株式譲渡の制限とは?メリットや譲渡手続きを解説!
2020.11.19 M&A知識大半の中小企業では、自社の株式に譲渡制限を設けています。
上場企業のように自由に株式の売買を遂行出来ないので、株式譲渡によるM&Aでは所定の手続きが求められます。
そこで今回は、株式譲渡制限の意味やメリット、譲渡制限がある場合のM&Aの手続きについてお伝えします。
株式譲渡制限とは
株式譲渡制限とは、会社の株式を第三者に譲渡する際に、会社の承認を得る手続きを必要とすることで、自由に株式を売買出来なくするルールです。
会社法127条により、株主は原則自由に保有している株式を第三者に譲渡することが認められています。
しかし例外的に、会社法107条1項のルールにより、譲渡する際に会社からの承認を得ることを必須とするように定めることが可能となっています。
このルールこそが株式譲渡の制限です。
なお、すべての株式に譲渡制限を設けている会社は「株式譲渡制限会社」と呼ばれます。
一方で、一部の株式のみでも株式譲渡に制限が設けられていない会社は「公開会社」といいます。
参考:会社法 – 衆議院
株式譲渡に制限をかけるメリット
株式譲渡に制限をかけると、下記3つのメリットがもたらされます。
第三者に株式を勝手に取得されるリスクを無くせる
株式譲渡に制限をかける最大のメリットは、第三者に株式を勝手に取得されるリスクをなくせる点です。
株式譲渡に制限がない場合、取引先などに全株式を取得されて経営を乗っ取られたり、外部の株主に経営に口出しされて、意思決定がスムーズに進まなくなる可能性があります。
実際に公開会社である上場企業では、敵対的買収により経営陣が追いやられたり、株主の意見により経営陣の意思が通らないなどの事態が往々にして生じます。
一方で株式譲渡に制限をかければ、好ましくない人物や会社に株式が移動する事態の阻止につながります。
そのため、敵対的買収や意思決定の滞りを阻止出来ます。
また、相続などによる株式の分散も防止出来るため、スムーズな事業承継の実現にもつながるでしょう。
役員の任期を10年まで延長出来る
公開会社の場合、取締役および会計参与は2年、監査役は4年が任期となっています。
一方で株式譲渡制限会社の場合、それぞれの役員の任期を最大10年まで延長出来ます。
任期を長く設定することで、それだけ面倒な手続きを遂行する間隔を長く出来るので、手間や労力の削減につながります。
取締役会を結成せずに済む
公開会社では、取締役会の結成が必須となります。
一方で株式譲渡制限会社では取締役会の結成が任意であるため、最低でも取締役1名のみで会社を設立・維持出来ます。
以上が株式譲渡に制限をかけるメリットです。
上記のようなメリットがあることから、ほとんどの中小企業では株式譲渡に制限が設けられています。
譲渡制限がある場合の株式譲渡
株式に譲渡制限が設けられている場合、通常の手続きに加えて、「株式譲渡の承認請求」と「取締役会・株主総会による譲渡の承認・不承認の決定」という2つのプロセスが追加されます。
この章では、それぞれの手続きの概要や、承認されたパターンと不承認となったパターンの流れをお伝えします。
売り手の株主による株式譲渡の承認請求
まずは会社法第136条の定めにしたがって、株式を保有する株主は会社に対して、株式譲渡を承認するように請求しなくてはいけません。
なお請求の際には、「株式譲渡承認請求書」と呼ばれるものを作成し、それを会社に提出します。
株式譲渡承認請求書に記載すべき内容は、会社法第138条に基づいて下記の内容を記載するのを要します。
- 第三者に譲渡する譲渡制限株式の数
- 譲渡制限株式を取得する者(買い手)の氏名若しくは名称
- 株式会社が承認をしない旨の決定をする場合において、指定買取人が譲渡制限株式を買い取ることを請求する旨
取締役会若しくは株主総会による株式譲渡の承認・不承認の決定
次に、会社側にて取締役会若しくは株主総会を開き、株式譲渡を承認するかどうかを決定します。
なお会社側は、請求者に対して決定事項を通知するのを要します。
株式譲渡の承認請求日から2週間以内に通知を遂行しないと、無条件で承認したものとみなされるので注意しましょう。
株式譲渡が承認された後の流れ
株式譲渡が承認された場合には、売り手と買い手で正式に株式譲渡契約を締結します。
株式譲渡契約では、主に下記の事項を契約書に盛り込みます。
- 基本事項(売買金額や売り手の住所、譲渡対象の株式数など)
- 売買代金の支払い方法
- 表明保証
- 契約解除に関する事項
- 損害賠償に関する事項
- 競業避止義務
基本的には、M&Aの交渉過程を経てお互いが合意した内容を盛り込みます。
契約後に株式の交付や対価の支払い、株主名簿の書き換えを実施すれば、すべての手続きは終了となります。
株式譲渡が不承認となった後の流れ
一方で会社側が譲渡制限株式の売却を認めないと、承認したときの手続きとは流れが大きく異なります。
不承認となった場合、会社若しくは会社指定の買取人(指定買取人)が請求対象となった譲渡制限株式を買い取らなくてはいけません。
なお会社が買い取るパターンと指定買取人が買い取るパターンでは、やや手続きが異なるので別々にお伝えします。
会社が譲渡制限株式を買い取るパターン
会社が譲渡制限株式を買い取る際には、株主総会を開き、「対象株式を買い取る旨」と「買い取り対象となる株式の数」を決定し、それを通知しなくてはいけません。
指定買取人が譲渡制限株式を買い取るパターン
一方で指定買取人が譲渡制限株式を買い取る際には、指定買取人自身が「指定買取人として指定を受けた旨」と「買い取り対象となる株式の数」を請求者である株主に通知するのを要します。
まとめ
株式譲渡に制限がかかっている会社では、会社にとって不都合な第三者に株式を取得されるリスクを軽減出来るなど、あらゆるメリットがあります。
ただし一方で、株式譲渡によるM&Aを実施するには、会社の意思決定機関による承認手続きを要します。
会社売却を目的に株式譲渡を実施したい方は、上場企業の株式とは売却に必要な手続きが異なるので注意しましょう。
なお弊社では、株式譲渡によるM&Aについて随時ご相談を承っております。
M&Aの実施を検討している経営者様は、ぜひお気軽にご相談ください!