事業譲渡契約書とは?記載項目や作成の注意点を解説
2020.12.16 M&A知識事業譲渡の実施に際しては、売り手と買い手の間で「事業譲渡契約書」を締結します。
トラブルなくスムーズに事業譲渡を行うには、契約書の記載項目や注意点を把握しておく必要があります。
そこで今回は、事業譲渡契約書の記載項目と、作成にあたって注意すべき点をご説明します。
事業譲渡契約書とは
事業譲渡契約書とは、事業譲渡によるM&Aに関して、売り手と買い手がお互いに合意した時点で締結する契約書です。
交渉の過程で決定された内容が記されており、契約書の内容にしたがって、対価の支払いや財産の移動といったクロージングが実施されます。
事業譲渡の際に契約書を作成しておけば、どのような事項に関して双方で合意したかが文章として残ります。
そのため、後から「そのようなことは言っていない」などと片方が主張し、その結果トラブルに発展するリスクを回避できます。
トラブルを回避するためにも、事業譲渡の際には法律的に正しい契約書を作成しておきましょう。
事業譲渡契約書の記載項目
事業譲渡契約書に記載する項目は多岐に渡り、状況によって盛り込むべき項目は変わってきます。
この章では、特に重要な記載項目8種類について、概要やポイントをお伝えします。
契約者名
一番上の部分には、売り手と買い手双方の会社名(事業者名)を記載します。
また、本店所在地も併せて明記するのが一般的です。
譲渡対象となる資産および負債
事業譲渡で売買する資産と負債の範囲を明記します。
引き継ぐ具体的な対象としては、「事業用資産」や「契約」、「知的財産権」、「債権」など多岐に渡ります。
基本的には目録を作成し、引き継ぐ資産1つ1つを明記しておきます。
なお譲渡したくない資産が明確にある場合は、「〜に関しては除く」と明記することもあります。
譲渡金額
事業譲渡で買い手から売り手に支払われる金額を記載します。
なお一般的には、金額だけでなく支払い方法や支払い先の口座、振込手数料の負担も契約書に盛り込みます。
従業員の取り扱い
事業譲渡にて従業員を引き継ぐかどうかを記載します。
一部の従業員のみを承継するケースでは、目録を作成し、一人ひとりの名称を記載することもあります。
また、退職金や有給消化に関する扱いや、事業譲渡後における従業員の処遇(給与など)に関する規定を盛り込むケースも少なくありません。
公租公課の支払い
事業譲渡の契約書には、公租公課を支払う会社を、いつから買い手に切り替えるかも忘れずに記載しましょう。
公租公課とは、保険料や税金などの国および地方自治体に支払う金銭の総称です。
一般的には、事業譲渡日までは売り手、それ以降は買い手が支払うように定めます。
表明保証
契約書において表明保証は、事業譲渡後のトラブルを防ぐ上で重要となる項目です。
表明保証とは、会計や法務に関する一定事項が真実かつ正確であることを、事業譲渡の相手方に約束するものです。
遵守事項
遵守事項とは、契約書締結から事業譲渡日までの期間において、売り手企業が守るべき事項を意味します。
事業譲渡日までに従業員のリストラや資産の売却などを行うと、事業の価値が低下し買い手は損をする恐れがあります。
そこで遵守事項で、事業の価値を損なうような行動を禁止し、買い手の利益を守るわけです。
事業譲渡の実施および解除の条件
事業譲渡契約書には、譲渡を実施する条件と解除する条件を定める場合が多いです。
たとえば実施する条件としては、「契約書面に記載した義務を果たしていること」などが定められます。
一方で解除条件としては、「表明保証に違反があったこと」などが定められます。
事業譲渡契約書を作成する際の注意点
事業譲渡契約書の作成に際しては、いくつか注意すべきポイントがあります。
トラブルを避けるためにも、以下4つの点に注意して事業譲渡契約書を作成しましょう。
収入印紙を忘れずに貼り付ける
事業譲渡契約書は、収入印紙の貼り付けが必須となります。
契約書に収入印紙を貼り付けることで、印紙税と呼ばれる税金を支払う形となります。
収入印紙税の金額は、契約書に記載された譲渡金額によって変動します。
たとえば1,000万円超〜5,000万円以下の金額だと、2万円分の収入印紙税の支払いが必要です。
収入印紙税の税額を知りたい方は、下記のページをご参照ください。
参照:印紙税額 国税庁
譲渡する範囲を細かく・明確に指定する
契約書を作成する上でもっとも注意すべきは、事業譲渡の対象範囲です。
売買する資産や負債の範囲を明確にしておかないと、欲しい資産を得られなかったり、譲渡したくない資産を手放す事態になり得ます。
そうならないためにも、事業譲渡の範囲は細かく、かつ明確に指定する必要があります。
ひな形をそのまま使用するのはハイリスク
インターネット上でダウンロードできるひな形を使えば、簡単に事業譲渡契約書を作成できます。
しかし、ひな形には一般的な事業譲渡を想定して作られているため、個別のケースには対応していません。
そのため、ひな形をそのまま使用すると、思わぬトラブルや損失の元となり得ます。
予算や時間に余裕がある場合は、ご自身のケースを基にして専門家が作成した契約書を使うようにしましょう。
もしくは、ひな形の内容をアレンジして使うのもオススメです。
20年間の競業避止義務が売り手に発生する
会社法第21条の規定により、事業譲渡を行った売り手には、20年間の競業避止義務が発生します。
具体的には、20年間にわたって同一市町村または隣接する市町村にて、譲渡した事業と同種のビジネスを行えなくなります。
売り手にとっては、その後の会社運営に大きな支障をきたす可能性があります。
したがって、買い手と交渉して競業避止義務を負う期間を短縮したり、免除するようにするのがベストです。
事業譲渡契約書のまとめ
契約書の記載項目に誤りや抜け漏れがあると、M&Aの後に相手企業との間でトラブルに発展したり、多額の損失をこうむる恐れがあります。
そのような事態を避けるためにも、今回お伝えした内容は最低限押さえておきましょう。
弊社ではM&Aに関する相談を無料で承っております。
事業譲渡によるM&Aに関して疑問や不安があれば、ぜひお気軽にご相談ください。