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会社承継で社長の引き継ぎは子供がベスト?注意点やその他の選択とは

2019.03.28 事業承継
ビルと経営者

オーナー経営者から会社を譲り受けるのは、かつては子供というケースが一般的でした。しかし、昨今では従業員やM&Aによる第三者への承継も一般的になってきています。また、子供に会社を引き継ぐ場合にも、株式をどのようにして受け継がせるかという問題が生じます。会社承継で子供に引き継ぎするための方法や注意点、子供以外への事業承継という選択肢について解説していきます。

会社を子供に引き継ぐための方法

オーナー経営者が亡き後には、会社を子供に引き継がせようと考えていても、何も準備を進めていなければ、相続の問題などからスムーズに事業承継が行われない可能性があります。オーナー経営者から子供に会社を承継し、安定した経営を行うためには、できるだけ株式を後継者が保有できるように対策を進めておくことが必要です。株式の保有比率によって、経営上の意思決定に関わる権利が発生します。(詳しくは『株式の保有割合による株主の権利は?会社支配に必要な持ち株比率は?』を参照ください。)

後継者を決めて子供に会社を引き継ぐ方法は、主なものとして生前贈与と相続、売却の3つあります。

生前贈与

会社の株式の生前贈与を行うと、経営者が亡くなった後に経営権を巡る相続争いを避けることができます。ただし、贈与税の課税対象となり、贈与税は通常、相続税よりも税率が高いため、節税対策を考えることが必要です。また、生前贈与を行っていても、相続税の遺留分の問題は残ります。

贈与税の節税対策としては、暦年贈与、相続時精算課税制度、事業承継税制の3つがあります。暦年贈与とは、贈与税の年間110万円の基礎控除を利用するもので、毎年、少しずつ株式譲渡を行えば節税できます。相続時精算課税制度は60歳以上の父母や祖父母から20歳以上の子や孫に対する贈与は、2,500万円までは特別控除され、2,500万円を超えた部分については贈与税が20%課税されるものです。特別控除された部分は、相続税を計算する際に他の相続分と合わせて清算することになります。ただし、相続時精算課税制度は暦年贈与とは併用できない点に注意が必要です。

事業承継税制は、贈与する現経営者、後継者、会社のそれぞれに要件があります。円滑な事業承継を目的とした優遇税制のため、現経営者は退任することが要件の一つです。すべての要件を満たし、5年間の代表権維持と株式の保有要件の条件を満たせば、贈与税の猶予を受けられ、退任した経営者が亡くなった後は株式の保有要件などを満たせば、相続税の猶予を受けられ、最終的に贈与税も相続税も免除を受けられる制度です。万が一、事業承継税制の要件を満たさない場合には、相続時精算課税制度を併用することができます。ただし、要件や手続きが複雑なため、税理士に相談しましょう。

生前贈与は後継者にスムーズに事業承継をしやすい方法ですが、一度贈与を行うと撤回できないため、慎重な判断が求められます。

相続

相続によって子供に会社を承継させる場合、遺言がなければ、相続人による遺産分割協議で、法定相続分をもとに相続財産が話し合われます。会社の後継者に株式を集中させて相続させると、安定的な経営がしやすくなります。しかし、実際には経営権や相続財産を巡って相続争いが起きてしまう可能性があります。会社を継ぐ子供は株式などの財産を多くもらうのが当然と考えていても、他の兄弟は公平な相続を求めても不思議ではありません。そのため、株式を複数の相続人で相続し、共同経営を行うことも考えられますが、経営方針の違いから、対立してしまうことも考えられます。

そこで、後継者としたい子供に確実に会社を承継するためには、遺留分を考慮したうえで、後継者に会社の株式を集中して相続させることができるよう、遺言書を残しておくことが大切です。遺言書には、主に自筆証書遺言と公正証書遺言がありますが、自筆証書遺言は不備があると無効とされるリスクがあります。公証人役場に足を運んで公正証書遺言として遺しておくと安心です。

