なるべく高い金額で事業売却するための10個の戦略を徹底解説!

2021.08.01 会社・事業を売る

事業売却を考えている場合、売り手としてはなるべく高い金額で売却したいと思うのが通常です。どのようなアクションを取れば、企業価値を高く評価され、高い価格で事業売却できるのか、8つの戦略を解説していきます。

1.自分の事業の強みを理解する

事業売却を進めるにあたり、自分の事業の強みはどこにあるのかをしっかりと理解しておくことが重要です。過去の売上・利益といった財務諸表上の数字が事業売却金額に与える影響はもちろん大きいと言えます。

市場におけるシェアが高いなど、自分の事業の強みを理解することで、どのような買い手にマッチする案件なのかということが分かるようになります。また、買い手に対しても、事業の強みを適切にアピールすることにより、事業売却の成功確率を上げることができます。

また、事業以外のポイントとして、M&Aスキームが挙げられます。M&Aスキームは株式譲渡、事業譲渡、合併、会社分割、株式交換、株式交付など様々な再編の手法があります。例えば、会社分割を利用すると、自社の不採算部門のみを切り出して事業売却することもできます。

株式譲渡は売り手である株主から買い手へ経営権を移譲しやすいが、簿外負債を引き継ぐリスクがあるなど、どのスキームもメリット・デメリットがあります。会計や法人税、消費税といった税務上の処理もスキームによって大きく異なります。中小企業のM&Aであれば会計処理は大きな問題になることは少ないですが、上場企業が買い手の場合には、のれんや減損について検討しなければなりません。

合併は対象会社に繰越欠損金がある場合には、一定の条件を満たせば買い手が繰越欠損金を引き継げる場合もあります。繰越欠損金を引き継ぐことができれば、買い手の本業の利益と繰越欠損金をぶつけることで税金を節税することが可能になります。

買い手に応じてスキームを変化できるようにしておけば、買い手からの評価が上がる可能性があります。

2.買い手が検討に必要な資料を整備しておく

買い手は事業買収前に初期的なデューデリジェンス(対象事業の調査)、専門家を起用した財務税務や法務等に関するデューデリジェンスを実施します。

買い手の気持ちになり、買収に当たり知りたい情報は何かを考えた上で、あらかじめ資料を整備しておくことが重要です。事業内容、案件規模、業種・業態、企業が抱えている課題などによっては将来の事業計画が必要となる場合があります。

例えば、現在の売上、利益、資産、負債、純資産などの基本的な財務基盤は小さいものの、技術的な強みがあるなど将来の成長が高く見込まれる場合には、特に事業計画が必要になります。

事業計画がない場合には、現在の財務諸表やKPI推移などの実績から事業を評価せざるを得ません。将来の事業計画があれば、事業計画から得られる将来キャッシュフローを算出し、DCF法によりそれぞれの買い手候補ごとに、評価額を算出することもあります。

ただし、実現可能性のほとんどない事業計画を提出してしまっては逆効果になってしまう点は留意が必要です。買い手は売り手から提出された事業計画をそのまま鵜呑みにするのではなく、売り手や取引先へのヒアリング、自社やコンサルティング会社での分析、市場調査などを通じて、事業計画の実現可能性を厳しく評価します。

実現可能性の著しく低い事業計画を提出し、ヒアリング時にもうまく回答できなかった際は、買い手との信頼関係を損ねてしまう可能性もあります。そのため、実現可能性があり、合理的に説明可能な事業計画を作成することがポイントです。

買い手から依頼された後に必要資料を作成したのでは時間軸的に遅くなってしまいます。必要と思われる資料がない場合には、専門家の支援も得ながら準備を進めておくと良いでしょう。

3.魅力的な提案資料の作成

ノンネームシートや案件概要書の内容を、買い手にとって魅力的な内容とすることで、事業売却金額の増加や成功確率アップが見込まれます。

上記資料は、M&A仲介会社やFAが作成することが一般的ですが、売り手自身も十分な協力を行うことで魅力的な内容とすることができます。M&Aマッチングサイトなどで自分だけで事業売却を進める場合には自らが作成する必要があります。買い手にとって買収したいと思われるよう、情報や自社の強み、各種データ類など基礎的な情報を整備しておくようにしましょう。

