廃業後に残るお金は?実例を元に解説!

2021.09.19 会社・事業を売る

廃業とは、経営者の判断で、好きなタイミングで事業をやめることであり、強制的に事業がストップする倒産とは意味が異なります。実際に廃業を考える際、廃業後にお金が残るか残らないかでその後の生活が大きく変わってきます。今回は廃業に手元に残るお金の計算方法を、具体的な事例をもとに解説していきます。

最後に残るお金は貸借対照表の純資産ではない

純資産とは貸借対照表において資産から負債を差し引いたものです。廃業の場合、最後に残るお金の基本的な考え方は、今ある資産を全て現金化した上で負債を全て現金化して残ったお金を計算することになります。

一方で、貸借対照表における純資産では廃業後の清算価値を正確に表現していない部分があります。例えば、簿価で土地が計上されている場合には、売却を前提としているため、売却を前提にした価値で再計算するべきです。また、従業員を解雇する場合には、割増退職金などを負債に見込計上する必要があります。

廃業後に残るお金を計算する方法

貸借対照表の資産・負債を廃業することを前提に修正し、「修正後の資産ー負債」によって廃業後に残るお金を計算することができます。

資産の修正

今ある資産価値として見直す必要があります。例えば、以下の勘定科目は修正が必要な可能性があります。

  • 流動資産:現預金、在庫、売掛金
  • 固定資産:土地、建物、建物付属設備、車両
  • 投資その他資産:投資有価証券、貸付金、保健積立金、研究開発費

流動資産について、現預金は現時点で手元にある現預金と貸借対照表上の金額に差異がある場合には、実際の残高に修正します。在庫は、短期間で売却できる金額のみを残高とする必要があります。売掛金についても在庫と同様で、債権者から回収できると思われる金額以外は、資産から落とすようにします。長期で滞留になっている売掛金があれば、当然に回収できないものとして、資産価値からは外します。

固定資産について、土地や建物などの不動産は転売可能価格で評価します。転売可能価格が検討つかない場合には、固定資産税課税明細書の評価額を参考にすることができます。建物付属設備や車両は転売可能な金額に修正することが必要です。

投資その他資産について、保有する投資有価証券は時価がある有価証券は時価で評価します。貸付金は回収可能と思われる金額に修正します。役員貸付金がある場合には、ゼロと評価しておきます。保険に入っている場合は、解約返戻金の期待額を貸借対照表額とし、研究開発費は過去の費用であるためゼロ評価となります。その他、換金可能な財産を保有していれば、売却できそうな価格で評価します。

負債の修正

負債に打ち手は以下の勘定科目について主に修正を行なっていきます。

  • 役員借入金
  • 預り金、敷金
  • 廃業するにあたり未計上の費用

役員借入金はオーナー経営者からの資金流入ですので、返済義務もなく0円とします。預り金や敷金が負債に計上されている場合には、実際に将来返還する金額にします。そして、重要なのは廃業するにあたり未計上の費用を計算することです。

例えば、廃業する際は、退職金、オフィスビルからの撤退費用、損害金(必要に応じて)、税金がかかります。雇用契約上、支払うベき退職金を計算し、負債に計上します。また、オフィスビルや店舗からの撤退費用、原状回復費用、引っ越し費用その他を見積もり計上します。売却できなそうな固定資産の処分を考えている場合は、当該処分にかかる廃棄費用も負債に計上する必要があります。また、廃業の登記に必要な費用や司法書士、弁護士、税理士などへの報酬も忘れないように見積もっておきましょう。税金は実際の廃業時に詳細な計算が必要であるため、ここでは負債に計上せず、計算を完了させてOKです。

計算は試算レベルでOK

廃業後に残るお金の計算で重要なのは、計算の正確性を求めないことです。土地の時価や在庫の転売可能額など、詳細に計算しようと思えばいくらでも実施できます。土地の時価評価であれば、不動産鑑定士から時価評価のレポートを得ることもできますし、未上場の有価証券の時価評価であれば会計事務所からバリュエーションレポートを得ることもできます。

しかし、専門家に相談するにはコストがかかり、正確な時価を把握する必要はありませんので、あくまでも簡便な計算に留めておくようにしましょう。

実際の計算事例

簡単な計算事例でおさらいしてみましょう。オーナー経営者であるあなたはA社を経営しており、現在の貸借対照表は以下のとおりです。

  • 資産4,000万円、負債2,000万円、純資産2,000万円
  • 資産に土地2,000万円が含まれており時価は3,000万円とする
  • 廃業にあたり退職金1,000万円、店舗からの撤退等に1,000万円かかることが見込まれている

資産サイドは土地の含み益を考慮すると、以下の資産額となります。

  • 4,000万円+(3,000万円ー2,000万円)=5,000万円

負債サイドは退職金、店舗からの撤退費用を見込計上することにより、以下の負債額となります。

  • 2,000万円+1,000万円+1,000万円=4,000万円

よって、修正後の純資産は、5,000万円ー4,000万円=1,000万円となります。最終的に会社に残るお金は1,000万円ですので、いつでも廃業でき、廃業後1,000万円が手元に残ることになります。1,000万円を使って、新たな事業を始めることもできますし、その後の生活は自由に選択することができます。

ただし、実際に廃業の手続を進める場合、廃業する企業での株主総会の特別決議、株主・債権者・従業員・取引先などの調整や承認、清算人の選定、法務局での登記手続、財産の分配、確定申告など多くの手続や書類の提出が必要です。各専門家にサポートを依頼し、効率的に廃業を進められることがおすすめです。

手元に残るお金がマイナスだった場合

上記の計算結果が仮にマイナスという状況の場合には、廃業後に負債を他の方法で返済しなければなりません。そのため、債務超過のケースでは、一般的にすぐに廃業するデメリットが大きいと言えます。事業で利益が出ているのであれば、手元にお金がマイナスだったとしても、事業継続することは可能です。

事業継続できている間に、M&Aによって事業売却を狙うこともできます。事業売却に成功すれば、廃業後に負債が残る計算だったのが、反対に売却益まで得られる可能性があります。

他方で、注意しなければならないのは、M&Aにかかる時間です。事業売却は誰でも短期間で成功するものではありません。専門家の力を得つつ、数ヶ月間はM&Aにコミットできる体制を作っておかなければなりません。

M&A専門家に依頼することで、手付金や成功報酬といった費用が発生することになりますが、M&Aはスピードが命です。事業売却できることの優先順位が高い場合には、専門家に相談することが有力な選択肢の一つです。

まとめ

以上のように、今回は廃業後に残るお金の計算方法を簡単な実例をもとに解説してきました。ポイントは資産を時価評価し、未計上の負債を計算することです。また、あくまでも試算となりますので、専門家に頼ることはせず、大体の金額を把握することが大切です。

試算の後は、すぐに廃業するか、M&Aに進むか、自分の優先順位に応じて意思決定を行うことができます。廃業を考えている読者の皆様の参考になりましたら幸いです。