M&Aで買収先の企業を見極めるチェックポイントとは?

2019.02.24 会社・事業を買う
ビルと雲

M&Aを実現させても、想定していたような効果が得られず、むしろ成長への足かせとなってしまうケースもあります。事業内容や財務状況を正確に把握していない、スムーズに経営統合が進まないといったことが主な要因です。買い手側企業が、買収先として検討している企業を見極めるうえでのポイントをまとめました。

ポイント1:事業内容

M&Aの買い手側の目的の多くは、シェアの拡大や新規事業への参入、経営資源の確保のいずれかです。いずれの場合も、買収先企業の事業内容の詳細をつかんでおかなければ、期待していたような効果が得られないことが考えられます。

事業内容は同業種か異業種といった違いだけではなく、マクロの意味では同業種であっても、ミクロの意味では近接業種といえるケースがあります。たとえば、総合的に人材紹介業を行っている企業同士は同業種ですが、ITエンジニアに特化した人材紹介会社が、サービス業に強い人材紹介業を営む企業を買収するのであれば、事業領域の拡大のための近接業種の買収といえます。

また、企業によって手がけている製品やサービスだけではなく、顧客層や営業スタイル、社員の構成なども異なります。どのような構造で事業を手がけているか、事業内容を詳細に確認しておきましょう。

ポイント2:財務内容

グラフと電卓

買収を検討している企業の財務体質を確認するには、貸借対照表と損益計算書をチェックします。

貸借対照表

貸借対照表(Balance Sheet、B/S)とは、企業の資産(=プラスの財産)と負債(=マイナスの財産)をまとめたもので、企業の財政状態を知ることができます。

純資産

純資産は総資産から負債を引いたもので、自己資本とも呼ばれています。純資産は返済義務のない資産であり、金融機関が融資を行う際にも重視される項目です。純資産がマイナスの企業社は経営状態が健全とはいえず、反対に純資産の額が多きい企業は、これまでの利益が蓄積されており、経営状態が健全であるといえます。

借入金

企業が事業拡大を図るためには、増資によって資本金を集めるほか、金融機関からの融資を受けるため、借入金が多ければ、必ずしも財務状況がよくないというわけではありません。

ただし、多額の借入金があれば、事業の利潤によって回収の見込みがあるのか、検討することが必要です。借入金の額に見合った、土地や建物、機械設備などの固定資産が計上されている場合は、特に問題視する必要がないケースもあります。反対に、多額の借入金があり、固定資産がない場合は、流動資産の部を確認し、売掛債権や在庫が多く、資金繰りが悪化している可能性がないか確認しましょう。

損益計算書

損益計算書(Profit and Loss statement、P/L)は、企業の損益計算を行ったもので、業績を知ることができます。

売上高

シェアの拡大を目的にM&Aを進めるときに、売上高は特に重要視するべき項目です。また、新規事業への参入を目的とした場合でも売上高は買収の有無を決める判断材料になります。業種や業態による違いもありますが、たとえば、売上高が年間1,000万円程度であれば、自社の力で展開した方がよいケースが多いです。反対に年間5億円や10億円という売上高は簡単につくれるものではないため、買収を検討する価値があります。

経常利益

売上高と合わせて確認するべき項目が経常利益です。売上高がいくら多くても経常利益がマイナスであれば、そのまま事業を引き継いだのでは利益を生み出せず、利益を生める体質へと転換していく必要があります。ただし、たとえば、すぐれた技術基盤があるものの、営業力がない企業を買収し、自社の販売網を使って拡販を図るといったシナジー効果により、利益を生み出せるビジョンが描けるようであれば、買収先として検討するに値します。

利益の調整に使われやすい科目

経常利益が少ない、あるいは赤字である場合でも、節税対策を目的に調整が行われ、経常利益が少ないよう操作されているケースもあります。役員報酬や保険料、賃借料は適正な水準であるか、適正でない場合は一般的な水準に見直した場合は経常利益はどうなるのか確認しましょう。

ポイント3:法人資産と個人資産の区別の明確性

中小企業の場合、法人の資産とオーナー経営者である代表者や親族の個人資産の区別が明確ではないケースが少なくありません。たとえば、会社のお金で社長の家を建てて社宅としている、社長が会社名義の車をプライベートでも使用しているといったケースです。あるいは反対に、社長の個人資産を会社に貸している、社長が所有する自宅を会社の借入金の担保に入れているといったケースが挙げられます。また、高齢の社長が会社名義でしか生命保険に入っていないことが問題になるケースもみられます。

法人資産と個人資産の区別を実態に合わせて明確になるよう整理していくと、不都合が生じる場合には、M&Aの実現が困難なこともあります。

ポイント4:コンプライアンスの励行体制

昨今の企業経営では、社会的にコンプライアンス(法令遵守)も重要視されている点です。コンプライアンスの励行状況が芳しくない企業を買収すると、現在は業績が好調な企業であっても、将来へのリスクを背負うことになります。

たとえば、労働関連法規の面では、労働時間の管理や残業代の支払い、社会保険への加入などがされているかといった点が挙げられます。会社法では、取締役会の議事録の保管や役員の変更登記、株主変更手続きなどが適正にされているかがポイントになります。業種によっては、適正に有資格者が配置されているか、必要な届出がされているか、あるいか許認可を受けているかといった点も大切です。

ポイント5:事業引継ぎ後の円滑な承継の実現性

人の手

魅力的な企業であっても、株式譲渡を受けて役員の変更を行った後、事業引継ぎがスムーズに進められなければ、買収費用に見合った効果が実現できなくなります。

たとえば、現代表者の事業影響度が強く、属人的に取引先や顧客との関係性を築いているケースでは、経営陣の交替によって関係性を保つことが難しいケースもあります。現代表者や親族の事業関与度合いや幹部職員との関係性、あるいは、取引後の引継ぎ期間などは確認しておくべきポイントです。また、経営陣が代わっても取引先や仕入れ先、外注先との関係は維持できるのか、契約関係も見ておくことが必要です。契約にチェンジオブコントロール条項が盛り込まれているケースでは、経営権の移動によって、契約の解除事由になったり、通知や承諾が必要となったりするため、契約の継続が難しいこともあります。

M&Aにはデューデリジェンスが不可欠

M&Aでは、買い手側企業と売り手側企業の信頼関係から、かつてはデューデリジェンス(買収監査)を実施しないこともありました。しかし、買収を検討している企業の経営状況を見極め、買収による将来のリスクを避けるために、基本合意契約締結後にデューデリジェンスを実施して最終的な見極めを行うことは、今では不可欠とされています。デューデリジェンスは一般的に、資産デューデリジェンスと法務デューデリジェンス、ビジネスデューデリジェンス、労務デューデリジェンスの4つが実施されます。

M&A仲介会社を利用すると、ノンネームシートでの買収先企業の紹介に始まり、買収検討、トップ会談、基本合意契約締結、デューデリジェンス、譲渡契約に至るまでのサポートを受けることができます。企業買収を考えたら、まずはM&A仲介会社に相談してみましょう。