• TOP
  • M&A知識
  • 事業譲渡に反対する株主の対抗策は?実践で使える手法を徹底解説!

事業譲渡に反対する株主の対抗策は?実践で使える手法を徹底解説!

2021.12.26 M&A知識

事業譲渡とは株式譲渡と並びM&Aでよく利用されるスキームです。事業譲渡に反対の株主は株式買取請求を代表に、いくつか対抗策が用意されています。今回は事業譲渡に反対の株主がどのように対抗することができるかを徹底的に解説していきます。

事業譲渡でどのような機関決定が必要か

事業譲渡において、譲渡会社と譲受会社において、それぞれ承認の取り方が異なります。それぞれ詳細を確認していきましょう。

譲渡会社における株主総会決議

譲渡会社では、事業譲渡の効力発生日の前日までに株主総会の特別決議による承認を受ける必要があります。(会社法467条1項1号・2号)

ただし、譲渡対象資産の帳簿価格が当該会社の総資産の5分の1以下である場合には、上記の特別決議は省略することができます。また、譲受会社が譲渡会社の特別支配会社(総株主の議決権90%以上を所有している会社)である場合についても、株主総会の特別決議は必要ありません。

例えば、総資産1億円の会社であれば、2,000万円以下の事業譲渡であれば株主総会の特別決議は必要無くなります。金額的重要性のない事業売却であれば、株主ではなく、取締役会や取締役の判断でスピーディに経営することができます。一方、金額的重要性のある事業譲渡を行う際、経営者の議決権が3分の2を下回るケースでは、経営者のみの議決権だけでは事業譲渡の意思決定を行うことができない点は留意が必要です。

譲受会社における株主総会決議

譲受会社のケースでは、事業の全部を譲り受ける場合にだけ、株主総会の特別決議による承諾を得る必要があります。(会社法467条1項3号)

また、譲渡会社の制度と同様に、簡易事業譲渡や略式事業譲渡のルールが定められています。金額的に小さい事業譲渡であれば株主総会決議が省略することが可能になります。

必要な株主総会決議がなければ事業譲渡は無効になる

買い手と売り手が事業譲渡に関する契約を締結し、譲渡実行されてしまえば実務的には事業譲渡が成立します。この時、本来であれば株主総会の特別決議が必要な事業譲渡であったにも関わらず、必要な手続を欠いていた場合には、当該事業譲渡は無効になってしまいます。株主総会による決議が必要な事業譲渡を行う場合には、事業譲渡を行う旨の招集通知を、株主に事前に送付しておく必要があります。

事業譲渡を行う際は、必要手続を顧問弁護士やM&Aに詳しい法律事務所などに相談のもと、慎重に手続きを進めることがポイントです。

事業譲渡に反対の株主には、株式買取請求権が用意されている

事業譲渡に反対する株主には、企業に対して自分が保有する株式を「公正な価格」で買い取ることを請求することができます。(会社法469条1項)

株式買取請求権の機会を確保するため、当時会社は株主に対して効力発生の20日前までに通知または公告を行う必要があります。

ただし、実務上、事業譲渡の「公正な価格」を疎明していくことは困難である点には留意が必要です。通常、会社は株主が経営しているのではなく、株主から経営を委任された取締役が経営を行います。そのため、事業譲渡することに至った詳細な情報等を株主は持っていません。事業譲渡の「公正な価格」は、DCF法、マルチプル法、修正純資産法など様々な価格算定手法がありますが、詳細な情報や相場感が分かっていないと、裁判所に対して適正な価格であると主張することが難しくなります。実際に株式買取請求権を行使する際は、公認会計士、税理士、弁護士など、M&Aに精通し実績のある専門家に相談するのがおすすめです。

株式買取請求権に関する裁判事例

株式買取請求権の紛争は、「公正な価格」の意義、算定基準時、算定方法などが争点となりやすい事項です。株式買取請求権の「公正な価格」が争点になった裁判事例の概要を一つ紹介します。

楽天はTBSに対して敵対的買収を仕掛けましたが失敗に終わり、保有していたTBS株式の買取請求を行ったことがあります。楽天とTBSは買取価格の交渉・協議を行っていましたが、両者が合意できなかったため、東京地方裁判所にて「公正な価格」が決定されました。TBSは上場会社であるため、時価があったため、裁判所の判断は、買取請求期間の満了日の終値を公正価格とした結果、楽天に650億円の売却損が発生することになりました。(最決平成23年4月19日)

反対株主に用意されているその他の対抗策

反対株主は、株式買取請求権以外には、株主代表訴訟が考えられます。会社から経営を委任されている取締役は会社に対して善管注意義務を負っています。事業譲渡が善管注意義務に違反していると考えられる場合には、取締役の善管注意義務違反と主張して、株主代表訴訟を起こすことができます。

ただし、情報が不足している中、善管注意義務に違反していることを論理的に説明することができなければ、訴訟を起こすことは実務的に難しいと言えます。明らかに合理的な経営判断を欠いており、株主に大きな損害を与えてしまった場合などに、顧問弁護士等に相談のうえ、株式買取請求権以外の対抗策を取るようにしましょう。

まとめ

今回は事業譲渡に反対する株主の対抗策として、株式買取請求権を中心に解説してきました。事業譲渡は一定の基準を満たす場合に、株主総会の特別決議が必要となります。その際、事業譲渡に反対の株主は株式買取請求権を行使することができますが、「公正な価格」が論点となります。公正な価格によっては、株主に売却損が生じる可能性があるため、株式買取請求しない方が、経済的に有利になるケースもあります。

実際に株式買取請求権を行使する際は、M&Aアドバイザリー、公認会計士、税理士、弁護士など、M&Aや組織再編行為に詳しい専門家を起用することが重要です。案件の金額的重要性、勝訴できる可能性を鑑み、専門家の費用を払う価値があるのか慎重に判断した上で、株式買取請求権を行使するかどうかの意思決定を行う必要があります。