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事業承継を個人事業主が行う場合の手続きや注意点、税制などを解説

2021.02.10 事業承継

今回の記事では、個人事業主が事業承継を行うときに最低限知っておくべき情報を、過去の事例などを参考にご紹介します。

子供たち以外を後継者とする場合の準備や、事業承継の相手を探す方法を確認したい方は参考にしてください。

個人事業主と中小企業における事業承継の違いと関連性

個人事業主による事業承継は、中小企業と比較して以下2つの違いがあります。

自社株の引き継ぎが不要

中小企業の場合、発行している自社の株式を引き継ぐ手続きを伴います。

一方で個人事業主は株式を発行していないため、企業とは異なり承継を行う必要がありません。

個人用資産の引き継ぎを伴う

法人である事業者の場合は、あくまで事業用の財産(事務所など)や株式の引き継ぎのみ行います。

一方で個人事業主の事業承継では、自宅の土地などの個人用資産の引き継ぎも伴います。

個人事業主による事業承継の方法

個人事業主による事業承継は、以下に挙げた3つの方法の中からいずれかを選択して行います。

相続

経営者の方が亡くなった時点で事業を承継する方法です。

あらかじめ書いておいた遺言、または遺産分割の協議の決定事項に基づいて事業承継を実施します。

贈与

経営者が生前に贈与の形で、事業用の資産を後継者に渡す方法です。

主に親族に向けての承継で用いられています。

事業譲渡(事業の売買)

事業を第三者または他の会社に売却する形で事業承継する方法です。

事業を後世に継続できる上に、事業の売却で現金の収入を取得できるのがメリットです。

個人事業主による事業承継で必要な3つの手続き・流れ

個人事業主による事業承継は、基本的に下記の3ステップで行います。

手順1:先代の経営者が廃業届を提出

はじめに経営者が廃業の届出を記載し、それを税務署に提出します。

なお経営者が死亡している場合は、相続人が代行しましょう。

手順2:後継者となる者が開業届を提出

次に、後継者となる方が開業に必要な書類を税務署に提供します。

手順3:各種資産の名義変更や債権・債務の引き継ぎ

不動産や各種の契約は、先代の経営者が個人の名義で行っています。

そのため、引き続き後継者が事業を経営するには、資産や契約等に関して後継者の名義に変更する必要があります。

個人事業主による事業承継でかかる税金の一覧

個人事業主による事業承継では、主に以下に挙げた4種類の税金が課税されます。

※固定資産税などが課税される場合もありますが、今回は主要な税金のみを紹介します。

それぞれのケースによって課税される税金が変わってくるため注意しましょう。

※税制改正などにより変わる可能性もあるのでご注意ください。

贈与税

贈与税は、贈与によって事業承継した場合に課税されます。

なお贈与税は、固定資産や預貯金などの資産から、借入金などの債務(負債)を差し引いた部分が課税対象となります。

また、贈与した分の金額が年間で110万円以下ならば基本的に課税されません(110万円が控除されるから)。

相続税

相続税は、相続による事業承継で発生します。

相続税の申告に関する期限は、被相続人が亡くなった日の翌日から10ヶ月以内までと短いので注意しましょう。

なお相続税の税額に係る計算は非常に複雑なので、税務の専門家である税理士に相談・依頼し、支援を受けるのがベストです。

所得税

M&Aによって事業承継を行った場合、売却で得られた利益に所得税が課税されます。

ただし譲渡する資産によって、所得税の仕組みや税率が変わるので注意です。

たとえば不動産ならば譲渡所得として分離課税の対象となる一方で、棚卸資産などは事業所得とみなされます。

消費税

事業譲渡の形で事業を引き継ぐと、課税資産に対して消費税が発生します。

また、課税される売上高が1,000万円を超えている事業を相続で承継した場合には、1年目から消費税を納付する必要があります。

個人事業主による事業承継の注意点・ポイント

個人事業主が事業承継を行う際は、下記3つの注意点(課題)やポイントを押さえておくことが重要です。

手続きに多大な時間が発生する可能性がある点に注意

開業届と廃業届の提出は最低限必要な手続きであり、状況に応じて追加で対応が必要となる場合が多いです。

たとえばM&Aならば、買い手探しや資料の作成などに膨大な時間がかかります。

また子供への事業承継でも、後継者の教育や後継者の側における青色申告の申請などが必要です。

想定外に多大な時間がかかり、円滑な事業承継が困難となる恐れもあるので注意しましょう。

節税の対策を知っておくのが大切

事業承継では、所得税や相続税などで多大な税負担が発生します。

小規模に事業を営む個人事業主にとって、税金の負担は資金繰りを悪化させる要因となり得ます。

したがって、宅地等の特例や後述する事業承継税制など、節税に役立つ対策をあらかじめ知っておき、積極的に活用を検討することが重要です。

M&Aの場合は売買価格の相場や計算の方法を知っておく

M&Aによって事業承継する個人事業主は、あらかじめ自分の事業所を売却した場合の相場や、事業価値の計算方法などを知っておきましょう。

あらかじめ相場や計算方法を知っておけば、安値で事業を買い叩かれるリスクを軽減できるので安心です。

また、早いうちに希望の売却価格よりも低いことを理解すれば、価格を高めるための対策を講じることが可能です。

個人版の事業承継税制はどんな制度?特徴を解説

事業の承継を行うに際しては、個人版事業承継税制を使ってみるのがおすすめです。

この章では、この制度の基本的な概要やメリット、利用するための条件をお伝えします。

相続税や贈与税の納税が猶予・免除される(節税のメリットを得られる)

この制度は、青色申告を行っていた個人事業主の後継者に対して、事業用資産を継承した際の相続税や贈与税の納税を猶予または免除するものです。

大きな節税の効果を得られるため、経営者の交代の後も業務をスムーズに運営できます。

なおこの制度では、一定の規模以内の宅地や建物、減価償却資産(条件を満たしたもの)の引き継ぎを対象としています。

事業承継税制の適用が承認される要件

事業承継税制で納税の猶予を受けるには、主に「贈与者・被相続者」と「後継者(受贈者・相続者)」がそれぞれ要件を満たす必要があります。

贈与者及び被相続者が満たすべき要件としては、「相続開始日または贈与日が属する年、その前年およびその前々年の確定申告書に関して、青色申告書により提出していること」などが定められています。

一方で後継者に関しては、「相続税および贈与税の申告期限において開業届出書を提出し、青色申 告の承認を受けていること」などが条件となっています。

より詳細な条件や免除となる要件については、国税庁の公式Webサイトをご参照ください。

参考:個人の事業用資産についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(個人版事業承継税制)のあらまし 国税庁

個人事業主による事業承継(この記事)のまとめ

税金や手続きなどの面が複雑なので、個人事業主の事業承継は事前に計画を立てて慎重に行うことが大切です。

特に税金については費用の観点で重い負担となるため、国が運営している機関によるサポートの制度を積極的に活用しましょう。

またM&Aによる事業承継では、実績があるM&Aの専門アドバイザーによるサービスを使うと良いでしょう。