PMIとは?M&Aでの円滑な事業の引継ぎを実現するポイント

2019.02.28 会社・事業を買う
一致団結する様子

M&Aは企業買収が成立したら終わりではなく、PMIが重要とされています。また、M&Aの後、従業員や取引先が離れてしまっては、事業の安定的な継続が難しくなります。PMIとは何か、意味やプロセスなどを解説したうえで、買い手企業が売り手企業から、円滑に事業を引継ぐポイントについて解説していきます。

企業買収後が勝負

M&Aは企業買収が実現したら成功ではなく、期待しているシナジー効果が得られるかどうかは、PMIといわれる経営統合プロセスにかかっています。むしろ、M&Aの実現後のPMIの方が重要とする向きもあり、M&Aの成功は検討から交渉、契約に至るまでが2割、PMIが8割を握っているといわれることさえあります。

とはいえ、M&Aでの円滑な事業の引継ぎは、事前交渉により取り決めも影響しますので、交渉段階から買収後を見据えておくことが大切です。

PMIとは

PMIはそもそもどういった意味なのか、また、目的や統合する内容についてみていきます。

PMIの意味

PMI とは、Post Merger Integrationの略。M&Aを実行した後の経営統合プロセスをいいます。PMIは企業文化や従業員の意識などのソフト面でのPMIと、業務プロセスや情報システムなどハード面でのPMIに分けられます。PMIは買収によるシナジー効果を最大限に引き出し、企業価値を向上させるのが目的です。

PMIに長期間を要するとシナジー効果を得るのが難しくなるとされているため、目標を設定し、スケジュールを管理して進めていくことが大切です。

ソフト面でのPMI

ソフト面でのPMIは、企業理念や企業文化、風土、従業員の意識などの統合プロセスです。異なる企業文化や風土を持つ買い手企業とは、摩擦が起きるのは当然のこととですが、PMIが計画通りに進まない要因となります。買い手企業と売り手企業の従業員の企業文化などの融合を図ることで、人材の流出やモチベーションの低下を防ぐのが、ソフト面でのPMIの主な目的です。

買い手企業と売り手企業では、上下関係があるような認識を持たれやすいですが、PMIが上手く進まなくなる要因となります。意識改革を求めつつも、違いを受け入れる姿勢を見せることがポイントです。買い手側企業への理解を深める施策として、社内報の配布や社内研修の実施のほか、懇親会や社員旅行などのイベントの開催が挙げられます。また、人事交流を行うことも、互いの企業文化を理解するうえで有益です。

ハード面でのPMI

ハード面でのPMIは、営業や購買などの業務プロセス、人事制度、売上管理や経理などの情報システムなどの統合プロセスです。売り手側企業が買い手側企業に合わせるのが基本にはなります。ミーティングを重ねて、組織体制や各部門での意思決定プロセス、現場レベルでの業務プロセスを把握し、変更が必要なものを洗い出したうえで、双方が納得のいく形で統合を進めていきます。

基幹システムは買い手側企業のものに統一することが考えられますが、オペレーションが変わることへの戸惑いから、従業員の反発を招く可能性があります。システムの変更の際には、システムの研修を行ったり、マニュアルを準備したりするなど入念な準備が必要です。ただし、システムの変更には多額の投資が必要となるケースがあることからも、実施時期や範囲は熟慮しましょう。

PMIのプロセス

PMIは基本合意契約を締結した段階から準備作業に入り、デューデリジェンス、最終合意契約へと進んでいきます。PMIは計画を立てて、進捗を管理しながら進めていくことが大切です。一般的な流れを以下で紹介していきますが、上場企業が未上場企業を買収する場合は上場企業のやり方に合わせる形で経営統合が行われていくケースが多いです。

PMIの全体像の決定

PMIを進める際には、まず、経営陣が統合の基本方針を打ち出すとともに、シナジー効果による目標を設定します。経営統合後の姿を示すことはPMIの成功のために不可欠です。また、各段階ごとのスケジュールを決めておきます。

