事業譲渡で株主総会の開催が必要となるケースとは?
2020.12.28 M&A知識事業譲渡によるM&Aでは、状況に応じて株主総会が必要となるかどうかが変わってきます。
株主総会があるかどうかで、事業譲渡で行うべき手続きは変わってくるため、あらかじめ必要なケースを把握しておく必要があります。
今回の記事では、事業譲渡で株主総会の開催が必要となるケースについてわかりやすくお伝えします。
事業譲渡における株主総会とは?
事業譲渡における株主総会とは、事業譲渡の実施可否を株主の間で決議をとる手続きです。
株主総会には「普通決議」、「特別決議」、「特殊決議」という3種類の決議があり、それぞれ議題が可決される要件は異なります。
事業譲渡では「特別決議」が必要であり、その可決要件は下記の通りです。
- 定足数が「行使できる議決権の50%超」である
- 出席している株主の議決権のうち3分の2以上が賛成する
見てもらう通り、事業譲渡が可決するための要件は決して易しくありません。
事業譲渡をスムーズに遂行するには、株主からの理解を得ることが大切であると言えるでしょう。
事業譲渡において株主総会が必須となるケース
会社法第467条では、事業譲渡で株主総会が必須となるケースを複数定めています。
この章では、特に注意すべき3つのケースをご紹介します。
事業の全部譲渡
会社内にあるすべての事業を売却する際には、株主総会の開催が必須となります。
経営権のみを残し、すべての資産や権利義務を譲渡するケースが該当します。
事業の重要な一部の譲渡
特に重要な事業(権利や資産など)を売却する場合も、かならず株主総会を開催しなくてはいけません。
重要な一部の譲渡とは、「売却する資産の帳簿価額が、売り手企業の総資産額の5分の1を超えている事業譲渡」のことを意味します。
例えば総資産が1億円、譲渡する資産の合計金額が3,000万円の場合、総資産額の5分の1を超えているため、重要な一部の譲渡として特別決議の開催が必要です。
なお実務では、事業全体に占める譲渡事業の売上高や利益、従業員などの割合や、会社のイメージに与える影響なども、重要性の判断材料とされます。
事業の全部譲受け
上記2つのケースは、売り手側から見た要件です。
買い手側は、主に事業の全部譲受けに該当するケースで株主総会の開催が必須となります。
ちなみに事業の全部譲受けとは、売り手企業が有する事業(資産や権利義務など)のすべてを買収することです。
事業譲渡で株主総会が不要となるケース
一方で会社法第468条では、事業譲渡で株主総会が不要となるケースについても定めています。
下記2つのケースに該当した場合には、467条の条件をクリアしていても、株主総会の開催は不要となります。
譲渡資産の帳簿価額が自社の総資産の5分の1を超えない
買い手がすべての事業を買収するケースでも、譲渡資産の帳簿価額が純資産の5分の1を超えない場合には、株主総会は不要となります。
例えば買収する資産の合計額が1億円で、売り手の純資産が6億円の事業譲渡では、株主総会を省略することができます。
売り手が買い手の特別支配会社である
もう1つのケースは、売り手側が買い手の特別支配会社である場合です。
特別支配会社とは、ある株式会社の総株主の議決権のうち10分の9以上を保有する会社のことを意味します。
つまり、売り手が買い手の議決権株式をすでに90%以上保有している場合には、特別決議を経ずに事業譲渡を遂行できるわけです。
このケースでは、売り手側の意向により会社の意思決定が左右されるため、最初から特別決議を省略できるわけです。
事業譲渡で株主総会を行う際の手続き
事業譲渡に際して株主総会を行う場合、下記4つの手続きを行います。
株主に対する事業譲渡を行う旨の通知・公告
会社法第469条の定めにより、事業譲渡に反対する株主は自身が持っている株式を公正な価格で買い取ることを請求できます。
その機会を確保するために、事業譲渡を行う会社は効力発生日から20日前までに事業譲渡を遂行する旨を通知する必要があります。
ただし、下記のケースに該当する場合には、通知を公告に代えることができます。
- 事業譲渡を遂行する会社が公開会社である
- 株主総会の決議によって、事業譲渡に関する契約の承認を得ている
株主への株主総会の招集通知
株主総会の開催に際しては、株主総会の開催日から2週間前(非公開会社は1週間)までに、株主総会を開催する旨を通知する必要があります(会社法第299条)。
原則的には書面にて通知する必要がありますが、株主からの承諾を得ることで、電磁的方法を使って通知することが可能です。
また、株主の全員から同意を得た場合には、一部の例外をのぞいて招集の手続きを行わずに株主総会を開催できます(会社法第300条)。
株主総会の開催
前述したケースに該当する場合には、株主総会を開催し、事業譲渡の承認を決議します。
株主総会による承認決議は、事業譲渡の効力発生日の前日までに行う必要があります。
当日の株主総会は、基本的に下記の流れで進められます。
- 株主総会の開会宣言
- 議事署名人の決定
- 監査報告の読み上げ
- 事業内容の報告
- 審議方法の確定
- 審議の遂行
- 質疑応答
- 閉会宣言
議事録の作成・保存
会社法318条の規定により、株主総会で決議した内容に関しては議事録を作成することが義務付けられています。
事業譲渡に際して株主総会を開催した場合、議事録には主に下記の内容を記載します。
- 株主総会の開催日時
- 株主総会の開催場所
- 株主総会に出席した役員や会計監査人の氏名・名称
- 議長の氏名
- 議事録を作成した取締役の氏名
- 株主総会における議事の経過及び結果
- 株主総会で述べられた意見・発言の内容
なお作成した議事録は、株主総会の日から一定期間保存しておく義務があります。保存期間は本店と支店で下記のとおり異なります。
- 本店:10年間
- 支店:5年間(一部例外あり)
まとめ
要点をまとめると、買い手が全く自社と関係のない相手であり、かつ大規模な事業譲渡では株主総会が必要となります。
株主総会が必要な場合、行うべき手続きが通常よりも多くなります。
あらかじめ株主総会の有無を確認し、スピーディーに準備を進めましょう。
参考:会社法 e-Gov