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オーナー経営者が亡くなったときの会社の相続はどうなる?

2019.02.19 事業承継
経営者

会社のオーナー経営者が亡くなった場合、会社の相続はどうなるのでしょうか。代表取締役の地位がスムーズに承継されなければ、会社経営に支障をきたします。また、会社に関して相続する財産とは何なのでしょうか。

オーナー経営者が亡くなった場合に、会社の相続で引き継ぐものや相続税の計算方法などについて解説していきます。

会社経営者が亡くなったとき相続するものは?

オーナー経営者が亡くなったときに相続するものは、株式会社などの法人の場合と個人事業の場合では異なります。

株式会社や特例有限会社の場合

会社法の改正により、従来の有限会社は特例有限会社として株式会社となり、持ち分は株式に、出資者である社員は株主となりました。かつての有限会社の相続の考え方は、通常の株式会社に準じます。

相続するのは株式

株式会社の代表取締役が亡くなった場合、相続人は会社をそのまま引き継ぐのではなく、株式を相続することになります。会社所有の財産は法人のものであり、相続の対象にはなりません。また、新たな代表取締役は、株主総会を開いて決めることになります。オーナー経営者が100%株式を保有していた場合で、株式を1人の相続人が相続するケースであれば、相続人1人で新たな代表取締役を決めることが可能です。

また、亡くなったオーナー経営者が、会社に対して個人の資産から貸付を行っていた場合は、貸付金も相続の対象になります。

連帯保証人の地位も相続の対象

中小企業では、会社名義の借り入れに対してオーナー経営者が個人で連帯保証をしているケースが少なくありません。連帯保証人の地位も相続の対象です。借り入れの額が莫大で連帯保証人になることのリスクが大きい場合、相続放棄を行うこともできますが、株式はもとより、自宅や預貯金などの個人資産も放棄しなければならなくなる点に注意が必要です。

個人事業の場合

個人事業の場合、相続するものは法人の場合と異なります。

事業用財産も相続の対象

オーナー経営者が個人事業として営んでいた場合は、個人資産だけではなく、事業用資産もそのまま相続の対象です。たとえば、個人資産は妻、事業用資産は息子へと相続させたい場合には、事業用資産を明確にして遺言書を残しておくと、トラブルが起きにくくなります。

相続人が連帯保証している債務に注意

個人事業の場合、たとえば夫が事業資金を借り入れ、妻が連帯保証人になっているケースがあります。この場合、夫が亡くなったときに妻が相続放棄をしても、妻は連帯保証人としての地位はそのまま残るため、代位返済する義務が残ってしまう点に注意が必要です。

相続放棄したい場合の注意点

オーナー経営者が会社の借金の連帯保証をしているケースなどでは、相続放棄も選択肢になります。相続放棄をするには家庭裁判所での手続きが必要であり、相続放棄ができるのは、被相続人が亡くなったのを知ったときから3ヶ月以内です。負債の存在を知らなかった場合など、3ヶ月を過ぎていても例外的に相続放棄が認められるケースもありますが、原則としては3ヶ月以内にプラスの財産とマイナスの財産を洗い出して、相続をするか決める必要があります。また、プラス財産の範囲内で負債を相続する限定承認を選択する場合も、3ヶ月以内に手続きが必要です。3ヶ月の間に会社の株式や個人資産を相続するか、決める必要があります。

ただし、相続放棄を検討している場合、相続財産の一部、または全部を処分してしたり、消費してしまったりすると、相続を単純承認したことになり、遺産放棄ができなくなってしまう点に注意が必要です。たとえば、葬祭費用や墓地購入費用以外の目的でお金を下ろして使ってしまう、車を売ってしまうといった例が挙げられます。また、借金を一部でも返済した場合も単純承認したとみなされ、相続放棄ができなくなりますので注意しましょう。

