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M&Aにおける株式譲渡とは?手続きや税金についても解説

2020.06.07 M&A知識

M&Aの数ある手法の中でも、株式譲渡は一番使用されています。

特に中小企業のM&Aは、手続きの簡便さやメリットの大きさから、そのほとんどが株式譲渡によりおこなわれます。

今回の記事では、そんなM&A手法の1つ「株式譲渡」の意味やメリット・デメリット、手続き、かかる税金をくわしく解説します。

株式譲渡とはどんな手法?

はじめに、株式譲渡の概要や事業譲渡との違いを説明します。

株式譲渡の概要

株式譲渡とは、売り手企業の株式を買い手に譲渡することで、経営権を移転するM&A手法です。

一般的に、株式会社では株式の有する議決権の賛成数により、重要な意思決定をおこないます。

言い換えると、持っている株式(議決権)の割合が多いほど、その会社に対して行使できる権限が強くなります。

この仕組みをM&Aで使用するのが株式譲渡です。

具体的には、売り手の全株式を買い手に譲渡する形で、経営権を買い手に移転する形で使用されます。

事業譲渡との違い

中小企業のM&Aで広く使用される手法には、事業譲渡もあります。

名称こそ似ているものの、株式譲渡と事業譲渡は大きく異なる手法です。

株式譲渡が「株式」を譲渡する一方で、事業譲渡とは「事業に関する権利」を譲渡する手法です。

あくまで特定の事業に関する権利のみを売買するため、会社の経営権自体は売り手が引き続き維持することになります。

上記の違いから、株式譲渡は会社ごと売買するケース、事業譲渡は一部の事業のみ売買するケースで使用されます。

また、株式を発行できない個人事業主のM&Aでは、すべての事業を売買する手法として事業譲渡が使用されます。

株式譲渡によりM&Aをおこなうメリット

株式譲渡でM&Aをおこなうと、下記3つのメリットを得られます。

カンタンな手続きのみでM&Aをおこなえる

一番のメリットは、カンタンな手続きのみでM&Aをおこなえる点です。

原則株式譲渡では、株式の売買のみでM&Aを終了できます。

合併などの手法とは異なり、特別決議や債権者保護の手続きなどの面倒な手続きは不要です。

株式に譲渡制限がかかっている場合(ほとんどの中小企業が該当します)、多少は手続きが増えるものの、それでも他の手法と比べるとカンタンです。

そのため、売り手にとっては、短時間で売却利益を得たり、事業承継の問題を解決できます。

一方で買い手も、素早くM&Aを終わらせて、スムーズに新しい事業分野への参入や既存事業の強化をおこなえます。

買い手は従業員の雇用や契約などを丸ごと引き継げる

1つ目のメリットに関連しますが、従業員の雇用や取引先との契約などをそのまま引き継げる点も、株式譲渡に特有のメリットです。

事業譲渡の場合、対象となる事業に関連する従業員の雇用契約や、取引先との契約について、再び締結することを要します。

一方で株式譲渡は株主(経営陣)が変わるだけなので、特段の手続きをおこなわずとも雇用や契約を引き継げます。

M&A前後の手続きにかかる時間・手間を削減できる点は、買い手にとって大きなメリットでしょう。

売り手の手元にのこる利益が多い

事業譲渡とは違い、株式譲渡ではすべての事業、会社の有するブランド力、従業員の技術力など、会社のすべてを譲渡します。

会社の売却価格は、事業で得られる収益性やブランド力などを総合して決まるため、事業のみを売却するよりも高い価格がつく傾向があります。

また、詳しくは後述するもののM&Aで生じる税金も、事業譲渡よりも安くなるケースがほとんどです。

以上より、株式譲渡をおこなう売り手は、最終的に多くの利益を手元に残すことができます。

株式譲渡によりM&Aをおこなうデメリット

