社長を引退する年齢は決めておくべき?円滑な事業承継のために!
2019.03.29 事業承継オーナー経営者には定年がありませんが、円滑な事業承継を実現するためには社長を引退する年齢を決めておくべきです。高齢になっても社長を続ける人が増えている要因には、後継者問題から事業承継が進まないケースがもありますが、本人の意思や周囲の引き留めから、社長業を続投しているケースもみられます。
高齢のオーナー経営者が増えている理由や引退しないことによるリスク、スムーズな事業承継のためにやっておくべきことなどについてまとめました。
事業承継のために決めておくべきこと
今は元気であっても、健康に不安を抱えるなど、経営に注力できなくなる日がいつかはやってきます。オーナー経営者はある程度の年齢を迎えたら、円滑に事業承継を進められるよう、計画的に動いておくべきです。事業承継のために決めておくべき3つのことをまとめました。
社長を引退する年齢
サラリーマンには定年がありますが、オーナー経営者には定年がありません。自らが希望すれば、何歳まででも経営者を続けることが可能です。しかし、現実的には一定の年齢を超えると、経営手腕が衰えてくるケースが多いことは否めません。
少し古いデータになりますが、中小企業庁による「2013年版中小企業白書」による、小規模事業者の経営者の年齢別の経常利益の調査をみていきます。経営者の年齢が40歳未満の場合、経常利益が「減少傾向にある」とした企業は41.0%です。年齢層が上がるごとに「減少傾向にある」企業の割合は右肩上がりに増え、60歳~69歳では61.7%、70歳以上では68.0%にも及んでいます。70歳以上の高齢のオーナー経営者が運営する企業の実に7割程度が、経常利益が減少した状態で経営を続けているのです。
高齢の経営者は、数々の経験を積んでいることによる対応力があることは、優位な点です。しかし、経営者の年齢が上がるほど、経常利益が減少傾向にあることには様々な要因が考えられますが、加齢によって判断力や時流を読む力が衰えることなどが推察されます。特に昨今では、技術革新のスピードが早いため、かつてよりも適応能力を求められます。また、ソーシャルネットワークサービスなどインターネットを使ったマーケティングが一般化してきているため、ITに慣れ親しんでいる世代の方が、マーケティング戦略を立案しやすい面もあります。
では、経営者の若返りを図ることで業績に影響はあるのか、事業承継時の現経営者年齢別の事業承継後の業績推移に関する調査を見ていきます。経営者が40歳未満の場合は、業績が「良くなった」と回答している企業が59.5%も占めています。しかし、「良くなった」と回答する企業は、経営者の年齢が40歳~49歳では46.8%、50歳~59歳では43.1%、60歳では39.9%と年齢層が上がるごとに少なくなっています。事業承継では現経営者よりも若い世代に引き継いだ方が、経営状況の改善が図りやすいといえるでしょう。
能力や健康状態には個人差があるため、一概には言えませんが、60歳や70歳といった年齢で引退して、若い世代に引き継ぐことで、会社が安定的な経営を維持しやすくなる傾向があります。また、事業承継計画を立てるうえでも、引退する時期を決めておくことが必要です。一定の年齢を超えたら、後進に道を譲ることも検討してみましょう。
経営や株式の引き継ぎ先
