• TOP
  • M&A知識
  • M&Aの「のれん」とは?償却期間やのれん代を高めるコツも解説

M&Aの「のれん」とは?償却期間やのれん代を高めるコツも解説

2020.07.17 M&A知識

会社や事業を売却するに際しては、なるべく高値でM&Aを成立させたいと考えるのが普通です。

高い値段でM&Aを成立させるには、「のれん代」を買い手に高く評価してもらうことが不可欠です。

そこで今回は、M&Aにおける「のれん」の意味や償却期間、のれん代を高く評価してもらう方法などを分かりやすく解説します。

M&Aにおける「のれん」とは

M&Aにおけるのれんとは、事業・会社の売買価格と、売り手企業の純資産(時価)との差額を意味します。

本来会社や事業の価値は、貸借対照表に記載されている資産から負債を差し引いた金額(純資産)で表すべきです。

しかし企業の持つ資産には、ノウハウや技術力、販売網といった、貸借対照表には計上されない「可視化できない資産(無形資産)」も含まれます。

こうした可視化できない資産も、M&Aでは売買対象となります。

そこで実際のM&Aでは、可視化できない資産の価値を「のれん」として計上し、のれん代も含めた売買価格で契約します。

のれん代はどのように決まる?

結論から言うと、のれん代は買い手の最終判断により決定します。

売り手の持つ無形資産の価値は、買い手によって異なります。

たとえば買い手と売り手が共に小売店であれば、売り手の持つ「販売網」や「集客ノウハウ」は買い手にとって価値のある資産であるため、のれん代は高くなります。

一方で、買い手が全く関係のない業種である場合、売り手の持つ無形資産はあまり価値がないため、のれん代は安くなります。

実務では「DCF法」や「マルチプル法」などの手法を用いて、無形資産の価値も考慮して企業価値を算定します。

ですが最終的には、売り手と買い手の交渉、それを踏まえた買い手の判断により「のれん代」の金額は決まります。

M&Aで計上したのれんの償却期間

M&Aを行った買い手は、計上したのれんを適切な方法で償却(数年に分けて費用計上)する必要があります。

そんな償却期間ですが、日本の会計基準と国際的な会計基準(IFRS)では、扱い方が異なります。

この章では、日本基準とIFRSそれぞれについて、のれんの償却期間をお伝えします。

日本基準

日本の会計基準では、M&Aで計上したのれんを最大20年以内に償却する決まりとなっています。

あくまで最大20年なので、20年を超えなければ買い手側の判断で自由に年数を決めることができます。

一般的には、M&Aにかかった費用を回収するまでに要する期間と、のれんの償却期間を合わせます。

たとえば、M&Aに要した2億円を回収するのに8年かかる場合、のれんの償却期間も8年に設定するわけです。

IFRS

一方で国際的な会計基準「IFRS」では、そもそものれんの償却自体が認められません。

つまり、一度のれんを資産として償却したら、毎年それを費用として計上する必要はないわけです。

M&Aの買い手はのれんの「減損」に注意

買い手企業は、M&Aにより多額ののれんを計上します。

そこで注意すべきなのが、のれんの「減損」です。

のれんの減損とは、価値がなくなったのれんを損失として計上する会計処理です。

M&Aで事業を買収したからといって、必ずしも収益性や業績がアップするとは限りません。

期待通りのメリットを得られず、M&Aに投資した費用を回収できなくなるケースも多々あります。

そこで会計のルールでは、M&Aに費やした資金を回収できなくなった時点で、過大に計上していたのれん代を損失として計上する決まりとなっています。

たとえば東芝のように、M&Aに失敗してのれんの減損をおこなった結果、莫大な損失を計上したケースもあります。

のれんの減損は、業績の大幅な悪化を招く要因なので注意が必要です。

のれんが減損する原因

のれんが減損する原因は、一言で言うと「売り手の無形資産の価値を見誤ること」です。

デューデリジェンス不足や根拠のない売買価格の算定などによって、無形資産の価値を見誤ることとなります。

したがって、のれんが減損しないためには、徹底した調査や合理的な企業価値の算定が必要です。

参考:中小企業のM&Aが失敗する理由とは?対策も解説

のれん代を高めて高値で事業や会社を売却する方法

最後に、のれん代を高く評価してもらい、高値で事業や会社を売却する方法を3つご紹介します。

M&Aを検討している売り手経営者の方は、ぜひ参考にしていただければと思います。

自社を高く評価してくれる買い手を探す

前述したとおり、のれん代は買い手が感じる価値によって変動します。

したがって、自社やその事業を高く評価してくれる買い手とM&Aを行う必要があります。

一般的には、下記のような買い手を見つければ、のれん代を高く評価してくれます。

  • 自社の有する技術やノウハウ、販売網を欲しがっている
  • 自社とのM&Aによりコスト削減や売り上げの増加が見込める
  • 自社事業との関連性が高い

つまり、買い手にとってメリットがあればあるほど、自社の価値を高く評価してくれるのです。

少しでも高値で売却したい場合は、より大きなメリットを与えられる買い手を探すようにしましょう。

複数の買い手に打診する

複数の買い手にM&Aを打診することも、のれん代を高く評価してもらう手段の一つです。

一社とのみ交渉を進める場合、たとえば「後継者がいないから早くM&Aを行いたい」といった売り手側の意思を逆手にとって、少しでも安く買収しようとしてくる可能性があります。

一方で複数の買い手と交渉を進めれば、逆に買い手がM&Aにより欲しい資産や事業を取得できない可能性が出てきます。

その結果、買い手同士で競争が生じ、高い値段で売却できる可能性が高まります。

需要の高い「希少性のある技術」や「高度なノウハウ」などを持っている場合は、是非こちらの方法も活用してみてください。

無形資産の価値を高める

上記でお伝えした方法は、あくまで買い手から高く評価される無形資産を持っている場合にのみ通用します。

買い手から高く評価される無形資産を持っていないならば、無形資産の価値を高めることが先決となります。

たとえば自社の強みであるノウハウをさらに強化したり、買い手が欲しがるような販売網を拡大するといった施策が考えられます。

もしくは特許や商標などの知的財産を取得するのも一つの手です。

時間はかかるものの、より確実に高値で売却したいならば積極的に取り組むべきでしょう。

まとめ

買い手と売り手双方にとって、のれんはM&Aの成功を左右する重要な要素です。

M&Aを実施する際には、あらかじめ「のれん」の扱いや活用方法を慎重に検討しましょう。