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事業譲渡で従業員がリストラされにくい理由とは?

2021.01.19 M&A知識

事業譲渡を実施すると、ほぼ必ず売却する事業に所属していた従業員の雇用契約も買い手に移転することになります。

自分の会社内で働いてきた従業員や役員がリストラ(リストラクチャリング)されることを不安に思い、中々事業譲渡に踏み切れない中小企業の経営者様も少なくありません。

しかし実際には、事業譲渡にともなって売り手から移行した従業員がリストラされるケースは少ないです。

言い換えると、その後もそのまま雇用契約が継続されるわけです。

また、買い手の一方的な都合によりリストラを行っても、解雇自体が無効となる可能性が高いです。

そこで今回のコラムでは、事業譲渡で売り手の従業員がリストラされにくい理由を解説します。

「絶対に従業員には迷惑をかけたくない」とお考えの方はぜひ参考にしてください。

事業譲渡で従業員がリストラされにくい理由とは

先に、事業譲渡のときに従業員がリストラされにくい理由を紹介します。

多くの事業譲渡で従業員がリストラされにくいのは、下記2つの理由があるからです。

買収の目的に人材確保も含まれているから

最も大きな理由は、買い手が人の受け入れをM&Aの目的に含めているケースが多いからです。

誰でもできる業務や機械で代替できるようなビジネスを除き、買収した事業で引き続き利益を得たり、自社事業との統合によるシナジー効果を獲得するには、これまでその事業に従事してきた従業員が欠かせません。

もしくは、新しい業界・業種に進出するためのM&Aでも、効率良く仕事をこなせたり、重要な役割を担う人材の取得は必須の課題です。

たとえばシステム開発の事業を継承した場合、売り手の事業に在籍していた能力が優秀かつ経験が豊富なエンジニアが不可欠です。

つまり買い手にとって、従業員の労働契約を引き継ぐことには、デメリットよりもメリットの方が圧倒的に大きいのです。

反対に従業員を受け入れないと、多くの事業ではM&Aの失敗に終わる可能性が高まります。

以上より、買い手の方から従業員の転籍をM&Aの条件に含めるように要望を出される傾向があります。

法律の規定で簡単にはリストラできないから

2つ目の理由は、法律の規定が厳しく、簡単には労働者をリストラできないからです。

労働契約法第16条の規定により、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当であると認められない解雇は無効となってしまいます。

リストラが認められるには、一般的には下記4つの要件をすべて満たす必要があります。

  • 人員整理の必要性がある(会社の運営に関する状態が非常に悪化しているなど)
  • 解雇回避努力義務を履行した(新規採用の中止や希望退職者の募集などの努力を行った)
  • 被解雇者の選定に合理性がある(勤務成績などの合理的な基準に沿って選定している)
  • 手続きに妥当性がある(労働協約にしたがっている)

つまり、「スキルを持っていない」とか「人件費を節約したい」などといった理由では、事業譲渡で引き継いだ従業員をリストラすることは原則できないのです。

参考:労働契約法第16条

事業譲渡に伴うリストラが無効となった事例(勝英自動車学校事件)

事業譲渡に伴うリストラが無効となった事例としては、勝英自動車学校事件が有名です。

本件事例の概要は以下のとおりです。

  • とある自動車学校(売り手)が、他の会社(買い手)と営業の全部を譲渡する契約を締結
  • 事業譲渡契約と同じ日の間に売り手企業が解散を決議した
  • 賃金等の新しい労働条件が、売り手企業と比べて相当程度下回る旨に同意する従業員のみ契約が引き継がれた
  • 一度売り手企業を退職させ、あたらしく買い手側で再雇用する形で雇用契約を引き継いだ
  • 退職届を提出しなかった(労働条件に納得しなかった)従業員は、会社の解散を理由にリストラされ、雇用が引き継がれなかった

