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有利子負債があってもM&Aできる?負債の基本から解説!

2021.05.29 M&A知識

M&Aを考える際、対象会社に有利子負債がある場合は買い手も売り手も考えることは多くあります。

買い手にとっては有利子負債をうまく活用することで、M&Aを実行することもできます。

今回はM&Aにおける有利子負債の概要について解説していきます。

有利子負債とは

有利子負債とは、会社の負債の中でも利子を付けて返済するものです。

例えば、以下のような種類があります。

  • 借入金
  • 社債
  • コマーシャルペーパー
  • 転換社債

上記の中でも、中小企業においてよく利用されるのは借入金です。

借入金は、銀行、信用金庫、信用組合、日本政策投資銀行、ノンバンクなど様々な金融機関から融資を受けた際に使う勘定科目です。

自社が倒産した時の有利子負債の取り扱い

自社が倒産した場合、貸借対照表に計上されている資産をすべて金銭化し、有利子負債の返済に充てる必要があります。

債権者と株主では、弁済順位が債権者の方が上位であるためです。

すべて有利子負債が返済し終えた場合には、最終的に残ったお金を株主シェアに応じて配分することになります。

債務超過の状況などで倒産した場合、有利子負債が残ったままになりますが、経営者の連帯保証が入っていると、経営者自身が有利子負債の残りを弁済する必要があります。

また、銀行などから資金を借り入れる際に、土地や建物などの不動産を担保に入れていた場合には、それら担保も現金化されたうえで、有利子負債の返済に充てられることになります。

有利子負債と間違いやすい勘定科目

貸借対照表の負債項目において、買掛金、未払金、未払費用といった勘定科目は有利子負債ではありません。

負債であることは共通していますが、利子が付かない点で、借入金などとは性質が大きく異なっています。

仮に長期間支払っていない債務があり、法定利息が付くような状態であれば、有利子負債として取り扱われることになります。

また、有利子負債と比較されやすい勘定科目は、現預金です。

現預金から有利子負債を差し引いた金額を、「ネットキャッシュ」と呼びます。

例えば、現預金が2億円、有利子負債が1億円であれば、ネットキャッシュは1億円です。

逆に、現預金が1億円、有利子負債が2億円であればネットキャッシュは▲1億円となります。

有利子負債と増資の違い

有利子負債と増資は、資金調達である点は共通しています。

一方で、以下の点で大きく異なっています。

  • 有利子負債は返済する必要があるが、増資は返済する必要はない
  • 有利子負債は利息を支払う必要があるが、増資に利息は付かない
  • 増資はオーナーの持分比率が希薄化されるが、有利子負債は希薄化されない

一見すると、返済義務のない増資の方が有利に見えますが、オーナー経営者にとって持分比率が低下する大きなデメリットがあります。

オーナー経営者の持分比率が50%ギリギリの場合に増資を行ってしまうと、過半数割れとなり、会社の実権を握れなくなってしまいます。

会社が資金調達する際は、有利子負債と増資のメリット・デメリットを比較検討のうえ、どちらで調達するべきか意思決定する必要があります。

自己資本比率について

有利子負債を増加させることで、自己資本比率は低下します。

自己資本比率は、下記の計算式により算定され、企業の安全性を図る指標です。

  • 自己資本比率=自己資本÷総資産×100

例えば、有利子負債が5億円、自己資本(純資産)が5億円、総資産が10億円の会社の自己資本比率は以下のとおりです。

  • 5億円÷10億円×100=50%

自己資本比率が高いほど、会社が財務的に安定しているといえ、自己資本比率が低ければ低いほど危険な状態と見られることになります。

赤字の継続など、自己資本比率が低下すると、結果として、銀行から追加融資を断られるリスクが増加してしまいます。

過度な借入は避け、必要資金の調達を行うことが重要です。

有利子負債の金利の決まり方

有利子負債の金利は、金融機関の審査によって決定します。

金融機関は、主に債務者の以下のような事項を審査します。

  • 業種、業態、ビジネスモデルなど
  • 社歴
  • 貸借対照表、損益計算書などの財務数字
  • 事業計画、返済計画
  • 資金使途
  • 今までの返済実績

審査の結果が悪ければ、最悪の場合、借り入れること自体が困難になります。

担保や経営者の連帯保証、金利条件などについては、審査の結果次第で大きく変動します。

良い条件で資金調達したいと考えている場合、複数の金融機関と交渉することも大切ですが、根本的には、ビジネスの状況を良くすることが一番の近道になります。

金利と利益に関する指標

支払金利は、企業が本業で稼ぎだす利益の範囲内で収めなければ経常利益が赤字になってしまいます。

どの程度営業利益で支払利息をカバーできているかを表す指標として、インスタント・カバレッジ・レシオが挙げられます。

インスタント・カバレッジ・レシオは以下の計算式により計算されます。

  • インスタント・カバレッジ・レシオ=営業利益÷支払利息

営業利益が支払利息の何倍の水準かを意味しており、標準であれば2~3倍、理想を言えば10倍以上あると余裕をもった返済が可能となります。

例えば、営業利益が1億円、支払利息が1,000万円である際のインスタント・カバレッジ・レシオは、10倍になります。

1倍の水準になってしまうと、営業利益と支払利息が同額であることを意味しており、本業で稼いできた利益がすべて支払利息に消えてしまっています。

この状況では、借入金の元本返済がままならないため、金銭消費貸借契約の見直しが求められます。

借入に必要な資料

銀行から借入を行うためには必要な資料を提出し、審査を受ける必要があります。

例えば、中小企業が日本政策金融公庫から融資を受ける場合には以下のような基礎資料が必要となります。

  • 会社案内、製品カタログ等
  • 登記事項証明書
  • 直近3期分の決算書・税務申告書
  • 納税証明書
  • 最近の試算表
  • 設備投資資金の場合、内容が分かる資料
  • 担保の内容が分かる資料

