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事業承継で繰越欠損金を持つ会社を買収するケースの節税効果と注意点を解説

2021.02.08 事業承継

M&A(株式の譲渡や合併など)により従業員などに事業承継を実行する時は、繰越欠損金を引き継ぐことで後継者となる者に節税の効果が発生する可能性があります。

ただし、節税の効果が制限されるケースもあるため十分な注意が必要です。

今回の記事では、繰越欠損金を保有する会社をM&Aの手法で事業承継する際に、引き継ぐ側の企業が注意すべき点やメリットなどの情報をお伝えします。

M&Aによって会社を売却したい経営者の方はもちろん、事業承継で後継者への悪い影響を小さくしたい方も必見です。

繰越欠損金とは

はじめに、経営を行う上で最低限知っておくべき繰越欠損金の基礎をご紹介します。

繰越欠損金という用語は「翌年度以降の黒字と相殺できる税務上の赤字」を意味する

繰越欠損金とは、事業活動で生じた税法上の赤字(損金として算入したもの)であり、翌年度以降の会計に引き継ぐことができるものです。

言い換えると、過去の年度から実際に引き継いだ欠損金(損失)のことです。

引き継いだ繰越欠損金は、利益と相殺する計算を行うことで各種の税金を減らす効果が期待できます。

繰越欠損金の効果を得られる対象の中小企業

繰越欠損金の利用対象となるのは、原則的に青色申告を行うすべての事業主となります。

ただし黒字と相殺する形で計上できる金額は、適用対象によって異なります。

資本金が1億円以下の中小企業に関しては、すべての繰越欠損金を利用できます。

ただし規定により、それ以外の企業では控除できる限度額に制限が設けられています。

繰越欠損金の期限

繰越欠損金を繰り越せる期間は、度重なる法改正により定期的に変更されています。

2018年4月1日以降に開始する事業年度については、10年にわたって繰越欠損金の繰り越しができる制度となっています。

今後も変わる可能性があるため、法務を担う方や経営者は動向を一定の間隔でチェックしましょう。

繰越欠損金を買収や合併による事業承継で引き継ぐメリット(目的)

次に、買収や合併、会社の分割などで繰越欠損金を引き継ぐメリットをお伝えします。

買収した側の法人は節税を図ることが可能

最大のメリットは、買収した側の企業で節税を図ることが可能である点です。

M&Aによって事業承継した場合、買収ならば取得した企業の中で、合併ならば自社で取り込んだ繰越欠損金を利用できます。

M&Aによるシナジー効果で利益が増加しても、繰越欠損金の利用により納税額を継続して抑える効果が期待できるのです。

どのくらいの節税効果を得られるのか?

どのくらいの節税効果を得られるか、簡単な事例を使用して確認してみましょう。

なお今回は、理解しやすいように法人税などの実効税率を30%に設定し、その他の細かい条件はすべて割愛します。

たとえば、1,000万円の繰越欠損金を持つ中小企業を買収したとしましょう。

また、M&Aによって自社とのシナジーが生じた結果、前年度までは赤字だったものの、今年度は1,500万円の利益を得られたと仮定します。

繰越欠損金を引き継がない場合、1,500万円×30%=450万円もの法人税等が課税されてしまいます。

一方で1,000万円の繰越欠損金を引き継ぎ、それを全額黒字と相殺することで、課税の対象となる利益は500万円(1,500万円−1,000万円)となります。

したがって、課税される税金は500万円×30%=150万円となり、300万円もの節税効果を享受できます。

繰越欠損金を引き継ぐ会社が意識すべき注意点

繰越欠損金はメリットが大きいものの、繰越欠損金の一部または全額を利用できなくなるケースがある点に注意が必要です。

具体的な要件は非常に複雑なので、税理士などの専門家にご相談し、支援を受けながら繰越欠損金の承継スキームを検討するのがベストです。

そこでこの章では、繰越欠損金の利用に制限がかかるケースを簡単にご紹介します。

租税回避の目的から、以下の要件を満たしている場合には原則として繰越欠損金の利用に制限が発生します。

※合併または買収により、過半数以上の議決権を取得し、実質的に支配関係が構築されている(経営権を取得している)ことが前提です。

  • 休眠会社(事業を行なっていない会社)を買収し、事業承継の後から事業を再開する
  • 買収された後に事業をやめた上で、従来の事業規模と比べておおむね5倍を超える資金の借入を行う
  • 買収する側の会社が、欠損金を保有する会社の特定債権を取得している状況において、従来の事業規模と比べておおむね5倍を超える資金の借入を行う
  • M&Aによる事業承継がきっかけで、旧役員の全員および使用人の20%以上が退職し、かつ事業規模が従来と比べて5倍を超える新規事業を始める

上記の要件は、M&Aによる事業承継のみならず、組織の再編などでも適用されます。

事業承継や組織再編を実施する際には、上記を踏まえた上で繰越欠損金の引き継ぎ方法を検討しましょう。

参考:法人税法第57条の2 e-Gov

繰越欠損金を事業承継で問題なく引き継ぐ方法の一覧

では一体、どのようなスキームで事業承継を行えば、問題なく繰越欠損金を引き継ぎ・活用できるのでしょうか?

具体的な方法としては、以下に挙げた4つの手法が該当します。

事業を行っている会社を引き継ぐ

前述したとおり、休眠している会社を事業承継すると繰越欠損金の利用に制限がかかるおそれがあります。

したがって、事業をしっかり行なっている会社を事業承継するのが重要な大前提です。

適格の要件を満たした合併を行う

合併により事業承継を実施する際には、税制の適格要件を満たしておくことが繰越欠損金を利用する前提条件となります。

適格となるための要件は、「売り手と買い手の関係」や「グループ内のM&A(子会社と親会社の合併など)かどうか」などの条件によって細かく分類されています。

こちらも個人で判断するのはリスクが大きく危険なので、専門家(公認会計士や税理士など)に相談しながら要件を満たすのが良いでしょう。

事業承継後に大きな額の借入を利用しない

大規模な資金の借入を実施すると、他の条件が重なることで繰越欠損金の利用に制限がかかります。

たとえば、不動産の購入や業務に必要な資産の購入などで多額の借入を行うと、予期せずに繰越欠損金を満足に利用できなくなる可能性があります。

したがって、事業承継後は大規模な借入は控えるのが得策です。

事業承継後に役職員の配置転換や規模が大きい新規事業を行わない

役職員の配置転換や大規模な新規事業の立ち上げも、前述した要件を満たすおそれがあるため避けるのが賢明です。

事業承継の前後で社内の人材や事業内容が大きく変化しなければ、この条件は問題なく満たせるでしょう。

事業承継における繰越欠損金のまとめ

今回のコラムでは、繰越欠損金の引き継ぎについて概要を網羅的に解説しました。

事業承継で繰越欠損金をスムーズに引き継ぐことができれば、買い手となる後継者は税金面で大きなメリットを得られます。

ただし条件次第では繰越欠損金の利用に制限がかかるため、M&Aの手続きは慎重かつ戦略を練って行うのがおすすめです。

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