つまり、会社の解散などの制度を巧みに活用し、不利益な契約条件に合意しない従業員を実質的にリストラしたわけです。

本件事例では、解雇権の濫用であると認定され、リストラは無効となりました。

このとおり、工夫を凝らして不必要な従業員をリストラしようとしても、裁判により無効となるケースが大半なので理解しておきましょう。

参考:事業譲渡に伴う労働関係に関する主な裁判例・命令例について(平成14年以降)

事業譲渡や会社売却では遠回しなリストラ(待遇の悪化)に注意

ここまで、買い手の組織が得られるメリットが少ないことや、法律の規定が厳しいことを理由に、事業譲渡や会社売買に関連してリストラすることは困難とお伝えしてきました。

しかし、直接的にリストラできなくても、遠回しなやり方で事実上のリストラが行われるリスクがあるので注意が必要です。

この章では、遠回しなリストラの概要や相手企業の人事がリストラを遂行する背景、回避する方法を解説します。

遠回しなリストラ=待遇の悪化により自主退職に追い込むこと

遠回しなリストラとは、従業員の扱いを大幅に変更したり職場環境を故意に悪くすることで、自主的な離職を促進する手法です。

たとえば、家族がいる従業員を引っ越しが必要となるような場所に転勤させたり、何回も退職を勧める面談を行ったりすることで、精神的に辞めたいと思わせるスキームが考えられます。

また、給料やボーナスが以前と比べて大幅に下がる場合も該当します。

こうしたさまざまな手法は、労働に関連した法律の穴をつくようなものであり、事前に事業譲渡の契約などで対処するのは簡単ではありません。

遠回しなリストラを行う背景

こうした周りくどいリストラは、事業譲渡後に経営の効率化・改善を図る必要性が高い際に行われます。

たとえば買い手が人件費をはじめとした費用の削減を検討していると、事業譲渡後にリストラを行いやすいです。

もしくは、買収した事業で必要な技術やノウハウを持つ従業員が買い手側に在籍していたり、属人性が低いビジネスの事業譲渡では、リストラを進める可能性が高いです。

遠回しなリストラを回避する方法

こうしたリストラを避けるには、自社の従業員を大切にしてくれる誠実な買い手かどうかを見きわめることが大事です。

もしくは、上記で述べたリストラを行う必要性がないかどうかを、交渉の段階で確認しておくのも有効でしょう。

加えて、事業譲渡の条件として「一定の期間・範囲にわたる労働条件の維持」を求めることにより、買い手と合意を図っておくのも効果的です。

「従業員の待遇を良くすること」が事業譲渡・事業売却を成功させる秘訣

遠回しな形でリストラする企業は存在するものの、基本的には事業譲渡に伴いリストラが敢行されるケースはまれです。

むしろ、売り手から移転した従業員が職場環境や待遇に不満を抱き、モチベーションや生産性が低下したり、自らの意思で待遇の良い他社に転職する可能性の方が高いです。

従業員のモチベーション低下や転職が発生すると、買い手が買収した会社や事業の収益性や生産性は低下する恐れがあります。

また、売り手の社長にとっても長年自社の業績に貢献してきた従業員が不満を抱くことで、後味の悪いM&Aとなってしまいます。

まとめると、売り手・買い手双方にとって、リストラの心配よりも「従業員の待遇を良くすること」をしっかりと考えることが、事業譲渡を成功させる上で重要なポイントと言えます。

そのために売り手の経営陣は、自社の従業員を大切にしてくれる買い手を選んだり、契約にて従業員の高待遇を約束してもらうことが大切です。

一方で買い手には、買収後に引き継いだ社員が心地よく働ける環境や労働条件、立場を整えることが求められるでしょう。

なお事業譲渡に伴う従業員の移転に際しては、退職金の支払いや有給の買い取りといった対応も求められます。

こうした事業譲渡で必要な対応について疑問がある場合は、中小企業のM&Aを支援している弊社にお問合せください。

豊富にある案件の提供・仲介はもちろん、トラブルや事業譲渡の最適なタイミングなどに関するアドバイスやお手伝いも行っております。

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