中小企業のM&A案件を探すには?市場の動向や必要な準備は?

2019.01.20 会社・事業を買う
パソコンを操作する男性

企業買収などのM&Aは、成長戦略のひとつと位置づけられるようになって来ましたが、希望する条件に合致したM&Aの案件情報はどのようにして探したらよいのでしょうか。中小企業のM&Aでは、売り手側企業から買い手候補となる企業に提案を行う形がほとんどですので、譲渡情報をいかにつかむかがポイントになります。

M&Aの売り案件の今後の動向を踏まえたうえで、M&A案件を探す方法について解説していきます。

M&A案件は売り手市場?買い手市場?

M&A案件は売り手市場、買い手市場のどちらなのでしょうか。中小企業の経営者の年齢層や休廃業・解散企業に関するデータをもとにみていきます。

事業承継問題により売り案件の増加が見込まれている

経営者年齢のグラフ
出典:2017年版中小企業白書

経済産業省による「2017年版中小企業白書」によると、中小企業の経営者の年齢は高齢化しています。中小企業の経営者の年齢のボリュームゾーンは、1995年には47歳でしたが、2015年には66歳となりました。

休廃業解散件数のグラフ 
出典:2017年版中小企業白書
休廃業解散企業の経営者年齢のグラフ

出典:2017年版中小企業白書

2010年から2016年までの間、倒産する企業は減少しているにも関わらず、休廃業・解散企業の数は大きく変わっていません。休廃業・解散した企業の経営者のうち60歳以上の人が占める割合は、2007年は70.5%でしたが、2016年には82.4%と増加しています。そのため、経営者の高齢化が休廃業・解散の一因になっていると考えられているのです。

休廃業解散企業の売上高のグラフ
出典:2017年版中小企業白書

さらに休廃業・解散企業の売上高経常利益率を見ていくと、黒字の企業が50.1%と約半数を占めています。また、生存企業(2013~2015年にデータベースに収録されている企業)の売上高経常利益率の中央値は2.07 %ですが、これを上回る水準の企業が32.6%占めています。休廃業・解散企業の半数は黒字であり、一般的な企業の収益の水準を上回る企業が3割程度もあります。

中小企業の経営者が高齢化する中、収益上では廃業する必要性がなかった多くの企業が、廃業という道を選んでいるのです。

M&A市場は売り手市場であり、買い手市場

M&A市場は買収を希望するニーズが高く、売り手市場とされています。しかし、実際には廃業する企業の中には黒字企業が半数以上もあり、安定した業績を確保している企業や成長性のある企業も含まれていることが考えられます。

商工会議所などで、事業承継に関するサポートが行われていますが、M&A案件の掘り起こしや仲介が活発化すれば、売り出される案件は増加していくことが見込まれています。ただし、M&A案件が増えることで玉石混交が進み、買い手側はこれまで以上に譲り受ける企業の見極めが大切です。今は売り手市場ですが今後のことを見据えると、売り手市場であり買い手市場でもあるといえるでしょう。

M&A案件が多く、企業買収が盛んな業界は?

事業承継問題などによって中小企業のM&Aが活発化してきていますが、業界によって事情が異なります。特に、M&Aが盛んに行われている業界や理由についてまとめました。

「調剤薬局」は大手チェーンが中小を買収

調剤薬局は昨今、M&Aが盛んに行われている業界です。大手調剤薬局チェーンと中小の調剤薬局のそれぞれの事情が重なり、M&Aが進んでいます。

調剤薬局の数はコンビニよりも多くあり、医薬分業が浸透したことで成長率は横ばいで飽和状態となっています。そのため、大手調剤薬局チェーンは薬局の数を新設して増やすという戦略は取りにくい状況です。また、薬価報酬が改定のたびに引き下げられていることに加えて、門前薬局の診療報酬が下げられたことが大手薬局チェーンの収益へ大きく影響しています。大手調剤薬局では生き残りをかけて、シェア拡大を図るとともに、規模の経済性によって、仕入れ価格の引き下げや人材の効率的な運用を図るために、中小の調剤薬局の買収を進めています。

一方、中小の調剤薬局側は、1997年頃に医薬分業が進められたことによってできた家族経営の薬局が世代交代の時期を迎えています。しかし、後継者問題や採用難により、薬剤師の確保が難しくなっています。そのため、薬局を売却するという選択をするケースが増えているのです。

調剤薬局のM&Aについては、『調剤薬局のM&Aの背景やメリットとは?個人での買収も可能?』で詳しく解説しています。

人材派遣業やビルメンテナンス業などストック型ビジネスの業界

ストック型ビジネスとは、商品やサービスを提供する仕組みをつくることによって、継続的な収益を得るビジネススタイルをいいます。ストック型ビジネスで成り立つ業界の場合、市場規模の拡大が見込めるのであれば、自社展開も考えられますが、飽和状態となっている場合には、他社の買収によるシェアの拡大戦略をとるケースが増えます。そうした事情から、ストック型ビジネスの業界の中でも、人材派遣業やビルメンテナンス業のM&Aが活発となっているのです。

