事業譲渡は債務超過の企業でも行える?メリット・デメリットを解説
2021.01.13 会社・事業を売る会社の業績が悪い状況では、事業や会社を売れるのか悩む経営者の方がとても多いです。
特に債務超過や赤字などの問題を抱えていると、最初からM&Aの実施を諦めてしまう傾向が強いです。
ですが実は、債務超過や赤字の企業でも事業譲渡の形でM&Aを実現できる可能性は十分あります。
事業譲渡を果たせば、そのお金で負債を返済し、後継者に対してスムーズに事業を引き継ぐことも可能です。
そこで今回のコラムでは、債務超過の企業にフォーカスして、事業譲渡を行うメリットやデメリット、具体的なスキームなどの内容を解説します。
目次
債務超過と事業譲渡の概要
はじめに、債務超過と事業譲渡の意味について簡単に確認しておきましょう。
債務超過とは
債務超過とは、貸借対照表に記載された負債の総額が資産の総額を上回っている財務状態を表す用語です。
たとえば事業用資産や現預金などの合計が1億円で、金融機関からの借入金が2億円の場合、負債が資産を上回っているので債務超過となります。
事業譲渡とは
事業譲渡とは、会社の中にある一部または全部の事業を第三者に売却するM&Aの手法です。
特定の事業に属する資産や権利・義務のみが移転対象となり、経営権(≒株式)は引き続き売主の側に残るのが特徴です。
上記の性質から、事業譲渡は主に一部の事業のみを売買するケースで用いられます。
一方で会社ごと売却する際には、株式譲渡の手法が活用されます。
債務超過の企業が事業譲渡を行うメリット
債務超過の企業が事業譲渡を行うと、下記2つのメリットを享受できます。
売却した資金を債務の返済に充てることが可能
事業譲渡では、事業(資産や権利など)の売却利益を得ることができます。
小さな規模でも数百万円〜数千万円単位で利益が残るため、債務の返済に利用することで負債を大幅に減らす効果が期待できます。
事業譲渡の利益で債務超過の状態から抜け出せれば、スムーズに事業承継や廃業を行えるようになるでしょう。
従業員は安定した環境で働けるようになる
事業譲渡では、その事業に属する従業員の雇用契約も一緒に引き継がれるのが一般的です。
債務超過の企業から資金繰りが安定している企業に移籍することで、従業員の待遇が向上する可能性が考えられます。
また従業員は、買い手との契約で「いつ倒産するか分からない」という精神的な不安からも解放されることになります。
債務超過の企業が事業譲渡を行うデメリット(注意点)
一方で、債務超過の企業が事業譲渡を実施するに際しては、下記2つのデメリットに注意が必要です。
事業のみの売却だと債務は手元に残る
事業譲渡において買い手は、買収したい資産や権利義務のみを選んで取得します。
そのため、事業のみの売却では売り手企業に債務が引き続き残ってしまいます。
売却利益である程度は返済できても、債務超過の状態から必ず脱却できるというわけではないので注意が必要です。
債権者から詐害行為とみなされるリスクがある
債務超過の状態で事業譲渡を実施する際には、詐害行為となるリスクにも注意を要します。
詐害行為とは、債権者(お金を貸している人)の利益を害することを理解した上で、債務者(企業)が自身の保有する財産を減らすことを意味します。
債務超過の会社が倒産する際、企業は自身が持つ財産を売却し、そこで獲得した利益を債権者への返済資金としなくてはいけません。
しかし事業譲渡によって会社の資産を売却すると、返済の資金源となる財産が減ってしまいます。
つまり債権者にとっては、事業譲渡によって返済してもらえる可能性が低下するわけです。
債権者から詐害行為に該当するとみなされると、「詐害行為取消権」という権利を行使され、事業譲渡の効力が取り消されてしまう恐れがあるので注意しましょう。
債務超過の企業における譲渡金額の評価方法
事業譲渡における譲渡金額は、株式譲渡と同様に、企業価値がベースとなって決定されます。
ただし株式譲渡とは異なり、事業譲渡では売却する事業に属する資産や権利義務のみの価値を算定します。
企業価値の求め方は、「コストアプローチ」、「インカムアプローチ」、「マーケットアプローチ」の3種類に分けられます。
各手法の概要は以下のとおりです。
- コストアプローチ:純資産を企業価値とする方法。純資産に営業権(のれん)を足した金額を譲渡金額とするケースが多い
- インカムアプローチ:将来得られるキャッシュフローの現在価値をベースに企業価値を算出する方法
- マーケットアプローチ:類似する企業や市場での株価、過去の取引事例をベースに企業価値を算出する方法
特に債務超過の中小企業では、コストアプローチの手法で、価値算定の手続きが行われるケースが多いです。
債務超過の場合に事業譲渡や会社売却を行う方法
可能性はゼロではないものの、債務超過の企業が事業譲渡や会社売却を実施するのは簡単ではありません。
対策なしにM&Aの実施を目指しても、M&Aの相手が見つからなかったり、満足できる条件で売却できなかったりする可能性が高いです。
少しでも事業の売却可能性を高めるためにも、下記4つのポイントを押さえた上で事業譲渡を実施しましょう。
収益性や将来性が高い事業のみを売却する
前述したように事業譲渡では、一部の事業のみを選択して売買することが可能です。
そのため、収益性や将来性が高い事業のみ売却する戦略を取れば、債務超過の企業でも買い手を見つけやすくなります。
あらかじめ債務を減らしておく
事前に債務を減らしておくと、買い手がM&Aによって背負う負債や倒産リスクは軽減します。
そのため、たとえ債務超過が解消されないとしても、少しでも債務を減らすことは非常に重要です。
債務を減らす手段としては、銀行などの債権者に一部の債権を放棄してもらったり、私的整理を実行したりするのが有効です。
自社事業とのシナジー効果を見込める買い手に打診する
自社事業とのシナジー効果を見込める買い手に打診するのも、債務超過の企業が事業譲渡を実現する上で有効な戦略となります。
シナジー効果とは、複数の事業が組み合わさることで、それぞれ別に行っていたときよりも大きな効果を生み出す効果です。
たとえばM&Aによって、売上高が各社の合計よりも大きくなった場合には、シナジー効果が発揮されているといえます。
シナジー効果が見込める事業であれば、たとえ割高な金額でも買収したいと考える買い手が見つかりやすくなります。
ノウハウや技術といった無形資産の価値を高める
今すぐ事業譲渡しなくてもよいと考えているならば、ノウハウや技術といった無形資産の価値を高めるのがおすすめです。
M&Aでは、貸借対照表に記載されていない無形資産(ノウハウや技術など)も考慮した上で、最終的な買収価格が決まります。
そのため、たとえ債務超過であっても、収益性や希少性の高い技術やノウハウ、販売網などを持っていれば、買い手がつく可能性は高くなります。
特に買い手からのニーズが強い無形資産を有していれば、相場を大幅に上回る金額で売却できる可能性も出てきます。
債務超過の企業でも諦めずに事業譲渡にチャレンジしてみよう
今回ご紹介したように、債務超過の企業でも事業譲渡を成功させることができる可能性は十分あります。
M&Aの実施を諦めていたオーナー社長の方も、ぜひ一度事業譲渡によるM&Aにチャレンジしてみてはいかがでしょうか?
弊社では、中小企業のM&Aに特化したサービスを提供しています。
債務超過の状態でのM&Aをご検討している方は、ぜひお気軽にご相談ください。