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【2021年】事業売却に成功した事例5つを徹底解説!

2021.08.01 M&A知識

2021年も2020年から引き続き、コロナ禍の真っ只中ですが、M&A市場は回復しつつあります。世界的な金融引き締めが金余りの状況を作り出し、その資金の一部がM&Aに利用されています。今回は2021年に実施された日本国内の事業売却事例一覧のうち、事業譲渡による最新の成功事例の概要を5つ紹介していきます。

1.帝人ファーマが武田薬品工業の2型糖尿病治療薬4製品の販売事業を取得【133,000百万円】

武田薬品工業は、東証1部上場の大手製薬会社の一つです。2021年7月30日終値ベースで時価総額は5兆8,000億円を超えており、連結売上高は約3兆2,000億円です。

武田薬品工業の特徴は、数多くの製薬ポートフォリオを保有していることです。新しい薬品を作り、特許のある期間で売上を大きく稼ぎ出すビジネスモデルです。

特許が切れた後の医薬品は、ジェネリック医薬品との争いになり、熾烈な価格競争に巻き込まれるため、特許切れの医薬品の売上は大きく落ちることになります。

そのため、武田薬品は自社の医薬品ポートフォリオの状況を見極め、常にポートフォリオの入替を行なっています。

また、武田薬品工業は、過去に海外大手の製薬会社であるシャイアーを買収したことから多額の長期借入金があります。負債比率が高く、借入返済を進めるため、何度も事業売却を利用しています。今後も武田薬品工業は、更なる借入金圧縮のため、事業売却を検討しています。

今回、武田薬品工業は4製品を133,000百万円で売却し、特別利益130,000百万円を計上しています。売却原価は3,000百万円と計算され、非常に低いことが分かります。

参考:

日本における糖尿病治療薬4剤の帝人ファーマ株式会社への譲渡完了について

2.フォーシーズホールディングスが日本リビングのアロマ事業を取得【89百万円】

フォーシーズホールディングスは、化粧品・健康食品のEC事業を営んでいる東証2部上場企業です。

日本リビングは、アロマグッズを販売する事業を、事業譲渡のスキーム二より、89百万円で事業売却しています。フォーシーズホールディングスが新たに「合同会社アロマ」を設立し、合同会社アロマが買い手として、アロマ事業を買収しています。

フォーシーズホールディングスは、今後も巣ごもり需要が拡大すると考え、化粧品や健康食品ともシナジーのあるアロマグッズを商材に加えることができました。コロナ禍という状況の中、各社はそれぞれの事業特性に応じて、経営戦略を変更しなければなりません。今回の事例はコロナ問題への対応のためのM&Aという一面もあります。

売り手である日本リビングにとっては複数の事業を行なっている中の一部事業の売却に成功しています。買い手であるフォーシーズホールディングスにとっては、EC事業を営んでいくに当たり、「アロマ」という巣ごもり消費に強い商材を手に入れられたことになります。

参考:

新会社設立及び事業譲受並びに新たな事業の開始に関するお知らせ

3.シャープがオンキヨーホームエンターテイメントのホームAV事業を取得【3,323百万円】

オンキヨホームエンターテイメントは、1946年設立の大手音響メーカーです。近年では、業績悪化により2020年3月末、2021年3月末と2期連続の債務超過となり、東証の上場廃止基準に該当しています。結果として、2021年8月1日に上場廃止となりますが、業績を回復させ再上場を目指す旨の発表をしています。

オンキヨーは本業である主力事業であるホームAV事業をシャープ、VOXXに約33億円で事業売却しています。オンキヨーのブランド名は維持され、シャープが生産、VOXXが販売を担当することが発表されています。それぞれの知見、ノウハウ、技術、取引先、ビジネス、従業員の専門分野を活かした引き継ぎ先となっています。

財務内容が悪化してしまい、債務超過という問題に対応するため、企業が本業を事業売却し、再生を目指すという事例になります。

参考:

AV事業売却で合意 オンキヨー、シャープなどと 33億円

4.トライサクセスがフォーバルテレコムの広島事業部を取得【380百万円】

フォーバルテレコムは東証2部上場のOA機器や電話機を販売している企業です。フォーバルテレコムの広島事業部担当取締役の中山氏とマネージャーの荒地氏より独立の提案があったため、事業売却することになった案件です。