一方で株式譲渡でM&Aをおこなうさいには、下記2つのデメリットにも注意を要します。

買い手は簿外債務などの問題点を引き継ぐリスクがある

前述したように株式譲渡によるM&Aでは、会社丸ごとを売買します。

そのため、ブランド力や技術といった良い部分のみならず、簿外債務や訴訟リスクといった悪い問題点も引き継いでしまいます。

買い手にとって引き継ぐリスクが大きい場合は、買収する部分を選べる事業譲渡が選ばれるケースもあります。

売り手は経営権を失う

株式譲渡では経営権ごと売買するため、売り手の経営者は経営者としての地位を失ってしまいます。

これまで手塩にかけて育ててきた会社を手放すのは、経営者にとっては寂しいことに思えるでしょう。

ただし後継者が見つからず廃業した場合は、会社ごと消滅してしまいます。

経営権は失っても会社はのこることを考えると、廃業するよりはM&Aをおこなう方がマシであると言えます。

株式譲渡によるM&Aの手続き

ほとんどの中小企業は、株式に譲渡制限を設けています。

そこで今回は、譲渡制限があるケースを想定し、株式譲渡によるM&Aの手続きをカンタンに解説します。

株式譲渡承認の請求

譲渡制限がある場合、売り手会社からの株式譲渡承認を要します。

そこで株式譲渡をおこなう者は、株式譲渡承認請求書を作成し、売り手会社に提出します。

なお承認請求書には、譲渡する株式数や種類、買い手側の氏名や住所などを含めます。

取締役会または株主総会による株式譲渡の承認

次に売り手会社は、社内の機関で株式譲渡の承認をおこないます。

取締役会設置会社の場合は取締役会、それ以外は株主総会で手続きをおこないます。

なお決定した内容は、2週間以内に請求した人に知らせなくてはいけません。

2週間以内におこなわないと自動で承認したことになるため、反対する場合には注意です。

株式譲渡契約書の締結

売り手会社が譲渡を承認したら、売り手と買い手双方により株式譲渡契約書を締結します。

株式譲渡契約書に含める内容は、M&Aの交渉過程で決定した項目となります。

具体的には、株式の数や売買価格、対価の支払い方法、表明保証などの項目を含めます。

なおM&Aの実務では、契約締結に先立って「トップ面談」や「デューデリジェンス」などもおこないます。

株式譲渡の承認請求などと並行して、こうしたM&Aの実務も済ませておきましょう。

クロージングと株主名簿の書き換え

M&Aの契約が締結されたら、あとは株式や対価の受け渡しなどのクロージングをおこないます。

また、クロージングが終了したら、売り手と買い手が共同で株主名簿の書き換えをおこないます。

名簿の書き換えが終わったら、晴れて株式譲渡によるM&Aは終了です。

株式譲渡でかかる税金

ほとんどの中小企業では、経営陣が個人で会社の株式を持っています。

そのため、今回は個人の売り手が株式譲渡をおこなう場合の税金について解説します。

株式譲渡によりM&Aをおこなった場合、売り手の株主に対して所得税と住民税が課税されます。

具体的には、譲渡所得に対して所得税15.315%と住民税5%(合計20.315%)が課税されます。

なお譲渡所得とは、売却金額から株式を取得した際の費用や株式譲渡の手続きにかかった費用を差し引いた金額です。

譲渡所得と課税される税額を式にまとめましたので、参考にしていただければと思います。

  • 譲渡所得 = 売却金額 − 取得費用 − 譲渡費用
  • 所得税額 = 譲渡所得 × 15.315%
  • 住民税額 = 譲渡所得 × 5%

まとめ

手続きの簡便さから、会社ごと売却するM&Aでは株式譲渡が使用されるケースが大半です。

株式譲渡の手続きやメリットを頭に入れておくと、今後M&Aをおこなうさいに役立つでしょう。

M&A手法について、他の種類も知りたい方は下記記事を参照ください。

M&Aの種類とは?分け方や各種類の特徴を徹底解説!