• TOP
  • 事業承継
  • 中小企業の事業承継の方法とは?M&Aなど3つの選択肢のポイント

中小企業の事業承継の方法とは?M&Aなど3つの選択肢のポイント

2019.01.20 事業承継
男性の経営者

長年、会社を経営し第一線で活躍していても、長年培ってきた事業を次の世代へと引き継いでいくことを考えるべきときがやってきます。後継者難に悩む中小企業は少なくありませんが、廃業という道を選ぶことにはデメリットが多く、M&Aによって第三者に引き継ぐことも選択肢の一つです。

中小企業の事業承継の方法について解説するとともに、事業承継問題について考えていきます。

事業承継とは

オーナー経営者は、経営者がある程度の年齢となったところで、事業承継について決めておくことが必要です。事業承継とは、会社の事業そのものを引き継ぐことをいいます。

事業承継には、社長としての「経営」との承継、株主としての「所有」や「支配」の承継があります。中小企業が安定した経営を行っていくためには、取引先や従業員、蓄積された業務のノウハウなど、経営資源を引き継ぐことも重要となります。

中小企業では経営者個人に会社の運営を依存している部分が多いため、事業承継によって大きな混乱が生じる可能性があります。そのため、経営者が60歳を迎えるタイミングで、事業承継の準備を進めておくことが望ましいのです。

中小企業の事業承継の方法

握手

中小企業の事業承継の方法は主に3つあります。それぞれの概要や利点、注意点などをみていきます。

親族に承継

親族内承継の中でも子供に承継する場合は、相続によって株式も引き継ぐことができるため、スムーズに事業承継ができます。後継者になることを前提に育てられている場合、心構えができていることに加えて、従業員や取引先の理解を得られやすいことがメリットです。子供がいない場合、近しい親戚に承継することも選択肢となります。

ただし、子供がその他の親族に事業を承継する意思があったとしても、必ずしも経営者としての資質があるとは限らないため、能力や適性を見極めることが必要です。あるいは、事業を承継した子供と、継いでいない子供の間で遺産相続に関するトラブル起きないように対策をとっておかなければなりません。

また、少子化により承継する子供がいないケースや、子供が他の職業に就いて受け継ぐことを拒否する場合が少なくなく、親族に事業承継できないケースが増えています。

親族以外の従業員に承継

親族に後継者の適任者がいない場合には、役員や管理職などの従業員を内部昇格させて事業承継を行う方法があります。社歴が長い従業員であれば、自社の事業内容を理解していることがメリットです。ただし、管理職として仕事ができたとしても、経営者として俯瞰的に見る資質が備わっているかどうかは別問題です。

また、親族以外の従業員が内部昇格する場合には、株式の取得費用を捻出できない点が問題となることが多いです。株式は親族が所有して支配権を維持したまま、経営を任せる方法もありますが、親族と良好な関係を築き続けられるとは限らないため、引き受け手を見つけにくいのが実情です。株式を贈与する場合は、贈与税が発生することを念頭に置いて検討しなければなりません。さらに、社長が会社の借り入れの個人保証を行っている場合、個人保証を引き継ぐことが障壁となり、従業員への承継が難しいケースもあります。

M&A

親族内承継も従業員の内部昇格も難しい場合、M&Aによって第三者に承継することも選択肢となります。オーナー経営者が保有する株式を第三者に譲渡する方法です。事業の継続を図ることで、従業員の雇用が確保されることが多いことがメリットです。また、オーナー経営者は、株式売却による創業者利益を得ることもできます。また、買い手企業のブランド力やノウハウを活かして、相乗効果による事業拡大を図れる可能性もあります。

一方で、希望する条件で買い手企業を見つける難しさがあるため、M&A仲介会社などの専門家に相談することがM&A成功の近道となります。M&A仲介会社に依頼することで、買い手候補となる企業のピックアップや、買い手側企業との条件交渉などを任せることができます。自社の経営理念やカルチャーへの理解が深い会社とのM&Aを選択すると、事業承継後の運営がスムーズに進められますので、買い手側企業との相互理解が要となります。譲渡価格や譲渡時期のみならず、売却後の引き継ぎ期間など、M&Aに際して取り決めが必要なことは多岐にわたることからも、M&A仲介会社にサポートを依頼すると安心です。

事業承継問題の顕在化

中小企業の経営者は高齢化が進み、事情継承問題が顕在化しているため、中小企業庁も取り組む課題となっています。中小企業の事業承継問題の実態についてまとめました。

中小企業の廃業は増加

中小企業の廃業は増加傾向にあるとされています。中小企業庁が2016年に「事業承継を中心とする事業活性化に関する検討会(第1回)」の資料として作成した『事業承継に関する現状と課題について』によると、中小企業の倒産数は2010年以降減っています。一方、休廃業・解散件数は、大企業を含むデータになりますが、2000年~2007年は2万件を切っていたものが、2008年から2015年のデータでは2万5000件を超えています。倒産は減少しているのに廃業は増加傾向にあることから、事業承継の問題があると考えられるのです。