相続で会社経営者になるには

スーツの男性

オーナー経営者が亡くなった後、速やかに新たな代表取締役を選出しなければ、事業が立ち行かなくなる可能性があります。代表取締役であるオーナー経営者が亡くなった場合、新たな代表取締役は株主総会による決議で、議決権のある株式の株主の投票によって選任されます。そこで、株式の相続が問題になりますが、遺言書が残されていない場合、経営者の地位を引き継ぎたい相続人はどのように相続するのが理想的なのでしょうか。

株式をできるだけ相続する

遺言書がない場合は、通常、相続人で遺産分割協議を行い、通常、法定相続割合を基準に各自が相続する財産を決めていきます。代表取締役の地位に就くなど、会社の経営権を握りたい場合は、自宅や預貯金など他の財産よりも、株式を相続できるように主張して交渉を進めていくのが得策です。

株主総会での決議には特別決議と普通決議がありますが、取締役の選任や解任は普通決議によって決定できます。普通決議の場合、議決権のある株式の過半数を持つ株主が出席し、過半数が賛成票を投じれば成立します。つまり、株式の過半数を相続できれば、代表取締役になることができるのです。

ただし、合併や会社分割、事業の全部譲渡や重要な一部の事業の譲渡の承認、あるいは、定款の変更は特別決議が必要となり、株主総会で議決権のある株式の過半数を持つ株主が出席し、2/3以上の賛成が必要です。

相続で100%株主になるのが理想的ですが、難しい場合は過半数や2/3という持ち分比率を意識して、他の相続人との交渉を進めましょう。

株式の保有割合による権利については、『株式の保有割合による株主の権利は?会社支配に必要な持ち株比率は?』で詳しく解説しています。

株式の相続税の評価方法

株式に関わる相続税の評価額は時価であり、上場株式の場合は市場価格がベースとなります。非上場株式の場合は市場価格がないため、財務状況などをもとに評価を行い、相続税を算出します。

実際の相続税の納税額は、株式を含むすべての相続財産の相続税の総額を算出し、基礎控除額を引きます。そして、法定相続分通りに相続したとして相続税の総額を算出した後、各相続人の相続割合に応じて按分し、税額控除や税額軽減を控除する流れです。

上場企業の場合の株式の相続税の評価方法

上場企業の株式の相続税の評価額は、次の4つの中から最も低い価格を適用することができます。基本的には、非相続人が死亡した日の終値が基準となりますが、株価は経済情勢にも影響されるため、過去の取引価格も考慮するためです。

・非相続人が死亡した日の終値
・非相続人が死亡した月の取引日の終値の平均額
・非相続人が死亡した月の前月の取引日の終値の平均額
・非相続人が死亡した月の前々月の取引日の終値の平均額

非上場企業の場合の株式の相続税の評価方法

非上場企業の株式の相続税の評価方法には、類似業種比準方式と純資産価額方式、配当還元方式があります。会社規模や持ち分による基準で、いずれを使用するか決められています。原則として、大会社は類似業種比準方式、小会社は原則として純資産価額方式を用い、中会社は類似業種比準方式と純資産価額方式を併用します。配当還元方式は、同族株主以外の支配権のない少数株主に適用さされるものです。

類似業種比準方式

類似業種比準方式は類似する事業を営む上場企業の株価をもとに、1株あたりの配当と利益、純資産から評価額を算出する評価方式です。

引用:会社の株式の評価はどうやって決まる?−類似業種比準方式 J-Net21 中小企業基盤整備機構

純資産価額方式

純資産価額方式は、貸借対照表の資産と負債の金額を相続税の評価額で計算し直し、1株あたりの評価額を算出する評価方式です。

引用:会社の株式の評価はどうやって決まる?−純資産価額方式 J-Net21 中小企業基盤整備機構

配当還元方式

配当還元方式は、1年間の受け取る配当金の額から、1株あたりの評価額を算出する評価方式です。配当金がない場合は、1株あたりの配当を2円50銭として算出します。

引用:「上手に使おう中小企業税制 48問48答」問33 中小企業庁

相続税の支払い期限は?

