事業承継を債務超過や赤字の会社が行う際のポイントとは
2021.02.03 事業承継多くの中小企業では、経営者の高齢化を理由に事業承継のタイミングを迎えています。
しかし債務超過や赤字を理由に、事業承継を果たせない中小企業は少なくありません。
そこで今回のコラムでは、債務超過や赤字の企業が事業承継を果たす上で意識したいポイントや注意点などを解説します。
多額の負債を抱えている経営者様は必見です。
債務超過とは?赤字の違い
そもそも、債務超過はどのような状態なのでしょうか?
債務超過とは、貸借対照表における資産の合計額よりも、負債の金額の方が大きい状態を意味する会計の用語です。
言い換えると、資産をすべて現金化しても負債を返済しきれない状態、または純資産がマイナスの状態を指します。
債務超過の状態に陥ってしまうと、業績が大きく悪化し、自社の経営を続行することが困難となります。
すべての事例や業界に当てはまるわけではありませんが、債務超過は倒産リスクを大幅に高める原因と言えます。
なお債務超過と赤字は、同じように見えて全く異なる状態です。
赤字とは、ある年度において損益計算書における売上よりも費用(コスト)が大きい状態を指します。
赤字が積み重なった結果、資金繰りが難しくなり債務超過に陥ると言われています。
債務超過の企業が事業承継する際の注意点
債務超過の企業による事業承継では、以下に挙げた2つの点に注意が必要です。
下記に挙げた注意点を知らずに事業承継を行うと、後継者の負担が大きくなったり、後継者が見つからずに廃業する事態となり得ます。
倒産して後継者に多大な借金を負わせるリスクが高い
一般的に中小企業では、会社の経営者が金融機関からの借入に対して個人保証を背負うのが一般的です。
個人保証では会社の負債に対して連帯責任を負うため、仮に会社が倒産すると経営者個人が返済する義務を負います。
ところで債務超過の状況にある企業は、前述したように財務のリスクが非常に高いです。
また、事業承継にあたっては後継者が個人保証を引き継ぐ形で背負うケースが多いです。
そのため、債務超過の企業を事業承継すると、会社が倒産して後継者が多大な借金を背負うリスクが非常に高いわけです。
後継者が見つかりにくい
後継者にとって、債務超過の企業を引き継ぐことには、デメリットばかりある一方でメリットはほぼ皆無です。
そのため、子供や社員に後継者となってもらうように希望を伝えても、引き受けてもらえる可能性は低いです。
親族や社内で後継者がなかなか見つからずに、時間ばかりが過ぎてしまう事態になりかねません。
円滑な事業承継を可能にするには、債務超過の解消が重要なポイントとなる
上記のリスクがあるため、債務超過の状態で事業承継を実行するのは現実的ではありません。
そもそも後継者が見つかりにくいですし、仮に引き継いでもすぐに倒産するリスクがあるため、事業承継が成功する可能性は限りなく低いでしょう。
スムーズに事業を引継ぎ、後継者が安心して会社を経営するには、先に債務超過の解消を行っておくことが不可欠です。
債務超過を解消するスキームとしては、以下の3つが挙げられます。
増資
増資とは、資本金を増やすことです。
ベンチャーキャピタルや個人投資家に株式を発行し、その対価として資本金を増やす形となります。
もしくは、経営者個人が自己資金を投入する形でも増資を行えます。
ただし、債務超過の中小企業に投資してくれる人はほとんどいない上に、経営者個人が持つ自己資金で債務超過を解消するのも難しいでしょう。
したがって、増資によって債務超過を解消するのはあまり現実的ではありません。
債務免除
債務免除とは、借入金の返済を免除してもらうことです。
たとえば社長個人の役員借入金を免除したり、外部の債権者に支払い義務を免除してもらう方法が考えられます。
負債がダイレクトに減るため、債務超過の解消につながります。
ただし、融資してくれている銀行などの金融機関から債務免除を認めてもらえるケースはほぼありません。
社長個人や取引先、親族などから集めた借入金が多い場合におすすめの方法です。
収益性の向上
もっとも実現可能性が高く、かつ理想的な方法であるのが「収益性の向上」です。
従来よりも多くの利益を得られるようになれば、その利益を返済に充てる形で債務超過を解消できます。
収益性の向上は、主に技術やノウハウの強化、販路拡大などによって実現します。
効果的な手法ですが、債務超過を解消できるまでに多大な時間がかかる点がデメリットです。
この方法で債務超過を解消したいならば、早い時期からしっかりと収益性向上に向けて注力することが大切です。
債務超過の解消以外で事業承継を果たす方法の一覧
債務超過の状態から抜け出すのが理想ではあるものの、必ずしもすべての会社が債務超過の状態に対応できるとは限りません。
債務超過の状態を解消できない場合には、M&Aの手法を活用して事業承継を果たす方法が役に立ちます。
具体的には、「株式譲渡」と「事業譲渡」という2つの手法が事業承継の実施に役立ちます。
※合併や会社分割などの手法ありますが、中小企業には複雑なのであまり適していません。
この章では、M&Aによって債務超過の事業承継を実現する2つの方法について、それぞれの概要やメリット・デメリットを解説します。
株式譲渡により会社を売却する
こちらは、会社が発行するすべての株式を売却する形で事業承継を図る方法です。
M&Aと同時に債務が買い手に移転する上に、基本的に経営者の個人保証が解除されることが良い側面です。
また買い手が企業価値を高く評価した場合には、株式の売却により売り手の株主は大きな利益を取得できる可能性もあります。
ただし、債務超過の企業を買収するという行為には多大なリスクがあります。
そのため、よほど価値のある経営資源(販売網やノウハウなど)を有しているケースを除いて、株式譲渡によるM&Aは買い手に認めてもらいにくいのが問題となります。
事業譲渡で優良な事業のみを承継させる
債務超過の企業によるM&Aでは、事業譲渡によって優良な事業のみを外部に承継する方法が一般的です。
債務を除いて事業を売買できるため、株式譲渡よりも受け入れてくれる買い手が見つかりやすいです。
借入金などの債務は会社内に残るものの、事業譲渡の売却益で債務の返済を図ることが可能です。
特に、買い手からのニーズが大きいリソースを持っている場合には、多額の売却利益を得られる可能性もあります。
また、買い手とのシナジー効果が見込める状況でも、売却金額は大きくなる傾向があります。
関連記事:事業承継とM&Aの違い【事業承継M&Aのメリット・デメリットも解説】
まとめ
今回ご紹介したように、債務超過の状態で事業承継を果たすのは決して簡単ではありません。
ただし債務超過の状態であっても、会社や事業を売却する形で事業承継を果たすことは十分に可能です。
買い手のニーズが強いノウハウや技術を持っていることで、債務超過の会社がM&Aを果たせた事例は少なくありません。
債務超過が原因で親族や従業員への事業承継を果たせない悩む方は、ぜひM&Aを検討してみてはいかがでしょうか?
弊社では、中小企業や個人事業主の方に向けたM&Aの支援サービス(案件の紹介など)を提供しております。
事業承継を目的とした会社・事業の売却を検討したい方は、お気軽に弊社の専門家にご相談いただければ幸いです。