事業承継を株式譲渡で行う方法とは?メリットや相続との違いを解説!
2020.10.01 事業承継事業承継といえば、先代経営者が亡くなったタイミングで、相続により自社株などの引き継ぎを行う方法が一般的です。
ですが実は、株式譲渡により事業承継を遂行する方法もあります。
今回の記事では、事業承継を株式譲渡で行う方法やメリット・デメリット、具体的な手続きを解説します。
目次
事業承継には「相続」、「贈与」、「株式譲渡(売買)」という3つの方法がある
「自社株をどのような形で後継者に移転するか」という観点で見た場合、事業承継は相続、贈与、株式譲渡(売買)の3種類に大別できます。
※相続と贈与も広義には株式譲渡に含まれますが、今回は分けてご説明します。
相続とは
相続とは、先代経営者が亡くなった後に事業承継を行う方法です。
基本的には遺言の内容に従って、自社株を含めて各相続人が引き継ぐ遺産の内容や金額が決まります。
遺言がない場合には、相続人同士の話し合い(遺産分割協議)により、誰がどのくらいの遺産を相続するか決定します。
なお、自社株や事業用資産の引き継ぎに際しては、後継者に相続税が課税されます。
贈与とは
贈与とは、先代経営者が生きている間に後継者に自社株を移転し、事業承継を済ませる方法です。
贈与により事業承継を果たす場合、後継者には贈与税が課税されます。
ただし年間110万円までの贈与であれば、原則的に非課税で自社株を相続可能です。
株式譲渡(売買)とは
株式譲渡とは、自社株式を後継者に売却する形で事業承継を行う方法です。
相続や贈与とは異なり有償で株式を引き継ぐ点が特徴であり、主に第三者への事業承継(M&A)で用いられます。
株式譲渡では、譲渡を行った側が得た所得に対して、所得税や住民税が課税されます。
事業承継を株式譲渡で行うメリット
事業承継を株式譲渡で行うメリットについて、経営者と後継者それぞれの視点から解説します。
経営者のメリット
経営者にとって、事業承継を株式譲渡で行う最大のメリットは株式の売却益を得られる点です。
株式譲渡では、実質的に会社を売却する形で事業承継を行います。
そのため株主である経営者は、自社株の評価額に応じた売却利益を獲得できます。
企業の規模にもよりますが、数百万円〜数億円もの売却利益を得られるため、悠々自適な生活を送れるでしょう。
後継者のメリット
後継者の視点で見ると、計画的かつ余裕を持って事業承継を行える点がメリットです。
相続の場合、ある日突然経営者が亡くなってしまい、準備や対策をしていない状態で事業承継を迎えてしまう可能性があります。
贈与だと計画的に事業承継を行えるものの、非課税で行うには多大な期間がかかります(年間110万円までしか非課税での贈与を行えないため)。
一方で株式譲渡は、先代経営者と後継者にとって都合が良いタイミングを選べます。
節税対策や後継者教育を計画的に行えるため、事業承継後の経営もスムーズに進みやすくなるでしょう。
事業承継を株式譲渡で行うデメリット
相続や贈与と比較すると、株式譲渡による事業承継にはいくつか注意すべきデメリットもあります。
経営者のデメリット
経営者から見た株式譲渡による事業承継のデメリットは、所得税や住民税が課税される点です。
せっかく売却益を得ても、合計で約20%もの税金が課税されてしまうので注意しましょう。
また第三者への株式譲渡の場合、買い手が見つからないリスクや、希望する条件で売却できないリスクがある点も大きなデメリットです。
数年経っても買い手が見つからず、費やした時間と仲介会社に支払った手数料が無駄となったり、事業承継を果たす前に先代経営者が亡くなるケースも少なくありません。
後継者のデメリット
後継者にとっては、多額の買収資金が必要となる点が最大のデメリットです。
株式譲渡による事業承継は、仕組み上会社丸ごと買収する行為に他なりません。
そのため、事業承継を果たすために数百万円〜数億円もの莫大な資金が必要となってしまいます。
株式譲渡による事業承継のプロセス
株式譲渡による事業承継は、相続や贈与とは手続きが異なります。
この章では、株式譲渡による事業承継のプロセスを手順に沿って解説します。
手順1:株式譲渡の承認請求
ほとんどの中小企業では、自社株式に譲渡制限がかかっています。
よって株式を売却したい株主(≒経営者)は、会社に対して株式譲渡を承認するように請求しなくてはいけません。
具体的には、譲渡する株式の種類や数量、買い手の名称・住所などを記載した承認請求書を作成し、会社に提出します。
手順2:企業側の意思決定機関で株式譲渡を承認
承認請求書を受け取った企業側にて、株式譲渡の承認手続きを実施します。
取締役会設置会社であれば取締役会、それ以外は株主総会で承認手続きを行いましょう。
承認手続きを終えたら、承認した旨を株主(経営者)に通知します。
手順3:株式譲渡契約の締結
株式譲渡が無事承認されたら、売り手と買い手の双方によって株式譲渡契約を締結します。
株式譲渡契約の際には、株式の数量や取引価格、売買代金の支払い方法などを記した契約書を作ります。
なお第三者に対して事業承継を実施する場合は、契約に先立ってトップ面談や価格交渉、デューデリジェンスなどの手続きが行われるのが一般的です。
手順4:クロージングおよび株主名簿の書き換え
正式に契約が締結されたら、対価の支払いや資産の移転といったクロージングが行われます。
売り手から買い手側に資産が譲渡され、その対価が正式に支払われたら、最後に株主名簿の書き換えを実施します。
株主名簿の書き換えを実施すれば、正式に後継者が株主(≒経営者)としての地位を得たことになります。
以上で株式譲渡による事業承継の手続きは完了です。
参考:M&Aにおける株式譲渡とは?手続きや税金についても解説
株式譲渡による事業承継のまとめ
売却利益を得られる点や経営者が健在のうちに自社株を引き継げるなど、株式譲渡による事業承継ではたくさんのメリットを得られます。
ただし一方で、買収資金を用意する必要があるため、相続や贈与よりも後継者の負担が増加する可能性もあります。
事業承継をどんな形で実施するかは、後継者候補としっかり話し合った上で決定しましょう。