相続税の申告期限は、相続が開始した日、すなわち相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヶ月以内です。また、相続税の支払い期限は申告期限と同じです。相続税を延滞した場合には、完納するまで延滞税が課され、納期限の翌日から2ヶ月は年2.6%、それ以降は年8.9%が課されます。

相続税は延納という制度もありますが、納期限までに金銭で支払うことが申請により認められた場合に限られます。また、延納を申請するには担保が必要であり、延納利子税が課されます。延納の許可を受けた後であれば、規定の相続財産で物納することも可能です。

遺産分割協議がまとまらない場合も、一旦、法定相続分通りに相続したものとして相続税を支払い、協議がまとまった後に修正申告や更正の請求を行います。ただし、遺産分割協議がまとまらない状態では、相続財産を処分して相続税の支払いにあてることは困難といえます。

オーナー経営者が亡くなった場合、遺産分割協議で株式を含む遺産をどのように相続するのか、遺産分割方法を話し合い、相続税を支払う現金がなければ財産を処分するところまでを、亡くなってから10ヶ月以内に行わなければならないのです。

会社の相続で兄弟がトラブルにならないためには?

オーナー経営者が亡くなった場合、自宅などの不動産や預貯金のほか、会社の株式を保有し、会社の借金の連帯保証をしているケースもあります。サラリーマンが亡くなった場合よりも、オーナー経営者が亡くなると、遺産分割の話し合いが複雑になることが考えられます。事前に事業承継を進めておかなければ、経営権を巡って子が兄弟間でトラブルになるかもしれません。あるいは、相続税を支払うための現金がないことも考えられます。

オーナー経営者が亡くなった後、スムーズに事業承継を行い、相続税を納期限までに納めるには、どのような方法がとれるのでしょうか。

遺言で後継者に株式を相続させる

相続人から後継者を決めておき、遺言書を作成して株式を相続させるようにすれば、経営権を巡る遺産相続トラブルを回避することができます。ただし、配偶者や子、親が法定相続人となる場合は、最低限相続できる遺留分が認められていますので、遺留分を侵害しない範囲で相続財産を決めておきます。遺言書は作成方法によっては効力が認められず、無効となってしまうことがありますので、公証役場で公正証書遺言として作成しておくと安心です。

株式を生前贈与しておく

事業承継を生前から進めていく場合には、株式を生前贈与しておく方法もあります。ただし、贈与税の税率は相続税よりも高いのが難点です。そこで、相続時精算課税制度を利用したり、非上場株式は一定の要件をクリアすると、事業承継税制による相続税や贈与税の納税の猶予や免税を受けられたりしますので、税理士などの専門家に相談してみましょう。

M&Aで他人に承継して現金化しておく

ここまでの2つの方法は、相続人などに後継者になる人材がいる場合ですが、必ずしも親族などから後継者に適任となる人材がみつかるとは限りません。しかし、後継者問題を解決しない状態でオーナー経営者が亡くなった場合、会社の経営が立ち行かない、相続税を支払うための現金がないなどの問題が起こる可能性があります。

そこで、親族や従業員に後継者となる人材がいない場合には、60歳や70歳といったタイミングで、M&Aによる第三者への事業承継について考えておくべきです。代々受け継いだ会社や天塩にかけて育てた会社を他人に売るのは抵抗があるかもしれませんが、売却先によってはシナジー効果により、これまで以上の事業成長を実現できる可能性があります。また、オーナー経営者が亡くなってから、相続税の支払い期限までに会社売却を進めようとすると、買い叩かれやすいことも懸念点です。経営者が元気なうちに時間をかけて売却先を探すことで、自社との相性がよい会社や、少しでも高く買い取ってくれる会社を見つけやすくなります。

関連記事:事業承継とM&Aの違い【事業承継M&Aのメリット・デメリットも解説】

まとめ

オーナー経営者が亡くなったとき、残された遺族が遺産相続をスムーズに進めるためには、M&Aで会社を売却し、現金化しておくことも選択肢になります。M&A仲介会社に事業承継について相談してみましょう。