また、相続による事業承継も、贈与税よりは税率が低いものの、高い税率が課されます。相続による事業承継の場合も、条件を満たせば事業承継税制を活用することが可能です。

売却

オーナー経営者から子供などの親族間でも売買することはできますが、適正な評価額ではない低廉譲渡の場合は、適正な価格との差が贈与とみなされ、贈与税の対象になります。子供が十分な資金を持っていなければ難しい方法です。経営者の側は、株式の譲渡益に対して所得税と住民税が課税されます。

子供が社長を引き継ぐ場合の注意点

グラフとボールペン

オーナー経営者の子供の視点から見ていくと、親とは別の道を選ぶケースもある一方で、当然のように社長を継ぐことを念頭に置いているケースも少なくありません。しかし、「会社を継ぐこと」を甘くみていると、「こんなはずじゃなかった」という事態を引き起こす可能性があります。会社の経営状態を把握せずに事業承継を行うことは、自分の将来のリスクを背負うことになり兼ねないこともあるのです。

会社の経営状態を把握しておく

親の会社を引き継ぐことを具体的に検討する段階では、財務状況を確認して理解しておくことが大切です。子供が会社に入っている場合であっても、改めて財務状況について事前に説明していないケースが少なくないのです。

無借金経営の会社は少なく、多くの企業は借入をして設備投資などを行いながら、事業を展開しています。借金=悪ではありませんが、借入金の目的、毎月の返済額、返済が終わる時期などの返済計画は知っておくべきです。また、月次、年次といった単位でのキャッシュフローを把握しておく必要もあります。財務状況を知らずに会社を辞めて親の会社を引き継いでから、自転車操業だったという事態を知ったのでは将来にわたって不安を抱え込むことになります。財務状況を理解したうえで、会社の経営を担っていかれるか熟慮することが大切です。

個人での連帯保証を理解しておく

事業承継で問題になりやすいのは、オーナー経営者が個人で連帯保証をしている場合、後継者が代わりに連帯保証を行うことを金融機関から求められるケースが多い点です。連帯保証をしていると、会社の業績が悪化して返済ができなくなると、代わりに借金の返済を求められます。金融機関との話し合い、連帯保証を外せないか相談してみたうえで、連帯保証をして会社を継ぐ覚悟があるか熟慮することが大切です。

子供に社長を引き継いで失敗したケース

子供が事業承継をする場合、経営者である親の背中を見て育ったとはいえ、経営者の資質が備わっているとは限りません。子供が経営を引き継ぐことが失敗となるケースもあります。

ケース1:大手企業を退職して引き継ぎ経営が傾く

設備会社A社は、社長が亡くなった後、大手企業で働く兄弟が会社を辞めて、共同経営を行うこととなりました。しかし、景気の落ち込みに加えて、業種や企業規模の違いから経営が上手くいかず、関連する大手企業が買収することとなりました。大手企業の一部門となったことで、売却資金が手に入り、経営は持ち直しましたが、兄弟は再就職を余儀なくされました。これまでの経歴から再就職先は見つかったものの、以前よりも企業規模が劣る会社で再スタートを切ることになったのです。

ケース2:問題行動のある息子が社長の座を追われる

電気工事業などを営むB社は、銀行との付き合いから、先代経営者が70歳を過ぎてもリタイアできずにいました。というのも息子である専務取締役の素行が悪く、社内で商品の大型テレビがなくなったときには、専務が犯人ではと噂が立つほどでした。しかし、次第に先代経営者の健康状態が不安視されるようになったことから、いよいよ、行動を改めていたように見えた専務が社長に昇格し、先代経営者は社長に就任することになりました。しかし、社長になった途端、かねてからの素行の悪さが目立つようになるだけではなく、統率力の低さもあり、社員のモチベーションが下がったことで、業績が悪化しました。そこで、まだ株式は先代経営者が保有する状態であったこともあり、銀行から新たに社長を迎え入れ、息子は取締役に降格となりました。

