起業してからどのくらいの期間で事業売却を考えるべき?事例をもとに徹底解説!
2021.06.28 会社・事業を売る事業売却とは、株式譲渡、事業譲渡、合併、会社分割などスキームを問わず、企業や個人に事業を売却することで資金を得る手法です。
起業した後、あまりに早すぎるタイミングで事業売却しようとすると、買い手に対して、売却ありきで事業をしていたのではないかと、あまり良い印象はありません。
実務上、どのくらいの期間が経過すれば、事業売却を考えても良いのでしょうか。実際の事業売却一覧の中から、事業売却までのスケジュールが比較的短い事例を3つ紹介していきます。
目次
OMAKASEの事業売却事例
OMAKASEは、高級飲食店をターゲットにした予約サービスを展開しているベンチャー企業です。
予約困難店に事業セグメントを特化したことで、サイトへ集客しやすくなっており、店舗との強い繋がりが事業の強みになっています。
設立年月は2017年4月であり、2021年5月にGMOインターネットがOMAKASEを株式交付のスキームにより買収することが発表されました。
OMAKASEの2020年3月決算では、売上高約5,000万円、営業利益トントン、従業員の数も10名未満の規模でした。
売り手となる株主は、創業者、従業員などでベンチャーキャピタルなど機関投資家は入っていません。
OMAKASEを設立してから4年1ヶ月での事業売却達成となります。
他方で、GMOインターネットは、OMAKASEの株式約62%のみの取得に留まるため、残りはOMAKASEの経営陣らが引き続き保有することになります。
完全なエグジットではなく、一部エグジットの案件ではありますが、起業してから4年程度で多額の資産を築いたことになります。
参考:
人気飲食店の予約管理サービスを展開する株式会社 OMAKASE の株式交付(簡易株式交付)による子会社化に関するお知らせ
コインチェックの事業売却事例
コインチェックは仮想通貨取引所を運営しているベンチャー企業です。
仮想通貨の売買が行われた際に手数料を計上するビジネスモデルですが、ビットコインやイーサリアムなどの他のアルトコインの値上がり益を背景に多額の純資産がある状況でした。
設立年月は2012年8月であり、2018年4月にはマネックスが36億円で買収することが発表されています。
買収当時のコインチェックは、仮想通貨の盗難事故にあり、経営的に苦しい時期でした。
仮想通貨の盗難を顧客に返却する必要が生じており、潜在的な負債が多額にある状況になり、今までの好調な経営が一転してしまったのです。
苦境に立たされた企業を救済する意味もあるM&Aでしたが、こちらは設立から5年8ヶ月でのエグジットとなりました。
マネックスはコインチェックを100%買収していますが、契約条件の一つに「アーンアウト条項」が付されていることが特徴で、コインチェックの経営陣に買収後の経営モチベーションを与えています。
アーンアウト条項とは、一定の財務やKPI数字を達成した場合に追加の対価を支払う取引です。
コインチェック案件の場合、2021年3月期まで純利益の½を支払う契約を締結していました。
アーンアウト条項により、コインチェック創業者は36億円に加えて、更なる対価を手にしていることに成功しています。
参考:
CASHの事業売却事例
CASHは売りたいブランド商品を選択し、写真撮影すると査定金額が表示され、金額に同意すると実際に売却することのできるアプリサービスです。
設立年月は2017年2月であり、同年10月には70億円という破格の条件でDMMに買収されました。
ただし、このM&Aは失敗しており2018年11月にはCASH創業者の光本氏が5億円でMBO(経営者による買収)することが発表されています。
- 2017年2月設立→2017年10月事業売却→2018年11月MBO
設立からわずか8ヶ月間の事業売却でもあり、事業売却から1年1ヶ月でのMBOの実施という珍しい事例です。
光本氏がstores.jpの創業者でもあり、CASHは連続起業家による起業であったことから経営者の評価も高かったことで実現した事業売却である点は留意が必要です。
また、買い手であるDMMとしては、70億円で買収した事業を1年1ヶ月後に5億円で売却しており、M&Aにより短期間で65億円の損失を計上しています。
短期間で多額の損失を計上するというM&Aのデメリットが大きく出てしまった買収事例の一つです。
参考:
起業してから長い時間をかけて事業売却することもできる
以上の3つの事例では、比較的短期間で事業売却している事例を見てきました。
- OMAKASE:4年1ヶ月
- コインチェック:5年8ヶ月
