事業売却を個人が行う方法とは【M&Aのプロが徹底解説】
2020.09.15 会社・事業を売る法人が行うイメージが強い事業売却は、実は個人事業主が実施することもできます。
ただし事業売却を個人が行う場合、手続きの流れや課税される税金などは法人と大きく異なります。
したがって、個人事業主が事業売却を行う際には、法人のケースとは異なる知識が必要です。
今回の記事では、事業売却を個人が行う場合に知っておくべき事柄を詳しくご説明します。
事業売却を個人が行うメリット
個人事業主にとって、事業売却には様々なメリットがあります。
まず最大のメリットとなるのが、売却利益の獲得です。
事業規模や業種などで異なるものの、個人事業の売却でも数百万円の利益は十分狙えます。
また、事業承継問題の解決にも事業売却は役立ちます。
身内や従業員の中で後継者が見つからなくても、第三者に事業売却すれば事業を存続することが可能です。
個人事業主による事業売却の手続き
個人事業主が事業売却を行う場合、下記の流れで手続きを進めます。
事業売却先を探す
はじめに、事業売却の相手を探す必要があります。
個人で相手を見つけるのは難しいので、マッチングサイトや仲介会社を利用するのがオススメです。
交渉やデューデリジェンスといった手続きを経て、お互いに条件面で合意できたら、正式に事業売却の契約を締結します。
取引先や顧客に連絡する
事業売却を経ると、これまで自身が運営していた事業を他の第三者が運営するようになります。
個人事業主のビジネスは、経営者個人と取引先・顧客の関係性によって成り立ってる部分が大きいです。
そのため、ある日突然経営者が変わったことで、顧客や取引先との契約が打ち切られる事態になりかねません。
したがって、必須ではないものの取引先や顧客に対しては、「事業売却を実施する旨(経営者が変わること)」を伝えておくのがベストです。
伝えるタイミングとしては、事業売却先が正式に決定する前後が良いでしょう。
廃業手続きを実施する
個人で運営しているビジネスを売却するには、売り手側の事業主が一度廃業する必要があります。
具体的には、税務署に対して廃業届や青色申告の取りやめ届出書、事業廃止届出書(消費税の課税事業者である場合)などの提出が必要です。
また、廃業により予定納税が困難となる場合には、「所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請手続き」も行いましょう。
廃業手続きが必要となる点は、法人による事業売却とは大きく異なる点なので注意しましょう。
事業の移転を行う
廃業手続きを終えたら、最後に事業の移転手続きを実施します。
具体的には、現預金や事業用資産などの名義変更を行います。
すべての資産の移転が終わり、対価を受け取れば個人による事業売却は完了です。
事業売却を個人が行った場合にかかる税金
事業売却を個人が行った場合、所得税と消費税が課税されます。
法人による事業売却とは、課税される税金の計算方法や種類が大きく異なるため注意しましょう。
所得税
個人事業主が事業売却を行った場合に、経営者個人に対して所得税が課税されます。
注意すべきは、譲渡する資産によって所得税の課税方式(計算方法)が異なる点です。
土地や建物といった一部の資産に関しては、他の所得と分離した上で税額を計算する「分離課税方式」が採用されます。
一方で、機械設備や営業権などの資産については、他の所得と合算した上で税額を計算する「総合課税方式」が採用されます。
このように、事業売却にかかる所得税の計算は、普段の事業所得と比べて非常に複雑です。
自力で税額を計算するとミスが生じる可能性が高いため、税理士に相談するのがオススメです。
消費税
消費税は、事業売却で譲渡した資産のうち「課税資産」にのみ課税されます。
有価証券や土地、債権に関しては、消費税が非課税となるため、計算の際には除外しておきましょう。
また、日々の生活でも利用している資産(車など)も原則非課税です。
ただし、事業用とプライベート用で兼用している場合は、使用率に応じて消費税が課税されるので注意が必要です。
事業売却を個人が行う場合の注意点
事業売却を個人が行うに際しては、下記3つの点に注意しましょう。
買い手にとって不動産の買収は多大な負担となり得る
土地や建物の売買では、それだけで数百万円〜数千万円もの莫大なお金が動きます。
そのため、買い手にとって不動産の買収は多大な負担となり得ます。
不動産の価格が高すぎるが故に、事業売却の提案を断られるリスクもあるでしょう。
買い手の負担を軽減するために、不動産のみは売却するのではなく「貸付」する契約にするのもオススメです。
貸付にすれば買い手の負担は大幅に軽減されるため、事業売却の提案を引き受けてもらいやすくなります。
なお貸付の方法には、有償で貸し出す「賃貸借」と無償で貸し出す「使用賃借」の2種類があります。
どちらも一長一短なので、買い手と相談した上でどちらの方法を選ぶか決めましょう。
取引先や従業員との契約は自動的に引き継がれない
会社売却とは異なり、事業売却(事業譲渡)では取引先や従業員との契約を自動で引き継ぐことはできません。
そのため、買い手側では一つ一つの契約を新たに締結する手続きが必要となります。
買い手の経営方針や従業員の処遇次第では、取引先や従業員が契約の引き継ぎを拒否する可能性もあります。
売買金額では取引先や従業員の引き継ぎも考慮されるため、引き継げる契約数が少なくなれば、売却金額も減ってしまう恐れがあります。
こうしたリスクを軽減するためには、あらかじめ買い手と話し合った上で、これまでとほぼ同じ条件で従業員や取引先と契約を締結してもらうのがベストです。
また、売り手側でも取引先や従業員と話し合いを行い、事業売却に対して理解を得なくてはいけません。
まとめ
今回ご紹介した通り、個人と法人では事業売却の手続きや税金は大きく異なります。
個人で事業売却を行う場合には、かならず個人事業主に合った知識を学ぶ必要があります。
特に廃業手続きが必要となる点は、法人による事業売却とは大きく異なる部分なので注意を要します。
今回ご紹介した情報を参考にして、ぜひ事業売却にチャレンジしてみてください。