審査を有利に行うためには、資料の準備など迅速な対応が求められます。

参考:

日本政策金融公庫 中小企業の方

有利子負債がある企業を買収する際の買い手の注意点

有利子負債がある企業を買収する際、買い手は以下の点に注意する必要があります。

  • 借入金額、金利
  • 担保、連帯保証の有無

株式譲渡によるM&Aの場合、買い手は対象会社の有利子負債を引き継ぐことになります。

そのため、買収後の営業キャッシュフローできちんと有利子負債が返済できるかどうかを確認する必要があります。

有利子負債と買収金額の関係性

M&Aの際の時価総額は、株式をいくらで売り手から買い取るかによって変動します。

時価総額(株式価値、株主価値)は、いかの計算式により計算されます。

  • 時価総額(株式価値、株主価値)=事業価値+非事業資産(土地など)-有利子負債

時価総額を計算したのち、発行済み株式総数で割り算することにより、一株当たりの株価を算定することが可能です。

また、間違いやすい用語として、企業価値が挙げられますが、企業価値は以下の計算式により算定します。

  • 企業価値=事業価値+非事業資産(土地など)

事業価値は、対象企業の売上、コスト、営業利益、キャッシュフロー、サービスのKPI、成長性、事業セグメント、事業計画など複数の要素によって評価されます。

事業価値に非事業資産を加算、有利子負債を減産することから、有利子負債が多ければ多いほど、買収金額も減少することが分かります。

買収後に、買い手は対象企業の有利子負債を返済しなければならないため、その分、価格も低くなることが分かります。

企業価値の計算方法

M&Aにおける企業価値算定の代表的な方法は、以下のとおりです。

  • DCF法(将来キャッシュフローを現在価値に割引計算する)
  • マルチプル法(類似上場企業の評価倍率をもとに算出する)
  • 修正純資産法(資産、負債の時価をもとに、時価純資産を計算する)
  • 年買法(純資産+営業利益×●年分と簡易的に計算する)

正しい計算方法といったものは存在せず、状況に応じて、実務上、上記の計算式をそれぞれ組み合わせて計算していくことになります。

上場企業のM&A事例では、DCF法とマルチプル法がよく利用される手法です。

特にマルチプル法のEBITDA倍率は、M&Aの相場を知る上で比較しやすく、使いやすい指標です。

正しい買収金額が分からないといった場合には、会計事務所や、FAS、税理士事務所などにおいて、株価算定業務を依頼することもできます。

経営者が自社を売却する場合にも、バリュエーションレポートを取得し、安値で売却することを防ぐこともできます。

買収金額全般に関して、不安に思っていることがある場合には、専門家に相談し、第三者からの目線で企業や事業の価値に関するアドバイスを受けることが大切です。

M&Aの資金調達としての有利子負債

買い手は、手元資金では買収できない場合、有利子負債を活用してM&Aする場合があります。

対象会社の資産と将来キャッシュフローを担保に資金調達を行い、M&Aする手法のことをLBO(Leveraged Buyout)と呼びます。

LBOは、2006年にソフトバンクがボーダフォンを買収した際にも利用されたスキームです。

LBOにより承継したボーダフォンは、ソフトバンクブランドとして生まれ変わり、大きく成功したM&A事例といって良いでしょう。

有利子負債を活用することで、より大型の案件をM&Aを行うことで成長を加速させることができる一方で、M&Aが失敗した際のリスクがより大きなものになります。

M&Aによるシナジーを含めたトータルリターンと、有利子負債によるリスク増加分を鑑み、うまく有利子負債を活用することがポイントです。

参考:

ソフトバンクが1兆7,500億円でボーダフォンを買収

有利子負債があっても会社売却することができる

売り手は、有利子負債がある状況であっても、問題なく自社を売却することが可能です。

経営者自身に連帯保証が入っている場合であれば、買収後、買い手が連帯保証に入るなど、売り手の連帯保証を外してもらう交渉も可能です。

ただし、株式譲渡ではなく、事業譲渡のスキームでM&Aを進める場合には事業譲渡の範囲に有利子負債を含めなければ、売り手に有利子負債がそのまま残ることは注意が必要です。

また、債務超過など、極端に財務状態が悪い時には、買い手もリスクが高いと判断し、買収を断念する可能性も高まります。

自社のBS、PL状況をよく分析しながら、売却のプロセスを進めることが大切です。

専門家に相談しながらM&Aを進めることが重要

買い手にとっても、売り手にとっても、多額の有利子負債がある対象会社をM&Aする際は、専門家に相談しながら各プロセスを進めることが大切です。

スキーム選択や税制など、細かい点に留意しなければならず、一度意思決定しまった事は基本的に後戻りすることは困難です。

M&Aの戦略策定など、初期の段階からM&A専門家を交えてプロジェクトを進めることで、M&Aの成約率を高めることができます。

有利子負債があるからといってM&Aを諦める必要はありません。

最初の相談は無料で実施してくれる専門家もいるため、気軽に相談してみることから始めましょう。