買い手側は、M&AマッチングサイトやM&A仲介会社からの紹介などで、同時に複数の案件を検討するものです。資料が見にくかったり、分かりにくかったりする場合、検討に時間をかけない可能性もあります。

どうすれば見やすい資料またはwebページの表示になるのか、分かりやすくなるのか、第三者であるアドバイザーから支援を受けることもおすすめです。目に止まりやすく、明確な提案資料となるよう改良を加えるようにしましょう。

4.買い手候補を増やす

事業売却は最終的には1社の買い手候補に絞られます。買い手を絞り込むプロセスで、新規に買い手候補を複数獲得できていれば、より条件の良い買い手を選択することができます。

反対に買い手候補が1社しかいなければ、悪い条件を提示されても飲まざるをえず、売却金額も安くなってしまう可能性が高まります。また、仮に交渉がブレイクした場合に、複数買い手候補がいれば、2番目に条件の良い候補と交渉を進められる可能性もあります。

買い手候補を増やすためにはやはり、買い手候補へのアプローチ数を増やすことが重要です。多くの買い手顧客を有するM&A仲介会社へ依頼する、M&Aマッチングサイト、M&A関連のwebサイトに登録するなどのアクションが考えられます。

一方、買い手候補が多くなればなるほど、それぞれのプロジェクト管理が難しくなる点は留意が必要です。適切にプロジェクト管理を行わなければ、事業売却の成功確率は著しく下がってしまいます。状況に応じて戦略的に望ましい買い手候補に絞ることが重要です。

買い手候補を絞る際は、買い手候補が本当に買う気があるのか、十分な資金を本当に持っているのかは注意しておく必要があります。いくら高い金額を提示されたからといっても、冷やかし半分で本当は買う気がなかったという一部の買い手にデューデリジェンスのプロセスに進めててはいけません。

M&A仲介会社やFAからの紹介の場合、ある程度買い手の質は担保されていますが、経営者1人でマッチング先と交渉する際は、買い手相手が本当に信頼できるのか、事業を取得できる能力があるのかに留意しておく必要があります。

5.入札形式で事業売却プロジェクトを進める

買い手候補を複数集めることで、入札形式で事業売却プロセスを進められるようになります。規模の大きい案件では、1次入札、2次入札とさまざまな買い手候補に提供する情報を絞りながら、より条件の良い買い手を比較し、1社に絞ることができます。

入札の際は、意向表明書と呼ばれる資料を買い手から売り手に提出します。売り手は複数の意向表明書の中から魅力的なオファーを選ぶことができるのです。

意向表明書の内容は、買収金額だけでなく、今後のスケジュールや希望スキーム、人材の引き継ぎ方針、社名・ブランド名の変更について、デューデリジェンスの内容など様々な要素が含まれます。特に売り手にとって、今後のスケジュールは重要です。例え最も事業売却金額が高いとしても、デューデリに数ヶ月かかり、契約締結まで長期間必要な買い手候補であれば見送ることもあります。買い手にとっては希望売却金額までは出せないが、デューデリのスケジュールや契約・実行日を早めることができれば、他の競合と差別化でき、第一候補として選ばれる場合もあります。

売り手にとって、従業員の引き継ぎが絶対条件の場合にも意向表明書の中で、必ず従業員の引き継ぎ方針についての記載を買い手候補に求めることになります。

6.売り手FAを起用する

売り手が買い手と金額交渉するのに自信がない場合、売り手FAや仲介を間に挟むことがおすすめです。M&Aを成約させるためには、会計・税務・法務・事業・ビジネス・ITなど様々な分野で知見やノウハウが必要であるため、難しい事項はプロに任せると上手くいくケースが多くあります。

また、いざ本格的に交渉が始まると自分の本音をうまく買い手に伝えるのは難しいものです。場合によっては交渉決裂し、事業売却できないリスクもあります。

交渉の間に入ってもらうアドバイザリーを起用することにより、交渉の論点を整理し、うまく着地できる確率を高めることができます。売り手と買い手のFA同士が交渉することもあります。

