M&Aの契約書【種類ごとに盛りこむ内容を解説】
2020.07.25 M&A知識M&Aでは、いくつかのタイミングで契約書をつくります。
契約書の種類により、盛りこむ内容やつくる目的はことなります。
そこで今回は、M&Aの実務で出てくる5種類の契約書について、目的やタイミング、盛りこむべき内容を解説します。
アドバイザリー契約書
M&Aをおこなうに際しては、まずは仲介会社やM&Aアドバイザーとの契約を締結します。
アドバイザリー契約書は、そんなM&A仲介会社・アドバイザーとの契約でつくります。
盛りこむ事項
アドバイザリー契約書に盛りこむ内容としては、下記の項目が挙げられます。
- アドバイザー側が担う業務の範囲
- 依頼主がアドバイザー側に支払う報酬体系
- 業務で発生する費用を誰が負担するか
- 依頼主からアドバイザー側への資料提供と秘密保持に関する事項
- 契約形態
アドバイザリー契約書で注意すべきポイント
もっとも注意すべきは「契約形態」です。
仲介会社やアドバイザーとの契約形態には、特定一社のみとアドバイザリー契約を締結する「専任契約」と、複数の会社とアドバイザリー契約を結べる「非専任契約」の2種類があります。
非専任契約の方が買い手を早く・柔軟に見つけられそうな点で、一見すると良さそうに見えます。
ですが業者側とのやり取りが煩雑で手間がかかる上に、情報漏えいのリスクも高まります。
したがって、基本的には専任契約で契約できるアドバイザーと契約を締結するのがベストです。
また、仲介会社によって報酬の体系もことなるため、相場以上の報酬を支払わないように注意しましょう。
秘密保持契約書
秘密保持契約書とは、M&Aの相手から得た情報を外部に公開しない旨や、M&A以外の目的には使わない旨を約束する契約書です。
M&Aでは、互いの企業が財務情報や顧客情報といった重要な情報を相手方に提供します。
万が一情報が漏洩した際には、株主や顧客、取引先に大きな悪影響が及ぶ可能性があります。
そのような事態を防ぐために、本格的に情報を公開する前に、売り手と買い手の間で秘密保持契約書を締結するわけです。
盛りこむ事項
秘密保持契約書には、主に下記事項を盛りこみます。
- 秘密とする情報の範囲
- 秘密情報を使う目的の制限
- 有効期間
- 契約終了後の情報の返還や破棄に関する事項
- 契約内容に反した場合の損害賠償
秘密保持契約書で注意すべきポイント
秘密保持契約書をつくる上で、一番重要なのは秘密とする情報の範囲です。
契約書に盛りこんでいない情報を相手方が漏えいした場合、たとえ会社の存続に関わる重要な情報だったとしても責任は問えません。
そうした事態を避ける上でも、秘密としたい情報は具体的かつ漏れなく盛りこまなくてはいけません。
意向表明書
意向表明書とは、買い手が売り手に対して、M&Aをおこないたい意向や、買収するにあたって希望する要件を伝える書面です。
正式な契約書ではないものの、大半のM&Aでは意向表明書の内容に沿って交渉や条件の検討が進められます。
ただし、小規模なM&Aでは意向表明書をつくらずにM&Aを進めるケースも少なくありません。
盛りこむ事項
意向表明書には、一般的に下記の内容を盛りこみます。
- M&Aの手法
- 買収の希望価格
- スケジュール
- デューデリジェンスの範囲や費用負担
- その他の希望条件
意向表明書で注意すべきポイント
意向表明書は買い手が売り手に対して希望を伝える書面であるため、法的な拘束力や強制力はありません。
また、売り手は意向表明書に盛りこまれた内容でM&Aの交渉を進めるか判断するため、あまりにも買い手の利益に偏った内容にするのは好ましくありません。
基本合意書
基本合意書とは、M&Aの条件に関して、売り手と買い手の双方が大筋で合意できた旨を確認するためにつくる契約書です。
一般的には、トップ面談や交渉が完了したタイミングでつくります。
なお基本合意書が締結されると、デューデリジェンスや最終交渉・契約がおこなわれます。
基本合意書は必須ではないものの、後々になって双方の認識にズレが生じるのを防止する意味で、つくっておくのがオススメです。
盛りこむ事項
基本合意書には、主に以下に挙げた内容が盛りこまれます。
- 用いるM&A手法
- 売買価格
- 諸条件(従業員や経営陣の処遇など)
- デューデリジェンスの範囲と費用負担
- 今後のスケジュール
- 独占交渉権の有無
- 法的拘束力の有無や範囲
基本合意書で注意すべきポイント
基本合意書をつくる上で、もっとも注意すべきは「独占交渉権の有無」です。
独占交渉権とは、特定の買い手のみが売り手企業とM&Aの交渉を進められる権利です。
この権利が設定されると、売り手はその買い手以外とは一切交渉できなくなります。
買い手にとっては他の会社に横取りされるリスクを無くせる一方で、売り手にとってはより有利な条件でのM&Aを選択できなくなります。
独占交渉権が設定される場合、売り手側は条件が本当に満足できるものかをしっかり見極めた上で、基本合意を締結するのが重要です。
最終契約書
最終契約書とは、売り手と買い手が完全に合意した段階で締結する契約書です。
正式な名称は用いるM&A手法によってことなり、株式譲渡ならば「株式譲渡契約書」、事業譲渡ならば「事業譲渡契約書」となります。
この最終契約書が締結されれば、正式にM&Aが成立したこととなります。
盛りこむ事項
最終契約書に盛りこむ内容は、M&A手法によってことなります。
共通する内容としては、主に下記の項目が挙げられます。
- M&Aの条件(手法や売買価格、処遇等)
- 前提条件(契約条件を満たさなければ、代金の支払いや資産の引き渡しをおこなわないことを定める)
- 表明保証(相手方に対して伝えた内容や契約書の内容が事実であるのを証明する)
- 遵守事項(クロージングまでに重要な資産を売却しないことや重要な経営判断をおこなわない旨などを約束する)
- 補償条項(契約内容に反した場合の補償)
- 解除条項(重要な契約違反があった場合に、契約を解除できる旨)
上記以外にも、必要に応じて項目を適宜付け足します。
M&Aの成立を左右する契約書なだけあって、他の契約書よりも内容が豊富かつ複雑です。
最終契約書で注意すべきポイント
最終契約書をつくるにあたっては、とにかく契約内容が確実におこなわれるように内容を盛りこむのが重要です。
たとえば契約内容に虚偽があったり、約束したことがおこなわれなければ、M&Aに費やす時間や費用が無駄となります。
そうならないために、「前提条件」や「表明保証」、「遵守事項」、「補償条項」、「解除条項」の中身は入念に考えて、トラブルを起こせない仕組みを作るのが重要です。
M&Aの契約書まとめ
M&Aにおいて契約書は、後々のトラブルを未然に防ぐ手段として欠かせないものです。
M&Aをスムーズに成功させるためにも、どの契約書も慎重につくる必要があるでしょう。
M&Aアドバイザーや弁護士などの専門家に依頼すれば、より質の高い契約書をつくれるのでオススメです。