- CASH:8ヶ月
一方、事業売却の事例としては、起業から短期間で事業売却した事例よりも長い時間をかけて事業売却する事例の方が多くあります。
典型的なのが、創業者が高齢となったので後継者に事業を引き継ぐ際、親族内承継ではなく、第三者への事業売却を選択する場合です。
高齢化問題により、事業の後継者不足は社会的な問題となっていますが、事業売却は解決策の一つとして取り上げられています。
事業売却は、短期間で高いバリュエーションで売却した案件がクローズアップされがちですが、創業者が引退する際の事業売却案件など、長期間かけて事業売却案件も数多くあることに留意しておきましょう。
売り急いでいないと思われる交渉テクニック
それでも短期間での事業売却を目指したい場合、事業売却の進め方や買い手との交渉における注意点は、売り手が「売り急いでいない」ことです。
売り手が売り急いでいると相手が感じた場合、「事業上のリスクが大きいのではないか」、「実は事業がうまくいっていないのではないか」、「売上、利益、純資産などの財務数字に誤りがあるのではないか」、「訴訟など法的な問題が発生していないか」などを理由に、不必要に不安を生じさせてしまいます。
不安を感じた買い手候補は、デューデリジェンスや交渉により長い時間をかけて検討し、結果として事業譲受をしないという選択をする可能性が高まってしまいます。
売り手が希望としては早期売却を望んでいたとしても、買い手から「売り急いでいない」と思われるためには、事業売却以外の選択肢を持っていることが重要です。
事業売却以外の選択肢とは、自分で引き続き経営を行うことです。
自分で経営することによりある程度の利益確保できる状態であれば、事業売却を急ぐ必要はなく、交渉上、時間を味方に付けられるというメリットがあります。
財務状況が悪く、資金繰りも苦しいといった状況になってしまうと、交渉時間が限られ、時間は買い手の方に味方してしまいます。
逆説的ではありますが、日々の経営改善を積み重ね、より良い経営状態を保つことが短期間での事業売却を達成するための重要ポイントとなります。
事業売却の基本的な流れ
事業売却は通常、以下のような流れで進みます。
- 仲介、FAへの相談、またはM&Aマッチングプラットフォームへの登録
- 事業売却の案件化作業
- 買い手候補へのアプローチ
- トップ会談
- 基本合意書の締結
- デューデリジェンス
- 買い手側での取締役会決議
- 最終契約書(株式譲渡契約書、事業譲渡契約書、合併契約書など)の締結
- クロージング
早期売却を実現したい場合には、仲介会社やFAに希望する売却時期をあらかじめ伝えておくと効果的です。
また、事業売却の案件化作業の際には、登記簿謄本、定款、財務諸表、税務申告書、KPI推移、事業計画書などの資料が必要です。
買い手は上記の資料を総合的に検討し、対象企業の企業価値を算定し、売り手にオファーする金額を決定することになります。
管理面で資料が整備されていない場合には、顧問税理士に事前相談のうえ、資料をまとめておくことがポイントです。
また、事業売却のスキームについて、合併や会社分割など会社法上の組織再編行為を選択した場合、株主への公告、債権者保護手続、労働者保護手続など法的な手続が必要になる点に留意が必要です。
M&Aの早い段階で、全体スケジュールを買い手、売り手と弁護士、税理士、公認会計士などの外部専門家を含めて、共通認識としておくとプロジェクトをスムーズに進捗させることができます。
短期売却を達成したいなら専門家の力を借りると効果的
以上、解説してきたとおり、短期で事業売却する場合には、交渉上の難易度が上がってしまいます。
そこで、最後のまとめとしてお伝えしたいことは、「経営者一人で、基礎的な本やセミナーなどの知識のみでM&Aの実務を進めるのではなく、M&A仲介会社、FA、コンサルタントなど専門家の支援を受けることが成約への近道」ということです。
専門家には、大企業・中小企業なのか業種・業界・業態などに対する強みがそれぞれ異なっているため、相談の前によく確認してみましょう。
自社の規模や業種に合わせて、実績のある適切な専門家を活用することがおすすめです。
また、事業売却のプロセスは契約すれば終了ではなく、クロージングまで適切に手続きを行う必要があります。
例えば、株主総会の特別決議、取締役会による承認、利害関係者への通知、許認可の引き継ぎなど様々な手続きが挙げられ、法的な手続きが完了していなければ、法的に不安定な状況が続きます。
読者の皆様が専門家の力を借りることで、交渉、クロージングを効率的に進めて、短期的な事業売却を達成されることを祈願しております。