子供が承継しないケースが増えている

出典:中小企業庁「事業承継に関する現状と課題について」

中小企業の廃業が増加傾向にある背景とされているのは、子供が事業承継しないケースの増加です。『事業承継に関する現状と課題について』の「経営者の在任期間別の現経営者と先代経営者との関係」という調査では、35年以上40年未満の在任期間の経営者は、先代経営者の「息子や娘」が83.5%、「息子や娘以外の親族」が9.2%で、親族への承継が多くを占めていました。しかし、5年未満の在任期間の経営者では「息子や娘」として承継したケースは26.7%、「息子や娘以外の親族」は7.6%となっており、大幅に子供を中心とする親族が承継するケースが減少しているのがわかります。

この30年余りの間に、子供が当たり前のように親の会社を継ぐ時代ではなくなったといえるのです。

親族以外への承継が増加傾向

同じデータによると、中小企業の事業承継で昨今では多くを占めているのは、親族以外による承継です。35年以上40年未満の在任期間の経営者では、「親族以外の役員や従業員」であったケースと「社外の第三者」への承継は、いずれも3.7%とわずかです。しかし、5年未満の在任期間の経営者では、「親族以外の役員や従業員」が26.4%、「社外の第三者」が39.3%と多くを占めるようになりました。

少子高齢化によって、後継者となる子供がいないケースや、職業の選択の幅が広がり、子供がいても継がないケースは増えると見込まれています。今後、中小企業の事業承継では、第三者によるM&Aがますます主流となっていくでしょう。

子供がいてもM&Aで事業承継をするケースとは

経営者

M&Aによる事業承継を選択するのは子供がいないケースに限りません。子供がいても、子供には会社を継がせることなく、あえてM&Aを選ぶ経営者もいます。M&Aを選択した理由を分類すると、子供に関する事情によるもの、親であるオーナー経営者の事情によるもの、業界の現状によるものに分けられます。

子供に関する事情

子供が別の仕事で将来性がある場合や、経営者としての資質がない場合には、第三者へのM&Aによる事業承継という選択がされることが多いです。

子供が別の仕事に就いている

かつては家業を継ぐのが当たり前とされてきた時代もありましたが、昨今では家業にとらわれずに職業を選ぶことが珍しくなくなってきました。特に、大手企業のサラリーマンとして活躍しているケースや、医師や弁護士、公認会計士、税理士などの士業の仕事をしているケースでは、現在、あるいは将来に得られるであろう収入やポジションを捨てて、親の会社を継いでも、それを上回る収入を得られるとは限りません。そのため、子供が会社を継ぐという選択がしにくいのです。

子供に経営者の資質がない

子供に会社を継ぐ意思があっても、経営者の子供が必ずしも経営者に向いているとは限らないのが実情です。子供を自社に入れて取締役のポジションに就けていても、経営者としての資質がないこともあります。

高度経済成長時代のように、作れば売れる時代とは異なり、少子化によって国内市場は縮小するとともに、変革のスピードが早くなり、数年前のビジネススタイルでは通用しない時代になって来ました。単に昔からの取引先を維持して、今まで通りのことをしようとするのでは、安定した利益を得ることは見込みにくくなっています。

経営者としての資質がない息子に会社を継がせて、大変な想いをさせるよりは、若いうちに別の道志せる環境を作った方がよいのではと考えて、子供に継がせないケースが少なくありません。また、役員として会社に入っていても、経営者のとしての責任の重さを痛感し、親の代表取締役の退任とともに、子供も退任して別の道を進むケースもあります。

オーナー経営者の事情

会社の業績が好調な場合、オーナー経営者が会社売却による資金を得るために、M&Aを選択することがあります。また、本人や家族の健康状態が悪化したことで、M&Aに踏み切るケースもみられます。

創業者利益を得るため

株式譲渡を行うと、オーナー経営者は株式の売却費用を得られますので、創業者利益を手にすることができます。潤沢な老後資金を得るために、M&Aを選択するオーナー経営者もいます。

エクジットというと、IPOを思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし、株式上場を実現するには市場ごとに厳格に決められた基準をクリアする必要があり、内部管理体制の整備やコーポレートガバナンスの遵守を進めなければならず、多くの中小企業にとってはハードルが高めです。また、株式上場を果たすためには、上場コンサルタントや監査法人などへの支払いや、上場審査料や新規上場料などの費用が必要になり、準備にも時間を要します。