オーナー経営者を引退してスムーズに事業承継していくためには、早めに経営や株式を引き継ぐ先を決めておくことも必要です。子供などの親族や従業員に事業承継を行う場合には、経営者として教育する期間を踏まえて、早めに決めておくようにしましょう。
子供などの親族に承継する場合は、後継者となる親族に株式を集中できるように、遺言書を残すか、生前贈与を進めておきます。株式の保有割合によって株主としての権利が発生するため、過半数以上の株式を保有していると、単独での取締役の選出が可能となり、経営権を握ることができます。また、2/3以上の株式を保有していると単独で特別決議を成立させることができます。(株式の保有割合による株主の権利については、『株式の保有割合による株主の権利は?会社支配に必要な持ち株比率は?』で詳しく解説しています。)
ただし、子供や配偶者などには、相続財産を最低限相続できる遺留分があるため、遺留分に配慮して、後継者に承継させる相続財産を決めていくことが必要です。
取締役や優秀な若手の管理職などの従業員に事業承継をさせる場合は、資金力の問題から株式を譲渡する難しさがあります。株式は親族、経営は従業員が引き継ぐという方法もありますが、中小企業の場合、経営が安定しにくくなります。また、経常者が個人で会社の借入金の連帯保証をしている場合、連帯保証を引き継ぐことへの抵抗感も課題となるでしょう。
社長引退のその後にやること
経営を後継者に譲った後、いつまでも会社に顔を出して、経営の指示を行っていたのでは、実質的に経営をしている状態となります。社員からすると現経営者と先代経営者のいずれの判断を仰げばよいのかわからず、現経営者の求心力にも影響します。
社長引退後は、地域活動や趣味に打ち込むなど、第二の人生をどう生きるかについても考えておきましょう。
社長引退後を見据えて構築すべき体制
社長引退後に安心して後継者に任せられるようにするには、社長時代に先を見据えて準備を進めておくことが必要です。
社長の属人的な事業価値を維持するための移行
中小企業では、オーナー経営者である社長の個人的に取引先と人間関係を築いていたり、現場の第一線に社長が立って直接指示を行っていたりするケースが少なくありません。しかし、社長の属人的な事業価値で回っている状態のまま、事業承継をした場合、いつまでも社長が顔を出さなければ会社が回らなくなります。あるいは、社長がいない状態では事業が立ち行かなくなり、事業価値が棄損する恐れさえあるでしょう。
そこで、たとえば、社長の属人的な事業価値を他の人材や組織へと移すことで維持する体制を構築することが大切です。たとえば、先に挙げた例では、後継者を決めたら取引先との人間関係を築けるように社長が尽力する、現場に権限を委譲して指揮命令系統を明確にするなどしていくことが考えられます。個人商店に近い形で経営していた企業は、オーナー経営者の引退によって、組織体制の強化を図る必要があるのです。
ナンバーツーの育成
組織体制の強化を図ることのほかにもう一つ、スムーズに事業承継をするためにポイントとなるのは、ナンバーツーの存在です。専務などの番頭格の役員がナンバーツーとして取り仕切っている会社は、社長引退後も会社が回りやすい傾向があります。そこで、従業員が後継者となる場合は別ですが、ナンバーツーとなる人材がいない場合は、社長が事業運営のキーパーソンとなるナンバーツーを育てておくようにしたいものです。
また、ナンバーツーを一人育てるのではなく、複数のキーパーソンとなる人材を育成すると、組織的な事業運営がしやすくなります。
引退しない社長が増えている?