社長は子供以外に引き継ぐのも選択肢

握手する男性

オーナー経営者に子供がいる場合も、子供が事業承継することが最良とは限りません。子供が継ぐ以外にも、従業員への承継やM&Aでの第三者への承継という選択肢があります。

従業員への承継

従業員への承継は、会社の役員や従業員を後継者とするもので、会社内承継とも呼ばれています。候補者となるのは、共同経営者の他、現経営者よりも若い世代の専務などの役員、若手の優秀な管理職などです。

会社や従業員への理解があることがメリット

従業員による事業承継は、会社の事業や他の従業員のことをよく知っているため、スムーズに承継しやすいことがメリットです。外部の人材や子供でも他の企業で働いていたケースのように、一から会社のことを教える必要がありません。先代経営者が築き上げた企業文化を維持しやすく、取引先や従業員からの理解も得やすいです。また、子供などの親族の中から後継者を選ぶ場合よりも、多くの人材の中から後継者を選ぶことができます。

ただし、管理職として優秀であっても、経営者として求められることは変わってくるため、経営者としての教育は必要になります。

資金力や成長性の面ではデメリットも

従業員への事業承継は、株式を譲渡するための資金がないことがネックになりやすいです。親族が株式を相続して、従業員が代表取締役として経営を担う方法も考えられますが、中小企業の場合、安定した経営を行いにくく、担い手が見つかりにくいです。また、適切な評価額で株式を譲渡しなければ、贈与税が課税されることが懸念されるとともに、オーナー経営者の老後資金の問題も生じます。さらに、事業の成長性の面では、企業文化をそのまま引き継ぐと、大きく成長していくことが難しいことが考えられます。

M&Aで第三者が承継

M&Aには様々な手法がありますが、オーナー経営者が第三者に株式譲渡を行い、事業承継を実現するケースを中心にみていきます。

創業者利益や事業の成長性の面でメリット

オーナー経営者は第三者に株式譲渡をすることで、株式の売却資金が手に入るため、創業者利益が得られることがメリットです。また、多くの買い手候補となる企業や個人の選択肢の中から、譲渡条件や事業の将来性をもとに選ぶことができます。大手や資金力のある企業の傘下に入る場合は、事業に資金が注入されることで事業拡大を見込むことが可能です。さらに、従業員の福利厚生がよくなったり、従業員教育が充実するといったメリットがもたらされるケースもあります。あるいは、買い手企業の他の事業とのシナジー効果から、成長を見込めるケースもあるのです。

M&Aの成立や融合までに時間がかかるといった課題も

M&Aによる事業承継を実現する場合、自力で買い手企業を見つけることは難しいため、M&A仲介会社を利用するのが一般的です。M&A仲介会社と契約してから、譲渡契約に至るまでの期間は、譲渡価格が数百万円から数千万円程度のスモールM&Aでは、1~3ヶ月程度で契約が成立することもありますが、半年から1年程度かかるケースが多いです。

また、通常、M&Aが成立した後、急激な変化によって従業員が大量離職するのを避けるために、しばらくの間、経営陣以外の体制を変えずにソフトランディングで事業運営を行っていくことが多いです。企業文化が融合するまでには時間を要します。

事業承継は時間をかけて準備しておくべき

事業承継は短期で実現することが難しく、事業承継計画を立てて、時間をかけて準備していくことが必要です。(『事業承継計画の基本の流れとは?3つの方法のポイントを解説!』で詳しく解説しています。)オーナー経営者が高齢化したときに、事業承継を進めていなければ、会社の経営がままならなくなることも考えられます。実際に後継者問題から黒字にも関わらず、廃業を余儀なくされている企業は少なくありません。

オーナー経営者に子供がいる場合にも、必ずしも子供への事業承継がベストではないケースもありますので、M&Aによる第三者への承継も選択肢として、早めに準備を進めておきましょう。