こうしたIPOのハードルの高さから、M&Aによるエクジットを選ぶケースは増えているのです。(株式上場の審査基準や上場までの流れについては、『株式上場までの流れとは?審査基準やスケジュールは?』で詳しく解説しています。)

また、高齢の経営者に限らず、経営者としてはまだまだ若いうちに、M&Aによるエクジットを果たしてセミリタイアをし、旅行やゴルフを楽しむなど好きなことをして暮らすケースもあります。

本人や家族の病気やケガ

オーナー経営者がガンなどの病気に罹患したり、大きなケガを負ったりして会社経営に注力できなくなった場合も、事業承継の準備を進めていなかったケースでは、M&Aが選択されることがあります。また、家族の介護に専念するためにM&Aを行い、お金と時間を確保するケースもみられます。

業界の置かれた現状や業績によるもの

規模の経済によるスケールメリットを得るため

日本では少子高齢化が進み、人口減少時代に突入したため、多くの業界で市場が縮小するとみられています。大手企業は海外市場に活路を見出していますが、中小企業が海外進出を図るのは、事業内容やマンパワーによる難しさから、先行きを不安視する経営者は少なくありません。

そうした中、市場の縮小に対応するため、大手企業では合併や買収による業界再編を行い、規模の経済によるスケールメリットによる収益の確保図る策がとられています。中小企業でも、特に小売業や卸業では、同業でエリアの異なる会社、あるいは違う品種を扱う会社同士のM&Aが目立っています。小売業では、合併によって企業規模を大きくし、仕入れ量がまとまることで仕入れ価格を下げられることがメリットです。小売業の企業規模が大きくなることで、卸業は全国規模で幅広い品目を扱っていることが求められるようになり、卸業でもM&Aが進みました。

規制緩和や規制強化による環境の変化

規制緩和や規制強化によって、企業をとりまく環境の変化が起こり、これまでよりも競争が激化することも、M&Aが選択される理由に挙げられます。

たとえば、規制緩和の例として、タクシー業界を見ていくと、2002年需要と供給のバランスを考慮した数量規制が廃止され認可制から事前届け出制になりました。さらに、最低保持台数が60台から10台になり、営業所や車庫を所有する必要があったものがリースでも可能となり、新車に限られていた導入車両は 中古車でもよくなりました。さらに、料金も上限と下限の範囲内で決められるようになっています。そのため、タクシー業界は競争の激化による収益の悪化が顕在化しました。そこで、生き残りをかけて、大手による中小の事業者の子会社化や業務提携が進んでいます。

また、国による政策により、薬価改定のたびに薬価が下げられ、市場が成熟化して成長も見込みにくい調剤薬局業界でも、M&Aが活発に行われています。(調剤薬局のM&Aの現状については、『調剤薬局のM&Aの背景やメリットとは?個人での買収も可能?』を参照ください。)

企業再生のため

業績の悪化により自力での会社の存続が難しくなった場合、再生型M&Aによる企業再生が行われることもあります。再生型M&Aとは、法的整理手続きを行いながら実施するものです。主な方法には、法人格を残してスポンサー業の子会社として再建を図る企業再生方式と、スポンサー企業に主要な事業を譲渡して清算を行う事業譲渡方式があります。

再生型M&Aは、債権者にとっては早期に債権回収の見込みが立つことがメリットです。また、従業員の雇用が維持できる、取引先の連鎖倒産を防ぐこともできます。しかし、再生型M&Aは主に大企業に用いられる手法です。中小企業の場合、取引額の少なさからスポンサー企業が見つかりにくく、法的整理をしていることが知られると取引停止とされるケースが多いです。中小企業で企業再生の手法が使われるのは、公共事業の受注や許認可の関係で法人格を維持しなければならないケースなどに限られます。

廃業という選択肢は?

オーナー経営者が高齢化した際など、後継者が見つからない場合には、事業承継を行わずに廃業するという道もあります。廃業は倒産とは異なり、経営者の判断で会社を清算することをいい、負債を清算する必要があります。廃業によるメリットやデメリットをまとめました。

廃業によるメリット

廃業を選択する場合、事業の将来性が見込めない場合には、後継者となる子供に負担をかけずに済むことがメリットです。後継者がいない場合には、M&Aによる買い手を探す手間も省けます。債務超過に陥ることが見込まれる場合は、廃業することも選択肢となります。

廃業によるデメリット

廃業することによって、これまで培ったきたノウハウをはじめ、従業員、取引先や仕入れ先との関係性、許認可などを失うことがデメリットです。従業員は新しい職場を見つける必要性に迫られ、仕入れ先や取引先にも影響を及ぼします。

