事業売却で支払う税金は?種類や計算方法を解説
2020.09.07 会社・事業を売る事業を売却して収益を得ると、通常の事業活動と同様に税金が課税されます。
ただし、通常の事業活動や会社売却と比較すると、事業売却の税金は種類や計算方法が若干異なります。
事業売却を実施する際には、かならず事業売却に関する税務の知識を身に付けておく必要があります。
今回の記事では、事業売却で支払う税金について、種類や計算方法を分かりやすく解説します。
事業の売却を検討している経営者の方は、ぜひご参考ください。
事業売却で課税される税金の種類
そもそも事業売却とは、経営権を手元に残した上で、一部またはすべての事業を売却する行為です。
経営権を手元に残す関係上、事業を売却する際には「事業譲渡」と呼ばれるM&A手法が用いられるケースがほとんどです。
そんな事業譲渡では、主に下記2種類の税金が売り手に課税されます。
- 法人税等(法人税、地方法人税、法人住民税、事業税)
- 消費税
なお課税対象となるのは法人であるため、株主が納税する義務は生じません。
この点が、株式譲渡とは大きく異なる点なので注意しましょう。
法人税等の計算方法
事業売却を行った法人には、譲渡益に対して法人税や地方法人税、法人住民税、事業税が課税されます。
事業売却におけるメインの税金であり、計算方法もやや複雑です。
この章では、そんな法人税等の計算方法を手順に沿って分かりやすく解説します。
手順1:譲渡益を計算する
事業売却で支払う法人税等を計算するにあたって、まず行うべきは譲渡益の計算です。
譲渡益とは、事業売却で得られた利益のことです。
譲渡益は、売却価格から譲渡事業の純資産(資産−負債)を差し引くことで計算します。
言い換えると、譲渡した部分の純資産のうち、売却価格を上回る部分が譲渡益となるわけです。
- 譲渡益 = 売却価格 − 純資産
とても簡単な例を挙げると、売却価格が5,000万円、純資産が3,000万円の場合、譲渡益は以下の通り計算します。
- 譲渡益 = 5,000万円 − 3,000万円 = 2,000万円
手順2:自社の実効税率を調べる
事業売却で得られた譲渡益を算出したら、自社の実効税率を調べます。
実効税率とは、法人が負担すべき実質的な税金の負担率です。
やや語弊はありますが、「法人税」、「地方法人税」、「法人住民税」、「事業税」の合計金額が、所得(譲渡益)のうちどのくらいであるかを表すのが実効税率です。
具体的な実効税率は、企業の規模や利益の金額などによって異なります。
2020年度時点の実効税率は、大体30〜35%程度になります。
正確な実効税率は企業ごとに異なるため、必ず税理士などの専門家にご相談するようにしましょう。
手順3:法人税等を計算する
ここまでの手順を終えたら、いよいよ納税する税金の額を計算します。
納税する税金の額は、譲渡益に法人税等の実効税率を掛けることで求められます。
- 法人税等の金額 = 譲渡益 × 実効税率(30〜35%)
たとえば譲渡益が2,000万円、実効税率が30%の場合、法人税等の金額は600万円になります。
ただし法人税等は総合課税方式により算出されるので、実務上は他の事業所得などと合算した上で税金の額を計算します。
消費税の計算方法
事業売却(事業譲渡)では、法人税等に加えて消費税も課税されます。
厳密に言うと課税されるのは買い手側であり、売り手は買い手から預かった消費税を納税するだけです。
とはいえ、納税する上では消費税の計算方法は知っておく必要があります。
この章では、事業売却で納税する消費税を計算する方法を、手順に沿ってご説明します。
手順1:譲渡した資産を「課税資産」と「非課税資産」に分ける
事業売却で譲渡した資産の中には、消費税が課税されない資産(非課税資産)も含まれます。
そのため、消費税を計算するには「課税資産」と「非課税資産」を区別しておく必要があります。
消費税が課税される資産(課税資産)には、主に下記に挙げた資産が当てはまります。
- 有形固定資産(土地を除く)
- 棚卸資産
- 無形固定資産(ソフトウェアなど)
- 営業権(のれん)
一方で消費税が課税されない資産(非課税資産)には、下記に挙げた資産が該当します。
- 土地
- 債権
- 有価証券(株式など)
極端な話ですが、すべての資産が非課税資産に該当すれば消費税は課税されません。
無駄な税金を支払わないためにも、しっかりと課税資産と非課税資産は区別しておきましょう。
手順2:消費税を計算する
課税資産と非課税資産を分けたら、あとは消費税を計算するだけです。
消費税の金額は、課税資産に消費税率を掛けるだけで計算できます。
言い換えると、売却金額から非課税資産を差し引いた部分に消費税をかけます。
- 消費税 = 課税資産 × 消費税率(2020年現在は10%)
たとえば課税資産が1億円の事業売却では、消費税として納付すべき金額は1,000万円となります。
事業譲渡で節税する方法はあるの?
事業譲渡では多額の税金が課税されるので、少しでも節税を図りたいと考える経営者の方は多いです。
株式譲渡の場合、役員退職金の制度活用により節税効果を実感できます。
一方で事業譲渡(売却)の場合、特有の節税スキームは存在しません。
そのため、本業で得られた利益について、日々着実に節税対策を行うしかありません。
下手に自己流の節税対策を行うと、後からペナルティで多額の税金が課税されるリスクがあるので注意しましょう。
まとめ
事業売却(事業譲渡)では、法人税等と消費税という2種類の税金がかかります。
株式譲渡とは異なり、事業譲渡では効果的な節税スキームはありません。
少しでも納税する金額を抑えたい場合は、日々の事業活動で一つ一つの節税対策を着実に行う必要があります。
また事業売却でかかる税金は、株式譲渡と比較すると計算や仕組みが複雑です。
自社のみで税金を計算すると、正確な税額を算出できない可能性があります。
事業売却の税金を計算する際は、M&Aに詳しい税理士に相談しましょう。