赤字でも事業売却できる?売却のテクニックを紹介!

2021.06.20 会社・事業を売る

M&Aの買い手は、投資金額を将来事業から得られる利益から投資回収する必要があります。

そのため、基本的には赤字の事業を買収したくはありません。

一方、世の中のM&A事例では、赤字でも事業売却(株式譲渡、事業譲渡、合併など)できている事例が数多くあります。今回は、赤字でも事業売却するためのテクニックを解説していきます。

基本的には黒字事業の方が評価は高い

赤字でも事業売却自体は可能ですが、原則として、黒字事業の方が買い手からの評価(=企業価値)は高く、事業売却できる可能性も高まります。

買い手の立場から考えると、事業の買収金額は、対象事業が生み出す将来の利益から回収する必要があります。

回収期間が短ければ短いほど、買い手としてはリスクが小さくリターンを大きくすることができます。

例えば、1億円で事業や企業を買収し、毎年2,000万円の利益が計上できたケースでは、5年で投資資金が回収され、その後の利益が事業買収による純粋なリターンとなります。

赤字事業を買収する場合、買い手は、経営改善を行い黒字事業とするか、買い手の事業とのシナジー創出により投資資金を回収する必要があります。

以上より、買い手にとっては赤字事業の方が難易度が高いM&Aといえ、黒字事業の方が投資回収がしやすくなります。

また、黒字の金額が大きければ大きいほど、DCFやマルチプルで算出する企業価値も高くなるため、高い金額でエグジットしやすくなります。

赤字でも事業売却するためには

経営者や株主が赤字事業・企業を売却する際、以下のような特徴や強みがあると売却できる可能性が高まります。

それぞれ詳細に確認していきましょう。

  • キャッシュフローが出ている
  • 含み益のある資産がある
  • 財務数字に現れない価値がある

キャッシュフローが出ている

赤字であってもキャッシュフローが黒字であれば、赤字が問題にならなくなります。その理由を解説していきます。

利益が赤字でキャッシュフローが黒字の場合とは、例えば、以下のような状況が考えられます。

  • 直近で多額の設備投資を実施したことで減価償却費が多額になっている
  • かなり保守的に貸倒引当金などの非現金支出費用を計上している

営業利益が−1,000万円、費用の中に減価償却費が2,000万円含まれている場合には、キャッシュフローは、1,000万円の黒字(-1,000万円+2,000万円)です。

買い手はキャッシュフローが黒字であれば、投資資金を回収することができるため、投資意思決定に進むことが可能になります。

もし、自分の会社が赤字の場合には、赤字の原因を分析し、キャッシュフローが出ていないかを検討してみましょう。

また、対象事業に繰越欠損金がある場合には、事業売却のスキーム選択次第では、買い手に節税メリットが生じる場合もあります。

例えば、合併により繰越欠損金のある会社を引き継ぐことで、買い手が既存事業の利益と相殺することで、支払う税金を抑えられる可能性があります。

注意点としては、M&Aの税務には、複雑な条件がいくつも必要な場合があるため、必ず顧問税理士などに事前に確認しておくことがおすすめです。

含み益のある資産がある

自社に含み益のある資産がある場合には、事業売却の際に考慮されるため、事業が赤字続きで倒産寸前、または負債が多く債務超過(純資産がマイナスの状態)だとしても売却できる場合があります。

含み益のある資産とは、時価のある有価証券、土地・建物などの不動産、ゴルフ会員権、美術品などが挙げられます。

特に不動産の場合、金額が多額になることから、金融機関から不動産を担保に融資を受けているケースが多く、不動産を有している=借入金が多いことが多く見かけられます。

不動産賃貸事業(アパート・マンション経営等)やホテル経営を行っている場合、事業が低迷してしまうと、負債が多い分、債務超過になりやすいビジネスモデルと言えます。

近年、コロナによる影響でホテルを売却するニュースが流れてきていますが、ホテル事業自体は赤字である場合が多いです。

一方、ホテルの立地がよく土地の価格が上がっている地域、例えば東京都内の一等地などの場合には、土地の含み益があることが想定されます。

ホテル事業は赤字であるものの、ホテルの土地の含み益を鑑み、総合的に投資価値が大きいと判断されれば、買い手としては、問題なくホテルを買収することが可能になるのです。

買い手はホテル事業をそのまま引き継ぐのではなく、土地を活用して新たなビジネスを展開することもできます。

対象事業の含み益が重要な場合には、業績よりも土地や建物のデューデリジェンスが重要になります。

財務数字に現れない価値がある

事業価値は、過去実績としての貸借対照表、損益計算書や将来事業計画の数字から算定されます。

一方、オーナー経営者であるあなたが運営している会社、事業には財務数字には現れない価値がある場合があります。

大手企業、中小企業に関わらず、財務数字には現れない価値とは以下のようなものが挙げられます。

  • 創業100年など、長い社歴がある
  • 他社にマネできない高い技術がある
  • 特定の地域、業種・業界で高いシェアを誇るサービスである
  • 優秀な従業員(社員、アルバイト含む)、人材が多数勤務している
  • 社名や事業名が広く浸透している
  • 大手企業との取引があるなど、収益基盤が安定している
  • 事業が拡大中で、将来の高い成長性が見込まれる

