M&Aにおける役員退職金とは?お得に株式譲渡する方法を解説
2021.01.11 M&A知識経営者が退職する際には、「役員退職金」という形で多額の金銭が支給されるのが一般的です。
M&Aによる経営者の交代でも同様に、役員退職金が支払われる事例は多々あります。
実は、役員退職金を有効活用することで、通常の株式譲渡よりも税金を安くできる可能性があります。
今回の記事では、そんな役員退職金を活用して税金を安くできるメリットについて解説します。
目次
役員退職金を活用したM&Aのスキームとは
役員退職金を活用したM&Aのスキーム(手法)とは、株式譲渡の対価とは別に、売り手のオーナー個人に対して役員退職金が支払われるM&Aを指します。
中小企業の大半は、第三者への事業承継を目的にM&Aを実施します。
経営者は会社オーナーの座から退くことになるため、M&Aの対価とは別に役員退職金が支払われるケースが少なくありません。
役員退職金と株式譲渡価格の関連性
次に、役員退職金と株式譲渡価格の関係を説明します。
売り手からすると、株式譲渡の価格とは別に役員退職金を受け取るとなると嬉しいように思えます。
しかし買い手からすると、役員退職金を支払うということは、実質的に買収金額が増えることを意味します。
そのため実務上は、株式譲渡の金額に役員退職金の分を含めていると考えるケースが多いです。
つまり売り手にとっては、株式譲渡の金額と別に役員退職金を受け取るのではなく、対価の中からご自身の役員退職金を受け取るイメージです。
ただし役員への退職金を支払うと、買い手側は節税面でメリットを得られます。
その点を上手くアピールできれば、役員退職金の分だけ株式譲渡価格を上乗せできる可能性があります。
役員退職金と株式譲渡にかかる税金の仕組み
役員退職金と株式譲渡では、税金が課税される仕組みが異なります。
役員退職金
役員退職金に関しては、以下の計算式で所得税額が算出されます。
- 所得税額 = (退職金の総額 − 退職所得控除) × 1/2 × 税率 − 控除額
なお退職所得控除は、以下の計算式で計算できます。
- 退職所得控除(勤続年数が20年以下の場合) = 40万円 × 勤続年数(80万円に満たない場合は80万円)
- 退職所得控除(勤続年数が20年を超える場合) = 800万円 + 70万円 × (勤続年数 − 20年)
参考:No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得) 国税庁
株式譲渡
株式譲渡に関しては、下記の計算式で所得税額が算出されます(下記以外に5%の住民税も課税)。
※計算の簡略化を目的に、復興特別所得税は考慮していません(以下同じ)。
- 所得税額 = (譲渡金額 − 取得費 − 譲渡費用) × 15%
取得費は株式の購入や取得に要した費用、譲渡費用はM&Aの実施に要した費用を指します。
参考:No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税) 国税庁
売り手から見た役員退職金を受け取るメリット
M&Aの際に役員退職金を受け取る最大のメリットは、税金を減らすことでより多くの利益を手元に残せる点です。
節税できる理由は、役員退職金では多額の退職所得控除を引けたり、所得を半分にできたりと、株式譲渡の所得と比べて税務面で恩恵が大きいからです。
メリットを理解するために、「1億円全額を株式譲渡の対価として受け取るケース」と「1億円のうち1,500万円を役員退職金として受け取るケース」に分けて、どちらが税金を少なくできるかを考えてみましょう。
1億円全額を株式譲渡の対価として受け取るケース
取得費が200万円、譲渡費用が800万円の場合、M&Aによって最終的に課税される所得税は以下のとおり計算できます。
- 所得税額 = (1億円 − 200万円 − 800万円) × 15% = 1,350万円
1億円のうち1,500万円を役員退職金として受け取るケース
勤続年数が50年の場合、退職所得控除は以下のとおり計算されます。
- 退職所得控除 = 800万円 + 70万円 × (50年 − 20年) = 1,010万円
退職所得控除が940万円ということで、1,500万円の役員退職金にかかる所得税額は以下のとおり計算できます。
- 所得税額(退職金) = (1,500万円 − 1,010万円) × 1/2 × 10% − 97,500円 = 14万7,500円
一方で株式譲渡の対価に課税される所得税は、以下のとおり算出されます。
- 所得税額(株式譲渡の対価) = (8,500万円 − 200万円 − 800万円) × 15% = 1,125万円
つまりこのケースで課税される税額は、14万7,500円+1,125万円= 1,139万7,500万円となります。
株式譲渡の対価として全額受け取るケースと比べて、およそ200万円弱も節税できていることが分かるでしょう。
参考:退職金と税 国税庁
買い手から見た役員退職金を支払うメリット
売り手の経営者に支払った役員退職金は、買い手の企業で損金として算入できます。
損金として算入することで、課税される法人税等を安くする効果が見込めます。
株式の買収資金は損金とできないので、役員退職金を支払うスキームならではのメリットと言えます。
税務視点における役員退職金を利用するデメリット(注意点)
株式譲渡によるM&Aでは、上記のとおり役員退職金を活用することで、売り手・買い手ともに大きなメリットを得られます。
ただし税務の視点では、いくつか注意すべきデメリットもあります。
この章では、売り手と買い手それぞれの視点から役員退職金の利用に際して注意したいデメリットをお伝えします。
売り手が注意すべきデメリット
売り手側では、社長の役員退職金を増やしすぎると、かえって税金が増える点に注意が必要です。
具体的にいくらから税金が増えるかはケースバイケースなので、税理士やM&Aアドバイザーといった専門家にご相談しましょう。
買い手が注意すべきデメリット
一方で買い手は、不当に高い役員退職金を支払うと、一部が損金不算入となるリスクに注意が必要です。
損金不算入になると、税金を削減できない上に支出だけが増える結果となります。
そうならないためにも、あくまで一般的に合理的な金額だけ退職金を支払うようにしましょう。
会社売却では社長の役員退職金を積極的に受け取ろう
今回ご紹介したように、M&Aで役員退職金を有効活用すれば、売り手オーナーの手取りを増やすことができます。
ただし税金を節税できるラインを見極めるには複雑な計算が必要なので、M&Aの支援を行う専門家と協力しながら具体的な金額を決定するのがベストです。
弊社では、M&A仲介のサービスを通じて、中小企業の事業譲渡や事業承継をサポートしています。
M&Aにおける役員退職金に関して疑問があれば、ぜひお気軽にご相談ください。