IT業界は人材の確保が目的

少子高齢化による人手不足が深刻化していく中、特に優秀な人材の確保が難しいとされているのがITエンジニアです。新規に事業を立ち上げるときなどに、イチから人材を揃えていくのが困難なことが、IT業界でM&Aが盛んになっている理由のひとつとなっています。

M&A案件の探し方

オフィス

買い手がM&A案件を探す方法として、証券会社やメガバング、地方銀行や信用金庫、M&A仲介会社を活用する方法があります。不動産業界の場合は、国土交通大臣から指定を受けた不動産流通機構REINS(レインズ)によって、すべての不動産会社に公開されている情報ネットワークがありますが、M&A案件の場合、そういった仕組みはありません。各社の提携しているネットワークや、アドバイザーやコンサルタントの独自の人脈によってマッチングが行われています。

M&A案件を取り扱う事業者のそれぞれの特色についてまとめました。

証券会社やメガバンク、投資銀行

証券会社やメガバンク、投資銀行は全国にネットワークを持ち、M&Aの専門の部署でアドバイザリー業務を行っています。報酬の水準が高く、特に投資銀行は大手企業の大型案件の取り扱いが中心です。証券会社は上場企業の株式公開買い付け(TOB)によるM&Aの代理人も担っています。

地方銀行や信用金庫

地方銀行や信用金庫などの地域の金融機関は、地元に根差した情報網を持っています。地元以外の情報が入りにくい、大型案件を手掛けるのは難しいのは難点ですが、地域の中小企業のM&Aの仲介には強みを持っています。

M&A仲介会社

M&A仲介会社は、中小企業を中心に豊富な数のM&A案件を有していますので、希望する事業規模や業種の案件を探しやすいのが特徴です。スモールM&Aといわれる年間売上高1億円未満の企業を専業で扱うM&A仲介会社もあります。M&A仲介会社の場合、法律や税務に関しては、弁護士や税理士、公認会計士などの専門家とともに進めていくケースが多いです。ただし、M&A仲介会社による得手不得手がありますので、事業規模や業種によって利用する会社を選ぶことが要となります。

M&A案件を買う前に必要な準備やモノ

M&A案件を買うためには資金や人材の準備が必要であり、戦略を立てて望む必要があります。

まずは戦略が重要

M&Aは経営戦略の一貫として行うものであり、目的を達成するための手段に過ぎません。主軸となる事業のほかに、新たな事業領域に進出して多角経営を行いたい場合も、「なんでもよいから業績のよい企業を買いたい」というのでは、上手くいかないケースが大半を占めます。たとえば、SWOT分析を行い、「S:強み」、「W:弱み」、「O:機会」、「T:脅威」を分析し、強みや機会を活かせる事業、あるいは、弱みや脅威を補完できる事業展開を考えます。そのうえで、自社展開とM&Aのどちらが向いているのか検討し、M&Aの方が有利と判断できた場合に、M&Aで買収する企業の検討に入るというステップになります。

また、株式の100%譲渡による企業買収だけではなく、資本の一部提供も選択肢に入れると、様々な可能性が広がります。

買収資金だけではなく、運転資金等も用意

M&A案件を買った後は、買収先企業を運営していくため、管理にも費用を要します。また、経営状態によっては運転資金を提供したり、成長スピードを上げていくために、設備投資資金が必要になったりするケースもあります。企業買収を進めていく際には、買収資金だけではなく、M&Aの取引の成立後に運転資金や設備投資資金が必要になる可能性も加味しながら、案件を検討していくことが大切です。

検討段階も買収後も人材が必要

M&Aを実現するまでには、買収先候補企業の財務や法務、労務、ビジネススタイルなどを一つひとつ調査し、検討していかなければなりません。通常業務を行いながら、社長一人で調査や検討をしていくのは、業務量の面で無理があるケースが多く、専門的な知識も必要です。ただし、M&A仲介会社などに依頼してサポートを受けることで、負担が軽減されます。また、株式譲渡による企業買収後は、通常、役員を派遣しますので、買収先企業へ派遣する人材も必要になります。

M&Aの検討段階での社内のリソースを確保するとともに、買収先企業に派遣する人材について、内部から登用するのか、新たに外部から招へいするのか検討しておきましょう。

まとめ

中小企業の経営者の高齢化により、事業承継問題が顕在化していく中、M&Aの売り案件は今後も増えていくことが見込まれています。M&Aは、新規事業の獲得やマーケットシェアの拡大のための経営戦略として有効です。自社展開で新たな事業を始めるよりも、コストや人件費の面で有利に進められるケースがあります。企業買収を考えたときには自力で探すよりも、M&A仲介会社などの事業者を利用することで、いくつかの選択肢を持つことができます。