赤字の状態で事業売却を進める場合には、財務数字に現れない買い手にアピールできるポイントをいくつか考えておくのが事業売却のコツです。

赤字の事業売却の進め方

赤字事業も基本的には黒字事業と同じように事業売却を進めていきます。

  1. M&A仲介会社への相談、M&Aプラットフォームへの登録
  2. 案件化作業、買い手候補へのアプローチ
  3. 買い手候補による初期的な検討
  4. 基本合意書の締結
  5. デューデリジェンス
  6. 最終契約書(株式譲渡契約書、事業譲渡契約書、合併契約書等)の締結

仲介・FAへの相談とM&Aプラットフォームの比較

事業売却の選択肢は、①仲介・FAへの相談と②M&Aプラットフォームへの登録の大きく分けて2種類があります。

仲介・FAへ相談する場合、初回相談は無料であることが多く、手数料の大部分は成功報酬となります。

成功報酬の金額はレーマン方式と呼ばれる計算方法により計算され、事業売却金額が大きければ大きいほど高い手数料の支払が必要になってしまう点がデメリットです。

プラットフォームサイトの場合、登録自体は無料で、上記と同様に手数料の大半は成功報酬です。

仲介・FAより成功報酬が安い点が大きなメリットであり、売り手は完全手数料無料のプラットフォームもあります。

手数料の面では、M&Aプラットフォームを選択するべきと言えます。

一方、買い手側からすると、M&Aプラットフォームの場合、買い手は売買できる案件を一覧で確認することができ、黒字事業か赤字事業かの判別はできることになります。

黒字事業と同じ土俵で比べられることになるので、赤字事業に興味を持ってもらうためには、様々な工夫が必要になります。

仲介・FAによる売却であれば、専門家が赤字事業の内容を精査したうえで、最適な対応方法を提案してもらえます。

交渉の際も、仲介としてきちんと成約できるよう適宜アドバイスをしながら、クライアントの求めに応じたサポートを行い、成約のための支援を行ってくれます。

赤字事業売却の際は、多くの場合、M&Aプラットフォームよりも仲介会社やFAなどのM&A専門家に相談した方が成約しやすいと言えます。

仲介・FAへの相談やコミュニケーションの時間は増えますが、効率的なプロセスで進められる可能性が高いことから、結果として、事業売却にかかる時間もM&Aプラットフォームよりも短くなります。

事業売却のためのテクニック

赤字事業でも売却先を見つけるためのテクニックとして、以下の3つの手法が挙げられます。それぞれ詳細に見ていきましょう。

  • 買い手にアピールできる内容を整理し、買い手とのシナジーを考える
  • 財務体質の改善
  • 専門家からの支援を受ける

買い手にアピールする内容を整理し、買い手とのシナジーを考える

財務数字、財務数字以外のものも含めて、買い手にアピールできることは何かを徹底的に考える必要があります。

買い手に刺さる内容を考え、どのような買い手であればシナジーを創出できるか、売り手の立場から考えてみることも大切です。

具体的なシナジー効果を考えられれば、当てはまる買い手候補に対して、提案資料を作成し、直接事業売却のアプローチを行うこともできます。

財務体質の改善

赤字体質から黒字体質に改善することができれば、当然ながら事業売却できる可能性が高まります。

年度ベースでなく、月次ベースでの黒字達成でも構いません。

単月で黒字化を達成し、その後も黒字の見込みが立てば、黒字事業と同様に事業売却できる土俵に乗ることができます。

黒字化に向けてまず目を向けてほしいのは、「固定費」です。

固定費は、毎月固定の費用がかかるもので、主な固定費は以下のようなものが挙げられます。

  • 人件費
  • 家賃
  • 水道光熱費
  • 新聞図書費
  • 通信費
  • 業務委託費

人件費や家賃は固定費の大きな部分を占めますが、すぐに削減できるものでもありません。

コストの削減は一枚一枚の伝票から無駄な経費がないかを確認し、すぐに着手できるものから始めてみるのが効果が高くなります。

固定費の削減によりお金の減りを抑えれば、売上を伸ばすためのより抜本的な財務改善に着手することができます。

専門家からの支援を受ける

以上見てきた通り、赤字事業の売却は、黒字事業の事業売却よりも難易度が高いものになります。

それでも事業売却したい場合には、自分1人で全てやろうとするのではなく、M&A専門家(FA、仲介会社、コンサルタント、M&Aアドバイザー、税理士、弁護士など)の支援を受けることが重要です。

M&Aの専門家は、世の中に数多く存在していますが、必ずM&Aの知識・経験・ノウハウが豊富な専門家に相談するようにしましょう。

数回のM&A経験がある程度では、赤字の事業売却支援経験がない可能性もあります。

事前にホームページなどで過去の実績、経験を確認し、初回面談などできちんと専門家の力を確認しておくことが重要です。

専門家に依頼することで成功報酬などの手数料は必要ですが、事業売却資金から支払うことができ、自身の希望に沿った事業売却が成約できる可能性が高まります。

読者の皆さまが、適切な専門家の力を利用し、赤字事業の売却が成功できることを祈願しております。