報酬体系は「金額×手数料率」と事業売却金額が高くなればなるほど成功報酬も高くなるため、なるべく高い金額で売却したい売り手と売り手FAの利害関係は一致することになります。

なお、手数料率はレーマン方式と呼ばれる方法により計算されることが一般的で、案件の金額が高くなれば手数料率は低くなり、最終的な料金も安くなります。

また、売り手FAを起用することによるもう一つのメリットは事業売却のスピードを早められる点です。M&Aが成約するかどうかはスピードが大事な要素になります。売り手FAが明確な全体スケジュールを策定してくれて、多数の利害関係者がスムーズに動きやすくなります。

通常、事業売却は資料の準備、案件化、買い手へのアプローチ、秘密保持契約の締結、買い手での初期的な検討・交渉、法的拘束力のない基本合意書の締結、デューデリジェンス、契約交渉、条件の合意、最終契約書の締結、譲渡実行と数多くのステップがあります。1人で事業売却する場合には、上記を全て1人で実施しなければならず、M&Aの知識やノウハウがなければ時間が多くかかってしまうことが予想されます。

売り手FAはM&Aの実務経験が豊富で業種・業態を問わず、スピード感を持った支援を行うことが可能です。自社の評価額が大きくなるようなアドバイスも得る事ができます。

事業売却成功の対価としての手数料が発生してしまうというデメリットと成約確率や評価額を大きくできる可能性があるというメリットを比較検討のうえ、売り手FAのサービスを活用するかどうかを判断することがおすすめです。最初の相談事態は無料である場合が多いので、1人で悩みを抱え込まずに、まずは気軽に相談して、信頼のできる成功事例の多いM&A専門のプロフェッショナルを選定してみましょう。

7.引き継ぎサポートを手厚く行う

買い手として、事業買収がうまくいくかどうかは、売り手の引き継ぎサポートの手厚さ次第で大きく成功確率が変化します。買い手は事業をそのまま引き継ぐことが重要であり、買収後にうまく経営することができなかった、キーマンとなる従業員がやめてしまった、重要な取引先が離脱してしまったなどの重大事態となれば、見込んでいたシナジーを実現できず投資回収が難しくなります。

そのため、事業譲渡契約書上、引き継ぎの条項を作り、売買の前に3ヶ月間程度の引き継ぎサポートを有償で提供するなどの方法が考えられます。もちろん、買い手の要望次第ではありますが、引き継ぎ料を含めれば、より高い事業売却金額とすることもできます。

買い手からのオファー金額が自身の希望金額に満たない場合、引き継ぎコンサル料などが必要でないか交渉してみても良いでしょう。例えば、株式譲渡による売却金額1億円+3ヶ月間のコンサル報酬2,000万円などと分けることができます。希望金額と投資可能額に開きがあるケースで利用できる手段の一つです。

上記のケースでは、買い手側は、株式購入代金は買い手は損金算入することはできず、税金を減らす効果はありません。しかし、コンサル料に関しては通常の費用と同じ様に損金算入することができるため、将来の節税につなげることができます。売り手のエグジット金額が大きくなるだけでなく、買い手の税務メリットが生じる場合もあります。

8.売却タイミングを変えてみる

M&Aの動向は経済動向にも関係性があり、売却金額についてもある程度影響を及ぼします。例えば、リーマンショックの直後などは買い手側がほとんどおらず、売主が事業売却したくとも価格がつかない事例がありました。

また、業種・業界・業態や市場によって価値が付きやすい時期と付きづらい時期というものが存在します。例えば、一昔前にはSaaS関連は高いバリュエーションが付き、資金調達も容易な時期がありました。不祥事が明るみに出た業界では、M&Aの売り案件一覧に多くの案件が登録されますが、買い手が積極的に検討しづらいということもあります。

2020年から2021年はコロナ禍というタイミングではありますが、クロスボーダー案件は買収を中止された大型案件はあったものの、世界的な金融緩和による金余りなどを背景に、近年のM&A市況は活発で拡大しています。買い手が豊富にいた方が、需要>供給であり、売主有利の状況となります。売主有利であれば、相場もよく現在事業売却を考えているのであれば、想定売却額も上がっており、良いタイミングと言えるでしょう。事業売却を行う際は、現在のM&A市況、相場、どのような買い手が多いか、最新の事例などを把握のうえ、買い手と交渉に臨む様にしましょう。