中山氏が代表を務めるトライサクセス社に380百万円で事業売却し、フォーバルテレコムは事業売却益350百万円を計上します。

フォーバルテレコムの広島事業部の業績は売上高のみ開示されており、432百万円です。事業売却金額380百万円÷売上高432百万円=0.8となるため、PSR(株価売上高倍率)は0.8倍となります。

PSRは成長性の高いIT業界ではよく使われる指標ですが、IPOしたばかりの企業などは20倍〜40倍など高いPSRが付くこともあります。

PER(株価収益率)は広島事業部の利益が開示されていないため、計算することはできません。仮に広島事業部の売上高純利益比率を10%と仮定すると、利益は43百万円となります。この時のPERは380百万円÷43百万円=8.8倍と計算されます。

フォーバルテレコムのPERが7.8倍で取引されていることを鑑みると、妥当な範囲の事業売却であると考えられます。

上記事例は、事業部の担当取締役が独立するスキームで、事業譲渡を活用したMBOの事例になっています。今後はMBOにより、担当取締役により広島事業部が一つの会社として従業員も引き継ぎ、以前と変わらない業態で経営されることになります。フォーバルテレコムもMBOによる事業売却で多額の特別利益を計上し、買い手、売り手とも双方に価値があり、メリットとなる取引と考えられます。

参考:

連結子会社における事業譲渡及び特別利益の計上に関するお知らせ

5.関西ぱどがSuccess Holdersのぱど商標権を取得【15百万円】

ぱどは1987年の創業以来、無料情報誌ぱどを発行してきていますが、2021年5月にブランド名をARIFTに変更しています。結果としてSuccess Holdersは「ぱど」の商標を使う見込がなくなりましたが、フランチャイジーの1社である関西ぱどは商標権を継続利用したい要望がありました。

Success Holdersと関西ぱどが協議を行ない、Success Holdersの所有する「ぱど」の商標権を関西ぱどに15百万円で事業売却することに決定しています。2021年3月末決算において、Success Holdersは15百万円の特別利益を計上しています。

こちらの事例は、商標権という目に見えないものを事業売却している事例です。土地や建物といった不動産は、日々売買されていますが、事業や商標権、サービスといった目に見えない事業そのものも事業売却の対象となります。

関西ぱどは、「ぱど」の商標権を生かした事業経営を続ける予定です。商標権の売買において、妥当な売却金額の算定は難しい面があります。

ぱどの商標を用いた際に得られるキャッシュフローが分かればDCF法やマルチプル法などで計算することもできます。しかし、商標権を利用した際の将来キャッシュフローや実績の売上高・利益などは計算することは困難です。

そのため、商標の認知度や商標獲得のために支払った費用(原価法)などを総合的に検討し、事業売却金額を決める様にしなければなりません。

参考:

商標権の譲渡及び特別利益の発生に関するお知らせ

事例から分かる事業売却の成功ポイント

事業売却を行う際、売り手も買い手も様々な理由を背景に、経営の意思決定を行なっていることが分かります。売り手であれば、借入金負担を減らすため、経営者の独立(MBO)のため、債務超過を解消させるため、利用しない商標権を現金化するためなどが挙げられます。

一方、買い手であれば、本業とは別に多角化を行うため、商材とのシナジー追求のため、更なる成長のためなどが考えられます

より高い評価額で事業売却するためには、検討してもらえる買い手の数と質を高めることが重要です。近年、M&A市況は活発になっており、大企業、中小企業、個人問わずに、株式譲渡、事業譲渡、合併などのM&Aを成約させています。

数多くの買い手候補にアプローチするためには、M&Aマッチングサイトなどwebサービスを利用することが一般的です。マッチングサイトに登録すると、買い手は、売り案件一覧などのページから案件の概要や条件、強みや弱み等を確認していき、興味がある案件についてだけ詳細な資料などを依頼し、売り手側から提供される流れになります。

買い手は売り手から提供された詳細な資料などを元に検討を進め、条件交渉を行います。買い手と売り手の基本的な条件がすり合った後は、基本合意書を締結します。基本合意書締結後、買い手はデューデリジェンスを実施し、その内容をもとに最終契約書に向け、交渉を進めていくことになります。

