・会社清算することが難しくなります。
なぜなら、債務超過の場合、通常の会社清算手続は利用できず、特別清算手続をしなければ会社清算が出来ないためです。
特別清算手続とは、債権者保護のため、株主等の申し立てによって裁判所の命令で開始される手続です。
そのため、通常の清算手続よりも裁判所が間に入る分、時間とコストがかかります。
M&Aの場合、債務超過であってもM&Aによって自社を売却し資金を得られる可能性があります。
M&A時の最終契約の内容次第ではありますが、多くの場合、買い手が自社の借金をそのまま引き継ぐことになるので、オーナー自らが借金を背負う必要がなくなります。
廃業と比べたM&Aのメリット
廃業と比べたM&Aのメリットは以下のとおりです。
- 廃業よりも高い金額を得られる可能性がある
- 案件規模が大きい場合、廃業よりも税負担が小さい
- M&Aであれば買い手に借金を引き継いでもらえる場合がある
- 従業員の雇用を継続させることができる
- 第三者に会社・サービス・取引先等をそのまま引き継いでもらうことができる
- 過去何年にも渡って経営してきたブランドを存続させることができる
廃業と比べたM&Aのデメリット
廃業と比べたM&Aのデメリットは以下のとおりです。
- 必ずしもM&Aによって売却できるわけではなく、かけた時間とコストが無駄になる場合がある
- M&Aの仲介手数料や弁護士費用など廃業の際よりも追加コストが必要である
- 買い手探しや交渉が難航すれば、廃業よりも長い時間がかかる場合がある
- M&A後も、一定期間の引継ぎや買い手への支援、対応が必要な場合がある
M&Aよりも廃業を選択した方が良い場合とは
以下のようなケースでは、M&Aを検討するよりも廃業した方が良い可能性があります。
- 資金に余裕があり、時間をかけてM&Aしたくても良い
- 株価の交渉などが苦手で、気軽に一人でできる方が良い
- 従業員がおらず、廃業しても他人の人生に影響を与えない
- 業績が悪く、自社の評価が付かない状態である
廃業にかかる時間とコスト
自社を廃業させる場合、会社法上、解散と清算の2つの行為を実行する必要があります。
株式会社の解散の際には、官報に解散公告を行わなければならず、公告掲載期間は2カ月以上です。
そのため、廃業する場合、最低でも2カ月以上の時間は見ておく必要があります。
コストは最低でも以下の登記費用41,000円が必要です。
- 解散の登記費用:30,000円
- 清算人の登記費用:9,000円
- 清算結了の登記費用:2,000円
また、上記とは別に専門家に廃業手続を依頼する場合、さらに数十万円程度の料金が必要です。
M&Aにかかる時間とコスト
通常の株式譲渡によるM&Aの場合、相手があってこその話なので、会社法によって定められている期間はありません。
最初に会社売却を決めたタイミングから、実際に売却金額を手にするまでの期間は案件により様々ですが、短くて3カ月程度、長ければ1年程度かかることもあります。
M&Aを実施するうえで売り手にかかるコストは、主に仲介手数料(仲介以外の場合、アドバイザー手数料、マッチング手数料など)です。
仲介手数料は手付金+成功報酬で計算される場合が多く、仲介会社によっては手付金が0円の会社もあります。
成功報酬率は、レーマン方式により計算されることが一般的です。
レーマン方式とは、取引価格が高くなるほど、手数料率が逓減される計算方式です。
レーマン方式による手数料体系は一般的には、以下のようなテーブルとなります。
- 5億円以下の部分・・・5%
- 5億円超10億円以下の部分・・・4%
- 10億円超50億円以下の部分・・・3%
- 50億円超100億円以下の部分・・・2%
- 100億円超の部分・・・1%
ただし、M&A仲介会社の報酬体系は会社ごとに大きく異なっている場合が多いため、仲介契約を締結する際は、事前によく報酬体系等を理解した後に決断することが大切です。
廃業寸前であってもM&Aできる企業の特徴
廃業寸前であってもM&Aをすぐに諦める必要はありません。
債務超過など事業がうまくいってない状況でも、買い手から一定の評価を得ることができ、売却することのできる企業の特徴は以下のとおりです。
- 買い手候補と事業シナジーが強く、買い手は廃業寸前であったとしても投資額を回収することができる
- 繰越欠損金があり、買い手に節税効果がある
- 買い手が経営に関与することで短期間に事業を立て直せると見込まれている
- 自社の人財、ブランド価値、技術力、業界内での評判が良いなど数字に表れない強みがある
廃業を考える前にM&Aを検討してみるべき
事業が上手くいってない、借金返済が重く資金繰りが厳しい、一度事業を畳みたいと思っているが従業員の雇用は守りたいなど、経営者は多くの悩みを持ち、廃業を考える理由は数多くあります。
廃業した場合、自身に配分することができる金額は、最大でも会社に残っている純資産です。
一方で、M&Aを活用する場合、純資産の数倍、数十倍といった金額で自社を売却できるケースもあります。
最初からM&Aは難しいと諦めずに、可能性がある場合はM&Aを戦略的に検討してみても良いでしょう。
M&Aに関する本、セミナー、インターネット上のコラムなど、自分で情報を集めることも大切ですが、M&Aは一人の力では成功することはありません。
本当に信頼のでき、かつ、M&A実績・経験の豊富な専門家からの支援を受けることが、M&A成功のために何よりも重要です。