また、会社を清算したときにオーナー経営者など株主が受け取れる資産は、M&Aによって株式譲渡する場合に受け取ることができる金額よりも少ないケースがほとんどです。経営状況などにもよりますが、M&Aを行うことで創業者利益を得られる可能性があります。M&Aでは資産だけではなく、営業権も評価の対象になりますが、廃業する場合は営業権に関するお金は入ってきません。さらに、廃業するにあたっては、設備や在庫の処分費用や解雇する社員への手当、清算の登記などの事務手続きにかかる費用など、廃業コストがかかることもデメリットです。

後継者が見つからず、事業承継が難しい場合にはM&A仲介会社に相談してから、廃業を決めるのが望ましいといえます。赤字会社であっても、事業の将来性が見込める場合には買い手が見つけるケースもあります。

廃業までの手続き方法や費用については、『会社を廃業するのに必要な解散や清算の手続きの流れを徹底解説!』で、詳しく解説しています。

事業承継で引き継ぐものとは?

オフィス風景

事業承継では、経営権や株式などの資産のみならず、知的資産も引き継ぐことで、安定した経営を行うことができます。

経営権

経営権の承継は代表取締役を交替することですが、中小企業の場合、社長個人に蓄積された人脈やノウハウに依存しているケースが多いのが特徴です。事業承継をスムーズに行うためには、引き継ぎ期間を十分に設けて、人脈やノウハウも承継できるように協力することが大切です。そのため、M&Aの交渉においては、代表取締役は代表権のない相談役や顧問として一定の期間は会社に残り、引き継ぎが完了したタイミングで退任することを求められるケースがあります。

株式や資産

会社の所有する不動産や設備などの事業用資産や資金、借入金は、株式を譲渡することで承継されます。オーナー経営者が借入金を個人で連帯保証している場合は、買い手が引き受けることになります。

知的資産

企業が持つ人材や組織力、ノウハウ、特許や商標権、取引先や仕入れ先のネットワークなどの経営資源は知的資産と呼ばれる、企業の強みとなるものです。事業承継によって経営者との信頼関係が崩れ、多くの人材が流出し、組織力が低下するような事態になると、企業価値を著しく棄損することになります。特にM&Aによる事業承継を行う場合には、従業員への周知方法に配慮するなど、大量離職を招かないようにする対策が必要です。

事業承継のために準備しておくべきこと

男性がアドバイスする

事業承継をスムーズに実現するためには、事前の準備を行うことが肝心です。M&Aを行う場合は準備不足で臨むと、不利な条件での取引となりやすいことが懸念されます。事業承継のために準備しておくべきことをみていきます。

経営状況の分析と課題の整理

事業承継を進める前に、スムーズに事業承継を進めるため、まずは現状の経営状況の分析を行い、課題を整理しておきます。

過去数年分を含めて決算書や財務諸表を確認し、キャッシュフローや業績の推移をみていきます。事業承継後に粉飾決済や簿外債務が発覚するとトラブルになりますので、決算などの経理処理が適切に行われているかチェックすることが必要です。売上動向や主力商品などを分析したり、ノウハウなどの知的資産を確認したりすることで、自社の強みや弱みを把握します。自社株の評価額の確認し、経営者以外にも株主がいる場合には持ち分を調べておきます。

また、中小企業の場合、オーナー経営者と法人の資産が曖昧で、経営者の個人資産を事業で使用しているケースがみられますが、貸借関係を明確化することが必要です。

事業承継の障壁への対応策の検討

課題をもとに財務状況の改善や組織体制の強化、コンプライアンスの遵守を図るなど、事業承継の障壁となる要因があれば対応策を検討します。準備期間で引き継ぎたくなる会社となるよう、経営改善を図ることでM&Aでは買い手企業が見つかりやすくなるなど、事業承継がスムーズに進めやすくなります。この後に、親族内承継と内部昇格、M&Aのいずれの事業承継の方法をとるか検討を行い、事業承継計画を策定していく流れになります。

まとめ

かつては中小企業は子供が跡を継ぐことが一般的でしたが、少子化と職業選択の幅が広がったことで、必ずしも子供が承継する時代ではなくなってきました。しかし、子供などの親族が承継しない場合、廃業という選択をすると、従業員の雇用の問題や取引先への影響が懸念されます。M&Aという選択をすることで、蓄積された知的資産を活かして、これまで通り事業を続けられるとともに、創業者利益を得られるというメリットが生まれます。

後継者が見つからず、事業承継問題に悩んでいる場合は、M&Aという選択肢を検討してみましょう。