事業売却の相場【計算方法や相場よりも高く売る方法を解説】

2020.09.07 会社・事業を売る

最終的な事業売却の価格は、買い手との合意により決定します。

とはいえ実務の現場では、判断材料として「事業価値(事業の価値を金銭的に表したもの)」が用いられるのが一般的です。

つまり、事業価値を計算すれば事業売却の相場が大体分かるというわけです。

今回の記事では、事業売却の相場(≒事業価値)の計算方法や、相場よりも高く売却を果たす方法などを分かりやすく解説します。

会社売却と事業売却の違い

そもそも、会社売却と事業売却は似ているようで全く異なるスキームです。

会社売却とは、経営権を含めて会社丸ごと売却する方法です。一般的には、株式譲渡により会社の経営権を譲渡する形で会社売却が図られます。

一方で事業売却とは、会社に経営権を残しつつ、一部またはすべての事業を売却する方法です。事業譲渡の手法により、移転する事業や資産の範囲を限定して売却することが一般的です。

事業売却の方が相場は安い

結論から言うと、会社売却と比べて事業売却の方が相場は安くなります。

会社売却では、事業用資産はもちろん、ノウハウや技術力、人材、販売網などの無形資産、経営権も含めて、会社丸ごと買い手に移転します。

将来性や市場の成長性、経営資源の希少性などを価値算定で加味するため、業績(利益)と比較すると圧倒的に高い値段で売却できるケースが多いです。

一方で事業売却の場合、特定の事業に関する資産や運営権のみを譲渡するのが一般的です。売却する範囲が狭いことから、相場は低くなる傾向があるわけです。

ただし売却金額こそ安いものの、会社の経営権や他の事業は手元に残るため、引き続き経営を続けられる点がメリットとなります。

会社売却と事業売却は一長一短なので、相場だけでなくあらゆる点を考慮した上で、どちらを実施するか決めるのがオススメです。

参考:会社売却とは?方法や手続きの流れ、価格の相場を徹底解説!

事業売却の相場を計算する方法

冒頭でお伝えしたように、事業売却では事業価値に近い金額で成約するケースが多いです。

そんな事業売却の相場(事業価値)を計算する方法には、主に下記3つの方法があります。

「時価純資産」+営業利益の3〜5年分

一般的な中小企業の場合、時価換算した純資産に営業利益の3年分〜5年分を足した金額が相場となります。

たとえば売掛金に回収不能額が含まれていたりと、帳簿上の資産・負債が実際の時価とかけ離れているケースは多々あります。

そこで事業売却の際には、資産や負債を一度時価換算することで、より正確な事業価値を算出するのです。

簡単に計算できる点がメリットとなるものの、市場の成長性やその企業の将来性・収益性などを考慮したい場合には不向きです。

DCF法

DCF法とは、今後得られるであろうキャッシュフローの現在価値を基準に、事業価値を求める方法です。

簡単に言うと「将来的な収益性」を基準に用いる手法であるため、成長が期待されるベンチャー事業の相場算定に最適です。

ただし事業計画書の収益計画を用いるため、売り手企業の主観や恣意が入りやすく、客観性に欠ける点がデメリットとなります。

また、計算にはファイナンスの専門知識を要するため、会計士やM&Aアドバイザーなどの専門家に算定を依頼するのがベストです。

類似会社比較法

類似会社比較法とは、自社と類似する事業を行う上場企業の株価指標(PERやEBITDAなど)を基準に、事業価値(相場)を計算する方法です。

主に、成長性が高いスタートアップの相場算定に最適です。

自社と似ている事業の価値を基準に用いるため、客観性の高い相場を算定できます。

ただし前例がない事業を営んでいる場合、比較対象となる上場企業が見つからないため、この方法で相場を算定するのは困難です。

また株式市場は、本来会社が持つ実力とは無関係に、政治や景気などの要因で短期的に変動するケースがあります。

こうした短期的なトレンドに振り回されて、適正な相場とは異なる価格が算定されるリスクに注意しましょう。

相場よりも高い価格で売却するには

基本的には、上記いずれかの方法で算出した事業価値に近い価格で、事業売却が成立します。

ですが実は、相場よりも高い価格で事業売却が成立した事例も少なからず存在します。

この章では、あらゆる事例を踏まえて、相場よりも高い価格で事業売却を行う方法を3つご紹介します。

優秀な人材も引き継ぎ対象とする

買収した事業で利益を生み出すには、その事業を回すためのノウハウや技術力を持つ人材が不可欠です。

買い手から見て、売り手が持つ人材は利益を生み出す源泉となります。

そのため、優秀な人材も引き継ぎ対象とすることで、相場よりも高い値段で売却できる可能性が高くなります。

ただし、事業譲渡の手法を用いる場合、従業員との雇用契約を買い手側が一つ一つ結び直す必要があります。

したがって、優秀な人材を確実に買い手に引き継ぐには、売却時に従業員から事業売却を行う旨について納得してもらわなくてはいけません。

また、従業員が買い手の下でストレスなく働けるように、これまでの待遇を変えない旨を契約で定めておくのも効果的です。

価値のある無形資産を持つ

事業売却では、建物や機械設備といった有形の固定資産のみならず、ノウハウや技術力、ブランド力などの無形資産も評価対象となります。

そのため、価値のある無形資産を持っているほど、相場よりも高値で売却できる可能性が高まります。

特に、なかなか手に入れにくい無形資産(特許技術や大手企業との取引など)は、買い手から高く評価される傾向があります。

相場以上の価格で事業売却を目指す方は、早い段階から無形資産の価値向上に努めましょう。

自社事業との相乗効果を見込める買い手に打診する

相乗効果を見込める買い手に打診するのも、相場以上の価格で事業を売却する上で有効です。

相乗効果(シナジー効果)とは、売り手事業と買い手の既存事業が組み合わさることで、それぞれ別に運営している時よりも、より大きな成果(収益など)を生み出せる効果です。

具体的に言うと、同業同士のM&Aや買い手の弱点を補強できるM&Aでは、相乗効果が生じやすいです。

相場以上の価格で売却したいならば、仲介会社にシナジー効果を見込める買い手を探してもらうようにしましょう。

まとめ

事業売却の相場は、時価純資産法やDCF法などで算出された「事業価値」とほとんど同じとなります。

しかし、優秀な人材も含めて売却したり、価値ある無形資産を保有することで、相場よりも高い価格で売却できる事例もあります。

満足いく形で事業売却を終わらせるためにも、今回ご紹介したポイントを踏まえて、相場以上の価格での事業売却を目指すのがオススメです。

参考:事業売却とは?目的やメリット、相場、税金について徹底解説!