M&A市況が良いにも関わらず、現在事業売却のプロセスを進めたが失敗に終わってしまった場合、事業売却自体を諦める必要はありません。M&Aの買い手は無数におり、積極的な事業譲受を考えているシナジー効果が大きい買い手は、世界のどこかに必ずいることでしょう。自社に弱みがあるから事業売却に失敗したのではなく、単にタイミングの問題ということもあります。タイミングを変えて、再度、買い手候補を探すと良い結果が生まれることもあります。

9.仲介会社、マッチングサイトを変更する

すでに事業売却のプロセスを進めているが、買い手や後継者が見つからない、クロージングできなかったなど、結果が出ていない場合、仲介会社やマッチングサイトを変更することも戦略の一つです。買い手候補は全ての仲介会社やマッチングサイトを利用しているわけではありません。

各M&Aサービスによって、買い手顧客の数と質に大きな違いがあります。例えば、大手仲介会社であれば、大企業など資金力の高い顧客を抱えていることが多く、マッチングサイトであれば個人や中小企業が多いといった特徴があります。

自身の対象事業に合ったM&Aサービスを利用する必要があり、買い手候補が少ない、査定金額が希望よりも大きく低いといった場合には、仲介会社やマッチングサイトを変えてみると良いでしょう。

ただし、仲介会社の媒介契約によっては独占的な仲介契約が決められている場合があり、他社の仲介会社で事業売却が成立した場合、変更前の仲介会社からも成約手数料が請求される場合がある点に留意が必要です。

M&Aプラットフォームやアドバイザーを変更する場合には、自分が契約している契約内容をきちんと確認した後に変更手続をする様にしてください。

10.経営努力による事業価値を上げる

短期的には事業価値を上げることは難しいと言えますが、より長期的な目線で事業売却を考えているのであれば、経営努力による事業価値向上が最も根本的で効果の高い施策です。

事業売却金額がいくらになるかは、対象事業の財務数字が大きく影響します。企業価値の算定方法であるDCF法、マルチプル法、修正純資産法、年買法などありますが、どの手法も財務数字(売上、営業利益、経常利益、純利益、総資産、純資産や含み益など)が計算の基本になっています。

もちろん、一朝一夕で財務数字をよくすることは難しいでしょう。営業、仕入、製造、生産、マーケティング、管理、システムなど自社の全てのプロセスを見直し経営改善していく必要があります。役員、従業員と組織の課題について、ディスカッションすることも有用です。仕入コスト見直しのため、取引先と交渉しなければならない状況もあります。

短期的にPL改善する方法は固定費など余計な支出を減らすことが考えられます。例えば、家賃が高すぎると思えば、時間をかけてでもより安い家賃の場所へ引っ越すことができます。新聞図書費、観葉植物費、リース費、会費など金額が安い固定費も、本当に必要なのかどうか費用対効果を考えてみると良いでしょう。

小さな金額だからといってコスト削減の対象としないのではなく、一枚一枚のコスト伝票全てを網羅的に確認する機会を設けることも効果的です。1人ではコスト削減の実施が難しい場合には、コスト削減アドバイザー、コンサルティング会社など外部の専門家に相談してみることも一つの方法です。

財務数字が改善した後に、仲介会社やマッチングサイトに再登録してみると、買い手候補からの反応が変わってくることでしょう。

まとめ

以上、事業売却を進めるに当たり、事業売却金額を高くするための10個の戦略を解説してきました。事業売却金額自体は交渉を時間をかけて行うというよりは、準備段階の方がより大切です。

準備を入念に行い、売却の実務プロセスにおいても穴のないように、慎重にプロジェクトを進めなければなりません。事業売却は、株式譲渡、事業譲渡、合併、会社分割など様々なスキームで実現可能ですが、スキームによって売り手の税金に大きな影響を及ぼす場合もあります。

信頼できるM&A専門家や公認会計士、税理士、弁護士といった各専門家に適宜相談しながら事業売却の準備を進め、複数の買い手候補にアプローチすることで、より高い金額での事業売却を目指しましょう。