PMIの組織体制の構築

会社全体でPMIを統括する統合準備室や各部門のPMIの担当者、複数の部門にまたがる項目を検討するための分科会など、PMIを推進していく組織体制を構築します。

現状の把握と課題の洗い出し、対策の策定

買い手企業からスタッフが常駐し、各部門の業務の流れを把握します。その後、各部門の経営統合における課題を洗い出します。課題に対して検証を行い、対処策を検討します。

決定事項の取りまとめと事業計画の策定

統合準備室で決定事項を取りまとめ、業務フローのマニュアルを整備します。また、統合後の事業計画を策定します。

取締役会の承認と新体制への移行、効果測定

取締役会の承認を経て、新体制へと移行します。また、KPIを設定して定量的にシナジー効果の効果測定を行います。

PMI成功のポイント

PMIを成功させるには、人材配置と情報共有、目標設定のあり方などにポイントがあります。

ソフトランディングが基本

企業買収の直後は従業員が不安に駆られているため、PMIを急速に進めることは避けるべきです。まずは、M&Aの直後はソフトランディングを行い、これまでの体制を維持して、雇用や待遇などに大きな変化がないこと、売上や利益を維持した後で、経営統合を進めていきましょう。

また、早期の段階で、急激にオペレーションを変化して現場で混乱が起きると、更なる混乱を招く恐れがあります。買い手企業側が現場の状況を把握した後に改革を進める方が、従業員もスムーズに対応しやすくなります。

KPIを設定する

漠然とした成果を求めると、シナジー効果がわかりにくいため、目標はKPIを設定することが大切です。たとえば、営業の面では売上高や利益率、問い合わせ件数などが挙げられます。管理しやすい数値を利用することで、目標設定が明確になります。

統合のプロセスや成果を共有

現場の従業員がPMIのプロセスや目的を理解していなければ、新体制への協力が得られにくく、M&Aによるシナジー効果を期待しにくくなります。文書を配布するなどして、従業員に統合のプロセスや成果を共有する体制をとりましょう。

適性に人材を配置

統合準備室の室長は取締役が務めるなど、全体を統括する責任者に役員を置き、検討項目ごとに責任者を置くと、実効性を高められます。また、M&Aの検討から交渉、成立、そしてPMIまでは多くの業務量があるため、選任の担当者を置くことも検討してみましょう。また、各部門の担当者は業務に精通した人を選ぶことも大切です。

M&Aの専門家を活用

初めてのM&Aでは、PMIに精通している人材が社内にいるケースは限られています。M&A仲介会社にPMIまでのサポートを依頼するか、あるいは経営コンサルタントと一緒に進めていくなど、M&Aの専門家とともに進めていくのは成功への近道です。

M&A後の従業員の退職を防ぐには

M&A後に社員が大量離職をしたり、モチベーションの低下からサボタージュしたりされると、引継いだ事業を継続して、これまで通りの利益を上げたりすることが難しくなってしまいます。M&A後の従業員の退職などを防ぐにはどうしたらよいのでしょうか。

M&Aのディスクローズの時期や順序を慎重に決める

M&Aのディスクローズ(公表)は売り手側企業が従業員に対して行いますが、いつ開示するか綿密に打ち合わせておくことが大切です。一般の従業員には無用な混乱を防ぐとともに、事前に大量離職が起こるのを防ぐために、M&Aの取引成立後にディスクローズを行うのが一般的です。その前のタイミングでキーマンとなる幹部社員にだけ公表してもらい、新たな経営陣との事前の面談の設定を依頼すると、信頼関係を築いた状態で事業の引継ぎを受けやすくなります。

ソフトランディングで進めることを説明する

M&Aのディスクローズの段階で、売り手企業側に従業員が心配するケースが多い、給与や休日、福利厚生などの待遇や担当する仕事内容は当面変わらないことを伝えてもらいます。さらに、株式譲渡後に新たな経営陣を送り込んだ後、まずは役員の口から当面の間はソフトランディングで進めることを伝えると、従業員に安心感が生まれます。また、代表者と従業員の結びつきが強い場合には、引継ぎを兼ねてしばらくの間、顧問や相談役として会社に残ってもらうとよいでしょう。

