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個人による株式譲渡の税務【無償による株式譲渡についても解説】

2020.11.23 M&A知識

一般的な中小企業では、経営者個人が保有する会社の株式を買い手に譲渡する形でM&Aを行います。

個人株主が株式譲渡を行う場合、課税される税金の種類や税率は、いくらで株式を売却したかによって変わってきます。

そこで今回は、「時価」、「無償」、「時価よりも高い価額」に分けて、個人による株式譲渡で課税される税金をご紹介します。

個人による株式譲渡とは

個人による株式譲渡とは、個人が持っている株式を売却する形でM&A(株式譲渡)を実施することです。

分かりやすく言うと、経営者個人が持っている自社の株式をすべて買い手に移転することで、実質的に会社ごと売却する行為です。

一般的な中小企業では、自社の株式を経営者個人が保有しているケースが多いです。

したがって、中小企業がM&Aを実施する際には、個人による株式譲渡として税務や会計の処理を実施することになります。

個人株主と法人株主では、株式譲渡の会計や税務の手続きがまったく異なるので注意しましょう。

原則的なケース(時価で行う株式譲渡)

まずは原則的なケースについて、個人株主による株式譲渡で課税される税金を解説します。

売り手の税金

売り手には、株式譲渡で手元に残る「譲渡所得」に対して、所得税と住民税が課税されます。

譲渡所得とは、株式の売買金額から取得費と譲渡費用を引いた金額です。

なお譲渡所得には「分離課税方式」が適用されるため、給与所得や事業所得とは分けた上で税金を算定します。

2020年11月現在、所得税の税率は20.315%(復興特別所得税を含む)、住民税は5%となっています。

したがって、売り手の個人株主に課税される税金は、下記の式で算出します。

  • 税金 = (売買金額 − 取得費 − 譲渡費用) × 20.315%

たとえば売買金額が1億円、取得費が2,000万円、譲渡費用が1,000万円の場合、課税される税金は次のように算定します。

  • 税金 = (1億円 − 2,000万円 − 1,000万円) × 20.315% = 1,422万500円

買い手の税金

一方で買い手には、消費税なども含めて一切の税金は課税されません。

無償による個人の株式譲渡

事業承継などのケースでは、無償による株式譲渡が実施されることがあります。

無償による株式譲渡とは、タダで自社の株式を後継者や買い手に渡す行為です。

そここの章では、無償による株式譲渡のケースについて、税務や会計の手続きをお伝えします。

売り手の税金

無償で株式譲渡を行う場合、買い手が個人か法人かによって税務の扱いは変わるので注意です。

買い手が個人の場合、譲渡所得がマイナスとなるため、所得税や住民税は課税されません。

一方で買い手が法人だと、時価で株式譲渡を実施したものとみなされます。

そのため、たとえ対価を受け取っていなくても、所得税や住民税が課税されてしまいます。

買い手の税金

売り手と同様に、無償による株式譲渡では、買い手が個人か法人かによって課税される税金の種類は異なります。

買い手が個人の場合、時価による株式譲渡があったとみなされ、贈与税の対象となります。

無償で譲渡された株式と他の贈与財産の金額と合算し、110万円を超えた場合に贈与税が課税されます。

一方で買い手が法人だと、時価による株式譲渡であると見なす点は同様ですが、法人税等が課税されます。

時価よりも高い価額による個人の株式譲渡

次に、時価よりも高い価額による個人の株式譲渡について、課税される税金をご説明します。

見てもらうと分かりますが、時価よりも高い価額で株式譲渡を実施すると、税務や会計の取り扱いは複雑になります。

ですので、極力は時価による株式譲渡を実施しましょう。

売り手の税金

無償での株式譲渡と同様に、買い手が個人か法人かによって税金の種類は変わります。

買い手が個人の場合、時価よりも高い部分に対して贈与税が課税されてしまいます。

また、それとは別に時価を基に譲渡所得課税も行われます。

一方で買い手が法人のケースでは、時価よりも高い部分に対して所得税と住民税が課税されます。

ただし、相手との関係により所得の種類が以下の通り異なります。

  • 売り手の個人と買い手の間に特別な関係がない→一時所得
  • 売り手の個人が買い手の従業員または役員→給与所得

また、時価を基にした譲渡所得課税も発生します。

買い手の税金

売り手と同様に、買い手が法人か個人かによって税務上の取り扱いに違いがでます。

買い手が個人のケースでは、株式譲渡の時点における課税は発生しません。

一方で買い手が法人のケースでは、時価と売買金額の差額が売り手に対する寄付金としてみなされます。

ただし、売り手の個人が買い手の従業員であるケースでは賞与とみなされます。

まとめ

個人株主による株式譲渡について、税務上の取り扱いをまとめると下記の通りです。

  売り手に課税される税金、税務 買い手に課税される税金、税務
原則 所得税、住民税 なし
無償での株式譲渡

買い手が個人:なし

買い手が法人:所得税、住民税

買い手が個人:贈与税

買い手が法人:法人税等

時価よりも高い価額での株式譲渡

買い手が個人:贈与税、所得税、住民税

買い手が法人:所得税、住民税

買い手が個人:なし

買い手が法人:時価と売買金額の差額が寄付金または賞与

基本的なM&Aでは、原則のケースのみを知っておけば問題ありません。

原則的なケースでは、誰でも簡単に株式譲渡で生じる税金を算定できるでしょう。

一方で無償での株式譲渡や時価よりも高い価額での株式譲渡では、複雑な仕組みにより税金が課税されます。

個人で正確に課税される税金を算出するのは難しいため、税理士などの専門家に相談するのがベストです。

なお弊社では、株式譲渡によるM&Aについて随時無料でのご相談を承っております。

個人で株式譲渡を実施したいと考えている方は、ぜひご連絡ください。

※参考記事

No.3217 時価より低い価額で売ったとき 国税庁

No.4423 著しく低い価額で財産を譲り受けたとき 国税庁

株式の低額譲渡・高額譲渡を行った場合の課税関係 AZXブログ