デューデリジェンスは自身による資料確認とは別に、会計士、税理士、弁護士などの専門家に依頼して対象会社の調査を行うことをいいます。費用は別途必要ですが、簿外債務や税務、許認可など買収に伴う大きなリスクを把握することができるため、価値の高い投資と言えるでしょう。

一方、M&Aの知識や経験がないまま、事業売却のプロセスを進めることは不安が残るかもしれません。例えば、マッチングサイトは適切に個人情報保護の対応を行なっているものの、売却を進めていることが周りに知れ渡ってしまっては事業継続に大きなリスクが生じます。また、自社の企業価値はいくらなのか、適正な事業売却金額はいくらなのかといった疑問を持つことも当然です。

そのような場合には、M&A仲介会社やFAなどに売却相談して見ることがおすすめです。

実績の豊富なM&A専門家であれば、自分の希望に合わせて最適な事業売却計画を策定し、実行支援を行なってくれます。手付金・成功報酬などの各種手数料は必要ですが、初回の相談料は無料であることが多いため、まずはサービス内容について気軽に相談してみると良いでしょう。

事業売却の相場について解説

以上の事例では、PSRやPERを用いて事業売却の相場を触れてきました。M&Aの実務では、DCF法、マルチプル法、修正純資産法、年買法といった手法を企業価値の算定手法としてよく使います。

DCF法は、対象会社から将来得られるであろうキャッシュフローを現在価値に割り引くことで計算されます。事業計画の実現可能性が最も事業売却の金額に影響する要素となります。売り手から事業計画を買い手に提供する際は、実現可能性をしっかりと自身で検討の上、提出する様にしましょう。

マルチプル法は、上場企業の時価総額と財務数値の倍数をもとに、対象会社の価値を算出する方法です。例えば、上場企業A社のPERが20倍であった場合、上場企業A社と類似の事業を行なっているB社もPER20倍として価値算定します。

修正純資産法は、対象会社の貸借対照表に注目した価値算出方法で、対象会社が多額の土地や有価証券を保有する場合に適用することがあります。また、対象事業の利益がマイナスであり、DCF法やマルチプル法が採用できないケースでも修正純資産法が用いられることがあります。

年買法は、対象会社の純資産+営業利益×●年分と簡易的に価値算定するValuation手法です。中小企業のM&Aやwebサイトの売買によく利用されます。営業利益×●年分の●部分は、対象事業の安定性、成長性、業種、業態、歴史、ブランド価値、従業員、技術、競合、市場などを総合的に鑑みて決定されます。

上場企業のM&A事例ではDCFの実際のところは、読み手からは判断することはできません。DCF法は将来得られるキャッシュフロー(利益+減価償却費等)を現在価値に割り引いて、企業価値を算定する手法のため、事業計画等が開示されていなければ計算することができないのです。

大企業、中小企業、個人事業など、業種・業態、規模を問わず、適正な事業価値の算定手法は同じです。経営者として後継者を探している際は、自身の事業価値のある程度の相場を知った上で事業売却のプロセスを進めることが成功するポイントの一つです。

相場感なしに事業売却してしまうと、割安な価格で売却してしまう、不利な契約を締結してしまうといったリスクが高まります。買い手と価格交渉を行う際は、M&A市場の動向を踏まえ、仲介やFAなどを通して行うと、成約可能性を高めることもできます。

まとめ

以上、現在事業売却を考えられている方向けに、2021年に実施された事業譲渡のスキームによる国内の事業売却事例5つを解説してきました。多数の事業ポートフォリオのうち一つの事業売却、MBO、商標の売却など様々なケースがあることが分かります。

事業売却をうまく活用することで、他の成長事業などに投資資金を振り向けることができます。自身が事業売却を行いたい場合には、信頼できるM&Aアドバイザリーなどの専門家に相談することがお勧めです。

事業売却を行う際は、様々なスキームが考えられますが、事業売却を行う目的、方針、自社の株主構成や事業構成、買い手候補などによって、最適なスキームが変化します。また、スキームによっては法務や税務の専門知識が必要な場面も多く出てきます。M&Aプロジェクトではある程度プロジェクトが進捗してしまうと、後戻りできないという特性を持っています。一度スキーム選択を誤ってしまうと事業売却がこれ以上先に進めないといった場合も出てきてしまいます。信頼できる適切なアドバイザーの支援のもと、安全な事業売却成功を目指すようにしましょう。