M&A後に取引先が離れるケースとは

2つのビル

M&A後に取引先が離れてしまい、事業が思ったように継続できなくなるケースもみられます。得意先だけではなく、主力となっている仕入れ先や外注先との取引がなくなることは大きなダメージとなります。どういったケースで取引先が離れてしまうのでしょうか。取引先が離れてしまうことが想定される場合の対策とともに、解説していきます。

契約にチェンジ・オブ・コントロール条項が盛り込まれている

チェンジ・オブ・コントロール条項とは、M&Aなどによって経営権が移動した際に、契約に制限がかかる条項をいいます。契約の解除事由が発生する、あるいは事前または事後に通知や承諾が必要になるケースが多いです。

取引先との取引基本契約書にチェンジ・オブ・コントロール条項が含まれ、解除事由となるケースや承諾が必要なケースでは、M&A後に取引停止となる可能性があります。あるいは、承諾する代わりに取引条件が不利な内容への変更を余儀なくされるリスクも想定されます。

日本企業の場合、新たな経営陣に社会的に問題がある人物が含まれている場合や、零細企業によるM&Aであるケースを除くと、経営権の変更による取引停止は起こりにくいですが、リスク要因ではあります。

デューデリジェンスの段階で主要な取引先との契約内容を精査することが大切です。通知義務の場合は、通知を失念したことで契約解除に陥ることがないように、遅滞なく事前に伝えるよう、売り手企業と連携をとります。また、重要な取引先が、M&A後の契約の継続が難しいことが場合には、M&A自体を取りやめるか、あるいは、譲渡価格の引き下げを交渉するといった対応が考えられます。

事前にディスクローズをしなかったため、信頼関係が損なわれた

M&Aのディスクローズの時期には慎重な判断が必要です。しかし、長い付き合いのある取引先は、突然、事後にM&Aを知らされて不信感をいだくと、取引の停止とまではいかなくても、大幅に取引量を縮小することが考えられます。

まずは、取引条件がまとまったタイミングで、売り手企業側から状況説明を行い、売り手企業と買い手企業が揃って訪問することはできないか、売り手企業に相談してみましょう。

買い手側企業と競合関係にある

取引先の中には、買い手側企業と競合関係にある企業が含まれるケースがあります。その場合、何かしらのタイミングで取引が停止される可能性があります。デューデリジェンスの際に取引先リストを見るとわかりますので、取引停止を前提に譲渡交渉を進めていくべきです。また、取引停止によるダメージを最小限に抑えるため、新たな取引先も確保する必要があります。

引継ぐオフィスや店舗の契約にも注意

オフィスや店舗、工場などを賃貸契約している場合も、チェンジ・オブ・コントロール条項が盛り込まれているケースがあります。解除事由になっている場合は、賃貸契約を解除されるリスクあることを認識したうえで、譲渡交渉を進めていくことが必要です。また、取引先と同様に、事前に通知が必要な場合は、滞りなく手続きを行うように売り手企業に要請します。

また、正当な事由がなければ、貸主側は通常の賃貸契約の更新を拒否することはできませんが、経営者が変わったことによって、更新しないというオーナーもいますので、賃貸契約期間も確認しておきましょう。

まとめ

M&Aでは買収後のPMIが成功の鍵を握るともいわれていますが、円滑な事業の引継ぎができるかどうかは、交渉段階にもかかっています。デューデリジェンスの際に、様々なリスクを想定して綿密な調査を行うことで、ある程度のリスクを回避することが可能です。また、売り手企業と信頼関係を築くことで、スムーズに事業を引継ぎやすくなります。

信頼できるM&A仲介会社を見つけて、サポートを受けながら、譲渡交渉や契約、PMIを進めていきましょう。