長寿化によって昨今では引退せずに、長年、オーナー経営者が社長の座に就いているケースが増えています。後継者問題が理由であるケースが多くを占めるものの、実は他の要因も絡んでいます。
社長の年齢が高齢化
中小企業の社長は高齢化している傾向にあり、70代や80代の社長も珍しくなくなってきました。中小企業庁による「2017年版中小企業白書」によると、社長の年齢のボリュームゾーンは1995年には47歳でしたが、2015年には66歳になり、20年間で19歳も上がっています。つまり、一般的な企業のサラリーマンでは引退している年齢の社長が数多くいるのです。
後継者不足が要因の一つ
中小企業の社長が高齢になっても引退しない要因の一つとして、後継者不足が挙げられます。「2017年版中小企業白書」による後継者の選定状況に関する調査では、30.9%の企業が「後継者候補がいない」と回答しています。約1/3の中小企業では、後継者が決まらず、事業承継の準備を始められない状況となっているのです。
周囲が引退を引き留めるケースも
後継者問題以外に社長が高齢になっても続投する要因として挙げられるのは、、社長自らが生涯現役を貫こうとするケースのほか、周囲による後押しから社長を続けているケースです。
古参の役員は社長の引退とともに自らも引退を迫られる可能性があり、社長に取り立てられている管理職の中にも、現状維持を望む声を挙げる人は少なくないでしょう。また、取引先の金融機関の担当者なども、経営陣が変わると取引先が離反することなどを恐れ、変化を好まないケースがあります。
こういった理由から、周囲が「社長、まだまだ一緒に頑張りましょう。」と盛り立てていることも、社長の引退が遠のく要因となっているのです。
高齢の社長が引退しないリスク
高齢となった社長が引退せずにいると、役員全体が高齢化し、会社の雰囲気に閉塞感が漂うようになると、若手人材の採用が難しくなります。社員の平均年齢が上がり、人材が固定化することで、さらに閉塞感が否めなくなり、事業も成長を遂げにくくなります。さらに、事業承継計画を立てていない段階で社長が病に倒れると、個人商店に近い企業ほど、たちまち事業が立ち行かなくなることが懸念されます。高齢の社長が引退しないことは、企業経営に大きなリスクをもたらすのです。
経営者は引退年齢を決めておくべき
オーナー経営者に、周囲が引退を進言するのは難しいものがあり、反対に、自己の利益から社長引退を望まない人もいます。オーナー経営者は会社の将来を思うのであれば、社長を引退する年齢を自ら決めておくべきといえるでしょう。
後継者がいない場合はどうする?
現実的には、後継者問題から引退したくても引退できないオーナー経営者もいます。廃業という道を選ぶと、従業員が路頭に迷うことも考えられます。子供などの親族、従業員以外の事業承継の選択肢として、M&Aで第三者への承継が挙げられます。
M&Aで第三者に売却すれば雇用を維持できる
M&Aとは、「Merger=合併」と「Acquisitions=買収」から、企業の買収による合併という意味です。株式譲渡などの手段により、M&Aで第三者に売却すれば、買い手となる企業または個人によって、事業承継がされ会社を存続させることが可能となります。また、株式譲渡の場合、、新たな株式の保有者が選出する経営陣によって経営が担われますが、法人格は残ります。経営陣の変更という変化のため、雇用契約も基本的に引き継がれるため、従業員の雇用は維持されるのです。さらに、買い手企業によっては、クロスセリングや規模の経済によるシナジー効果によって、更なる成長を実現できる可能性があります。
また、オーナー経営者は株式譲渡による売却資金を手にすることができますので、老後の資金などとして活用することができます。
M&A仲介会社に相談しよう
M&Aによる第三者への事業承継を実現するためには、買い手となる企業または個人を探さなければなりません。しかし、自社で買い手を探し、条件交渉を行って契約成立まで実現させるには、財務や法務、労務などに関する幅広い知識が必要であり、人的リソースを必要とします。また、M&Aが成立する前に社内で噂が広まって、離職者が続出する事態を避けるためにも、自社で対応できることには限りがあります。
そこで、M&Aによる事業承継を考えたら、M&A仲介会社の利用がおすすめです。M&A仲介会社に依頼すると、買い手候補のリストアップが行われ、まずは、企業名を伏せたノンネームシートによる打診が行われた後、興味を持った企業に対しては秘密保持契約を結んだうえで、詳細な情報の開示が行われます。その後、トップ会談や条件交渉を経て、基本合意契約を結んだ後、買い手企業によるデューデリジェンス(買収監査)を経て、最終的な譲渡契約に至る流れです。M&A仲介会社を利用すれば、M&Aが成立するまでの一連の流れにわたってサポートを受けることができます。
また、M&A仲介会社によっては、基本合意契約、あるいは譲渡契約を結ぶまでは一切費用は無料となっていますので、まずは相談してみましょう。